第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第04話 妖精たちの戦い
その昔、この世界の地上にも人間が栄えていた頃、我ら妖精は肉体を持たない精霊のようなものだったとも人間が考え出した想像上の産物だったとも伝えられている。しかしある時、我ら妖精が使うものとは別種の法則による魔法により、人間達は妖精を今のような肉体を持つ存在として創り出したらしい。少なくとも世界各地のあらゆる妖精族の神話・伝承・民話・そのほか古くから存在する王家や貴族達の祖先が残した記録ではそうなっている。
しかし妖精を創り出して間もなく人間達はひとり残らずこの世界から消えてしまったとも伝えられている。後に残されたのはかつて人間が妖精族を創り出したという記憶と、人間が残したとされる世界各地に存在する遺跡の数々である。我ら妖精の身長の優に7倍から8倍もの身長を持った者達が暮らしていたとしか解釈しようがない巨大な建物が並ぶ都市の遺跡は、半ば朽ちかけながらも確かにそこにある。
これは人間がかつてこの世界に存在した確かな証拠なのだろうか。そうだと言う者も居れば、人間が我ら妖精族を創り出したという伝承そのものが、巨大な都市の遺跡を見た妖精が作り出したおとぎ話であり、人間がかつて存在したという考え自体が迷信であると言う者も居る。
なるほど、有りそうな話ではあるが、それでは巨大都市の遺跡の存在はどう説明すれば良いのだろう。伝説の人間では無ければ、いったいどのような存在が都市に住んでいたのだろう。
あるいはまたこう考えることもできるかもしれない。かつて確かに人間は存在したが、人間が妖精族を創り出したということは単なる迷信であると。
どこかに消えてしまった人間達がいつの日にか我らの眼前に戻ってこない限り、真実は悠久の過去の向こうの闇の中にある。
(神聖皇帝暦367年 ハットシリシュ一世著 「フルリの地へ」より)
しとしとと雨が降る中、皮のつなぎを着た数十人の人間達が隊列を組みながら周囲を警戒しつつ進んでいた。妖精が飛行する時に出すオーラの光が見えることからして、人間の他にも数名の妖精が同行しているのが分かる。おそらく兵士達である人間は疲れてはいるようだがまだまだ元気なのに対し、同行する数名の妖精達は体力も気力も限界に近いという感じで、ぐったりとしている様子が見て取れる。
まわりの木々の密度は薄くなり、ところによっては機械達によって整地された区画が目立つようになってきている。既にここはロボットの活動半径内であるのだ。その事実だけで妖精達の心理的な疲労は極度に跳ね上がっていた。
「大丈夫ですか。エラ様」
ふらふらと力無く飛行する妖精達の様子を見て、皮をつなぎ合わせた服の上に黒いマントを羽織ったリーダー格の人間の男が後ろを振り返る。
「大丈夫ですよ。ダニイル隊長。と言いたいところですが、どうやらこの辺りが限界点のようです。私たちはこの地点で待機するのが良いと思われます」
そう言ったのは、妖精の中でも魔力が強く女大魔導師とも称される老妖精のエラである。茶色と白の羽が美しい模様を描いている鳥のような羽をゆっくりと動かしながら男の肩の上に着地する。
「あなた達もそう思いませんか」
エラは今回の作戦に同行している弟子のマルナとアルナの二人の妖精に目をやった。
「はい。他の部隊との念話は通じていますが途切れ途切れです。既に機械達の影響圏ギリギリの限界点まで来たのは間違いないようです」
熱にうなされる病人のように顔を赤くし、息も荒くなっているマルナがトンボのような虫の羽を羽ばたかせて空中に静止したまま報告を入れる。平民の出にもかかわらずマルナはエラの弟子の中でも念を使った情報伝達の魔法が得意な妖精であり、まだ若い娘の身でありながらこの作戦に参加しているのだ。
「エラ様の仰せの通りかと」
マルナの妹であるアルナが言う。同じく平民の出ではあるが、その攻撃魔法は貴族や軍人階級並みだと噂されている。その為か、アルナの背中で動いているトンボのような羽はまるで鳥の羽のようにゆっくりとした動きをしていた。
「分かりました」
エラとマルナ、アルナの三人の妖精の言葉を聞き、男は強くうなずいた。
「それでは護衛の者を7名残し、我々は先へと進みます。作戦の第一段階はお任せください。必ずや成功させて見せます」
「気負いすぎないようにしてくださいね。この作戦は他の部隊との連携が何よりも大事です。完全に同期した一斉攻撃がカギとなります。それを忘れないように」
