第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第35話 異世界は隣の星
場所的には、人間世界の地球は日本における名古屋市がある地域に相当するが、
但し事情を知らない人間がその都市を見ても、一見では巨大な森林にしか見えないだろう。妖精たちの多くは、森を住みかとし、森の木々を家としていたのだ。
その森林は我々人間がよく知る広葉樹を主体とした森林であるのだが、じつはそれだけではない。広大な広葉樹森のそこかしこに、人間世界の地球では有り得ないほど巨大な木々が一定の間隔を空けて生えているのだ。
どれぐらい巨大かというと、高さは1キロメートルをやや下回る程度もあり、成長途中と考えられるやや低めの木々ですら数百メートルはあろうかという高さだ。
イメージするなら634メートルあるという東京スカイツリーぐらい、もしくはさらに高い木々が一定の間隔を保って生えており、更にその巨大な幹からは当然だが相応の巨大な枝が伸び、葉が茂っているという状態だ。
まさに【世界樹】の森とでも言うべきファンタジーな雰囲気となっているが、当然だがこのような木々が自然に発生進化したわけではない。妖精世界の地球において妖精たちやその他のドラゴlンを始めとする魔法生物達を創造した人間達が同じく創造した人造の生命体である。
ぶっちゃけると高度な遺伝子操作技術に依って作られた樹木であるということだ。
さて、そんな世界樹と見紛うばかりの巨木群に妖精たちが住み着いているのだが、現時点において妖精達は大まかに言って3つのやり方で住み着いていた。
まずひとつは一番目立っているのだが、木材と土壁で作られた妖精サイズの家がまるで鳥小屋のように木々の枝の上に建てられているのだ。
1階建て、2階建て、様々なデザインにサイズのその家々は、主に一般庶民が暮らしている住居らしく、空中を行き来する妖精たちの背中から生えている羽は、平民を表すトンボのような透き通った羽の割合が多い。
もちろん武士階級であることを表すコウモリのような羽をした妖精もいることはいるし、皇族や王族に貴族に連なることを示す鳥のような羽をした妖精もいなくはない。
しかし圧倒的に多いのはトンボのような羽をした平民の妖精達である。
では、平民以外の妖精たちはどこで暮らしているのかというと、それら巨木の内部をくりぬいた空間を居住スペースとしているのであった。それが2番目の方法である。
巨木の幹や大きな枝をくりぬき、内部の木壁を滑らかに削り整え、最後にピカピカに磨きあげれば居住スペースの完成だ。場合によっては人間たちの感覚で言うところのコンサートホールや競技場のようなスペースも作られていたりする。……もちろん妖精サイズではあるのだが。
そして最後に、寿命を迎えた巨木が朽ち倒れて空き地となったスペースが、3番目の居住スタイルが存在する場所であった。
本来妖精たちは羽を持ち自由に空を飛んで移動することが出来るし、水や食料に必要な資源といった各種物資は地上に降りて採取しなくても、巨木の上に居ながらにして召喚