エラはそう言うと男の肩から飛び立ち、地面へと降り立った。マルナとアルナも空中から地面へと降りてきた。そしてエラの侍女である妖精達がそれに続く。アルナは日ごろからの軍事訓練の成果なのか、実際はともかく表面上は涼しい顔をしている。それに対してマルナや侍女達は既に息も絶え絶えだ。
そんな妖精達を残してダニイル隊長に率いられた数十人の人間部隊はさらに先を目指し、再び歩み始めたのだった。
今回の作戦は秋津島に上陸した機械達が勢力圏を広げないうちにそれを叩くことを目的としたものである。しかし妖精世界を侵略する機械達と妖精たちの戦いを戦争という言葉で表現すると、その実態を見誤ることになる。
各種ロボットと生産施設やエネルギープラントの集合体である機械達は、妖精の存在を認識している気配は一切無い。妖精達を戦争相手と見なしているどころか、存在そのものにも気がついていない可能性を妖精の学者達は指摘していた。
戦争であれば軍隊といった直接戦闘にたずさわる集団に対する攻撃だけではなく、それを後方で支援する生産・流通といった経済システムそのものを破壊する事が勝敗を決する最重要項目となっているのは、妖精世界も人間世界と同様の常識である。
そこで機械達の侵略が始まった当初、妖精達は自分達が考えるところの戦略的に重要な地点の防御をすべく防衛網を構築していったのだが、機械達はそんな妖精達の思惑を完全に無視して、あくまでもじわじわと侵略地域を広げていくことに専念していたのだった。
それはまるで培養地に植え付けられたカビが成長していく様に似ていたかもしれない。ともかく機械たちは文字通り機械的なまでの愚直さでその支配領域を広げてきたのだった。そしてそれは妖精にとって死の領域が広がることに等しかった。
ともかく機械たちと妖精の戦いとは戦争というものではなく、妖精が暮らせる生態系の破壊という面において自然災害にバイオハザードが追加され、さらにそこにはモンスターが住みついてしまったという理解をしたほうが良いかもしれない。
単なる自然災害であるならまずはその地域から避難した後に、自然災害が収まるのを待てば良い。しかし機械達の活動は収まることなくじわじわとその活動領域を広げていくいっぽうであり、なんらかの対処をしなければ妖精達に未来は無いのは確実だった。
そこで秋津島を防衛する妖精達は、機械たちが上陸して拠点を設けるたびにそれを破壊もしくは活動停止へと追い込むべく、延々と続く防衛作戦を展開していたのだった。
「破壊対象物、目視」
リーダーの男に向かって先頭を歩いていた若い女性が短く報告する。彼女もまた元妖精の人間である。今でこそ若い娘の姿をしているが、妖精だったときは百戦錬磨の戦士だったという強者だ。
「時間遅延は」
「ありません。作戦開始予定時刻まで、あと16分と45秒です」
女性は機械式の腕時計を見ながら報告する。妖精が機械に弱いと言っても、その機械とは電子機器のことであり、歯車や発条、振子などを組み合わせた純粋な機械式時計なら妖精に悪影響を与えることは無い。電子機器を用いない機械ならば、普通に妖精世界にも便利な道具として存在する。
しかも製作する職人がいわゆる妖精サイズであるので、人間が作る機械式時計の限界を超えた精密さを誇っているのだ。
「よし、では作戦開始までにもういちど状況を確認する。今回の作戦は多方面にて同時展開されている防衛作戦の一部をなしている。我々が破壊する対象は前方に見える変電所施設である」
リーダーの話は続く。誰もが既に知り尽くしている内容だったが、だからこそそれをもう一度聞くことによって精神の安定を保つことが出来た。要は、これから行う作戦は訓練どおりに行えば成功すること間違い無しと自己暗示をかけているのだった。
「それではこれより前方の変電所施設および隣接する通信用アンテナの破壊を行う。以上。状況、開始!」
もともと日本人と入れ替わった妖精が大半を占めるためか、軍事用語もどことなく自衛隊式である。それはともかくリーダーの命令を受けて、男女入り乱れた人間の戦士達は破壊対象物の元へと走り出した。
ちなみに機械達は直接的な被害を受けるまでは人間が行う一切の動きを無視している。会話などの意思疎通はもちろんのこと、あらゆるリアクションがみられないのだ。しかし攻撃を受けるとそれは一変する。機械施設およびロボットに物理的な被害が加えられた途端に、文字通り機械達は冷酷な戦闘マシーンへと変貌する。それは危害を加えた者を絶対的に排除する意思が存在するかのようだった。
それでも妖精達に取って幸運だったのは、その機械の認識は直接的に危害を加えた固体のみに対してであり、部隊や連隊といった戦闘集団や妖精とか人間とかの種族単位に拡大解釈されることは無かったということだった。
ただ、これは永遠に変わらない機械達の行動基準であるのか、それともまだ妖精と人間の機械への攻撃行動が機械達の認識を変化させる閾値を超えていないだけなのかは不明だった。
ともかく命令を受けた戦士達は自分達を無視して設備の保守に動き回る機械達の脇をすり抜け、生い茂っていた木々を伐採して更地にしたであろう遮蔽物の無い敷地を素早く進んでいった。
そして各々割り振られた破壊対象物に取りついた戦士たちは背負っていた背嚢から高性能爆薬と機械式の時限発火装置を取りだし、黙々と爆発物のセッティングをするのだった。
妖精をファンタジー世界の住人と考えていると、彼らの文明の本質を見誤ってしまう。確かに妖精達は体質的に電子機器からは致命的な悪影響を受ける為、彼らが持つ機械技術がいくら進歩しようともそれが電子制御されるように進化することはありえないし、そもそも電子計算機を生み出すこともない。
しかし彼らの文明の本質的な力は、魔法である。人間世界の人間が機械とコンピューターによって成し遂げているようなことを妖精達は魔法を使って成し遂げているのだ。例えば妖精達は大規模な工業システムを持ってはいないが、人間が工業システムの成果として手にする物質は、魔法を使って手にすることが出来るというわけだ。
人間が鉄鉱石を掘り出し、それを精錬および精製して純粋な鉄を手にするのに対して、妖精は鉄鉱石の在りかを魔法で感知し、そして鉄鉱石単位ではなく鉄を原子単位で召喚して目の前に引き寄せ、そして同時に望みの形に具象化するのだ。採掘作業と精錬工場、そして板金加工までを魔法の力で肩代わりして物を製造しているのが妖精の魔法なのだ。
さすがに無から有を生み出すことは出来ないし、更にどこからなんでも召喚して持ってきて良いというわけでもない。かつて大規模な鉱床の上に街が有ったのだが、その鉱床から有益な物質を召喚しすぎて大きな空洞を空けてしまい、その空洞に街が飲み込まれてしまったという事件が伝えられている。そしてそれ以来、召喚する物質の元の所在地は厳密に定められた地に限られるという不文律が出来たということだ。
もっとも近年は機械達の侵略に対抗する為の生産力向上をしなければならないということでその制限は有名無実なものとなり、自然に産出する物質に関しては世界中のどこから召喚してもかまわないということになっている。いわば緊急避難ということだ。
ちなみに誰かが人為的に製造し所有権が確定しているものを召喚するにはその製造物の所有者による同意が召喚魔法発動の条件となるので、召喚魔法を利用して盗みを働いたりするのは現実的に無理だったりする。
ともかく今、戦士達が用いようとしている高性能爆薬は人間が住む異世界の地球から召喚魔法で取り寄せたものではなく、この世界の妖精がその知識と魔法を駆使して作り出したものであった。
「変電所施設に対する爆発物の設置、完了しました。起爆開始まで残り8分17秒です」
リーダーの男に対して戦士の女性が報告する。小麦色に焼けた皮膚に一筋の汗が光る。後ろで束ねられた長い黒髪は埃にまみれながらも濡れたように光っていた。元は筋肉質の妖精の男だったとは思えないその美しい姿に、リーダーは瞬間、息を呑んだ。
「通信用アンテナのほうはどうした」
心の動揺を抑えながら、リーダーは質問をする。
「既に完了済みです」
「よし、ただちに危険地域より退避。作戦の最終段階に備える」
リーダーの命令を聞いた戦士たちは直ちに事前に決められていた集合ポイントへと向かう。そこには今回の作戦が計画された当初から事前に作られていた退避壕があった。次々と地面に掘られた壕に入る戦士たち。そして最後の戦士が壕に入り終わってからまもなく、連続する爆発音が響いてきた。
その爆発は彼らが変電所施設に設置した爆発物のみではなく、この作戦に参加しているすべての部隊が設置した爆発物が同時に爆発したものだった。アナログ機械式の時限装置によって極めて正確に同期したいくつもの爆発は、同時に爆発しているにも関わらずその距離の違いから爆発音の到達にはかなりのズレが生じていたのだった。
電力線や光ファイバーといったケーブル類や何を作っているのか不明な工場群、そこで作りだされた製品や部品を輸送する為の集積センターといった各種施設が同時に破壊されたことにより、その地域の機械達の活動が瞬間とはいえほぼ完全に停止したのだった。というかその瞬間を作り出すことが今回の作戦の第一段階における成功条件だったのだ。
いかに魔法により作られた高性能爆薬があったとしても、人間が人力で運べる量のみでは機械達が作り上げたすべての施設を一度に破壊することは出来ない。また少しずつ時間をかけて破壊していっても機械達の修復能力が高すぎるのでそれでは完全破壊は無理である。しかし機械達の活動を瞬間とはいえ一時的に停止させることは可能だった。
そしてその瞬間が訪れたとき、機械達の支配領域をぐるりと取り囲むように展開していた妖精たちの魔法が発動された。
そもそも妖精が使う魔法は機械達の近くでは発動することすら出来ない。機械達の電子回路は魔法の発動を妨害しキャンセルする何らかの力を持っているからである。更に言うなら存在すること自体に魔法の力を利用している妖精やドラゴンなどは、活動中の機械達に近づくことすら出来ない。何の影響も無く機械に近づくことが出来るのは存在することに魔法の力を必要としない人間だけだった。
しかし元妖精だった人間には、強力な魔法は使えない。力の弱い魔法は使えるのだが、その力で機械達と戦うことは出来なかった。人間もまた機械に近づくと魔法が使えなくなるからだ。そこで今回のような段階を踏んだ作戦が計画され、既に何度も実行されていた。
第一段階で人間達が魔法に拠らない物理的な攻撃手段である高性能爆薬を使用して機械達の活動を瞬間でも良いから一時的に停止させる。そしてバックアップシステムが起動する前の僅かな時間を利用して作戦の第二段階が発動されるのだ。
機械の影響がギリギリ及ばない範囲まで前進し待機していた妖精たちの魔法による遠隔攻撃である。主にそれは機械達には致命的となることが確認されている高圧電流による電撃だった。その電撃がわずかに生き残っていた機械達の電子回路を焼き切り、更に広範囲に機械達の活動を停止させる。そして機械達の支配領域の中心部上空にて魔法が発動できる領域を作ること。これが作戦の第二段階の達成目標であり、第三段階開始の合図だった。
「アルナ、雷による攻撃を終了して。第二段階の目標は達成したわ」
目を閉じたまま、念話網により各部隊からの報告をすべて把握しているマルナが、全力で機械達の支配領域の中心方向へ向けて電撃を加えながら上空に浮かんでいるアルナに攻撃の終了を伝える。
「りょ、了解」
息も絶え絶えなアルナは、そう言うなりまるで力が尽きたかのように落下してくる。いや事実落下して来ていた。それを見た護衛係の人間があわてて力を出し切り気絶したアルナを受け止めた。
「エラ様、作戦の第三段階発動の準備が整いました。現在各部隊とのリンクが確立。同期完了済みです」
「分かりました。私が発動する召喚魔法に同期して魔法力を開放するように各部隊に通達してください」
念話により各部隊とリンクし複数の妖精による魔法力の同期を行い、個人単位ではありえない大きな魔法を使う。話すだけなら簡単だが、それを実現するには高度な才能が必要であった。最低でもマルナと同レベルな念話使いが各部隊にそれぞれ居なければ、計画を実行することは不可能だったろう。
いや、エルフィン皇女が直接このような作戦に参加するということになるのであれば、マルナほどの才能が無い妖精達が作戦に当たっても支障は無かったかもしれない。しかし万が一にもエルフィンの身に不幸な出来事が起きた場合のリスクを考えれば、それは過去に実行されなかったことは当然であったし、今後も実行されることは無いだろうことは確実だった。
エルフィンには皇女という立場以上に重要な役目を背負わされていたからだ。
ともかく作戦は第三段階の発動を迎えた。これから妖精たちが攻撃しようとしている機械達が支配する領域の中心部。そこには発電所が、核融合炉が存在していた。
異世界の人間達が現実に稼動しているその施設を見たら、それはプラズマ化した水素を磁場で閉じ込めるタイプの熱核融合炉ではなく、レーザーを使って水素燃料を爆縮するタイプのレーザー核融合炉でもなく、オカルト扱いされている常温核融合炉であることを知って驚くことだろう。
「氷山を召喚します」
エラはそう言うと魔力を開放し召喚魔法を発動させた。そしてマルナや各部隊に配置された念話使いの妖精達を介してリンクしている召喚魔法を得意とする他の妖精たちも一斉に魔力を開放し始めた。その魔力はリンクを通じてエラに流れ込み、強大な召喚魔方陣がこの辺り一帯の機械達にすべてのエネルギーを供給する核融合炉の上空に形成され始めた。
あまりにも強大な魔力が開放されている為か、大地は響き、天には渦を巻くように雲が流れ始める。その雲の中には時折発光する稲妻が見えていたが、徐々に稲妻は規則正しく同期して発光し始めた。そして、天が割れた。
稲妻の光が蝋燭の灯りとするならば、まるで昼間のようなまぶしい光を伴ってそれは姿を現した。妖精世界の地球の南極から召喚された最大直径が300mはあろうかという巨大な氷山であった。
空中に召喚された氷山は、一瞬そのまま空中に静止したかのように浮かんでいたが、やがてゆっくりと落下し始めた。召喚された氷山があまりにも大きかったのでその動きが分からなかったのだ。
そして氷山は機械達のエネルギーの源、核融合炉を押しつぶし地面へとぶつかった。その美しくも恐ろしい光景が静かに展開された後で、轟音とそれに続く爆発音が響いてきた。そして砕け散りぶつかり合いながら降り注ぐ氷山の音が連続する。その音を聞きながら、マルナはエラに報告した。
「機械達の活動ほぼ完全に停止。機械による魔法への悪影響が消滅したことにより前進している人間部隊との念話リンク成立を確認しました」
「了解しました。これにて妖精部隊はこの場を撤収いたします。なお人間部隊には再起動して設備の修理を行おうとする自律型の機械、いわゆるロボットの活動を阻止するべく、残敵の掃討を行うよう通達してください」
先ほどのアルナ同様にその力を出し切り消耗し尽くした様子のエラは、息も絶え絶えにマルナの報告を聞くと、事実上の作戦終了を宣言した。
「第6次秋津島防衛作戦により狭霧地区の機械達の排除には成功したわけですが、大局的な情勢は悪化の一途を辿っております」
数日後、今回の作戦についての報告と今後の対策に関する会議が皇都天那(あまな)の宮殿にて行われていた。そこには妖精はもちろんのこと人間も数人混じっており、人間の少女と化したエルフィンもまた皇女としてその会議に参加していた。
「今回の作戦成功を大々的に喧伝し士気を高めるというのも良いでしょうが、そろそろ臣民に対して真実を語るべき時が来たのではないかと愚考致します」
黒いコウモリのような羽を持つ防衛大臣のティプファンは、緊張した面持ちで女皇ディアナに進言した。そのティプファンの緊張が伝染したのか会議室内の空気が一気に張りつめた。
「やはり生産力の差はいかんともしがたいですか」
答えが分かり切った質問だったが、この戦いの本質を突く質問ではあった。人間の身体を召喚して人間部隊を戦いに投入できるようになってから戦闘そのもの、つまり戦術的な面で妖精達が機械達に負けることはなくなっていた。そもそも機械達には戦闘を専門にする存在すら無いらしいのだ。
「敵の侵攻速度をやや落とす程度が精一杯というのが、我々の真の実力です」
ティプファンは軍人上がりの政治家であり、防衛大臣に就任してから日も長い。この会議に出席しているメンバーの中で現実を見ることにかけてはティプファンの右に出る者はいなかった。
既に世界の大半は機械達の勢力圏と化し、妖精に残された有力な生活圏は実質この秋津島のみと言っても過言ではなかった。その他の地域は急峻な山岳地帯であったり、砂漠であったり、大洋の中の離島であったりと、機械達に対抗できる国力を維持できる要素が存在しない地域ばかりだったからである。
その秋津島ですら機械達の拠点は小さなものを含めれば173ヶ所を数えていた。これらの拠点を叩く為に人間部隊が必要とする高性能爆薬や糧食などを生産する間に機械達の拠点はさらに増加していくのが、紛れもない現実だった。
「しかし計画の真の目的は機械達の撃破では無いことはティプファン殿もご存じではないのでしょうか」
戦場から帰還したばかりの女大魔導師のエラが発言する。
「機械に対抗する為に人間の身体を異世界より召喚する。これが計画の表の顔であるなら、裏の顔は大脱出計画であるということぐらいは、この会議の出席者であるなら誰でも知っていますよ。エラ殿。そしてその裏の計画が破綻しつつあるということも」
後方で威勢のよい命令をするばかりの政治家よりも、実際に戦闘を担当する軍人のほうが現実的であり、戦いに対して消極的だという。何しろ戦って死ぬのは政治家ではなく軍人なのだ。ティプファンとしては女皇ディアナの真意を知りたいという気持ちが、ついに会議の場でこのような発言をさせたのだろう。
「申し訳ありません。すべて私の責任です」
口を開いたのは黒髪の人間の少女、即ち人間化した皇女のエルフィンだった。人間サイズの大きなテーブル状の構造物の上に置かれた妖精サイズの円卓に妖精達が着席して会議をしている。エルフィンは、それを見下ろすような位置に座っていた。
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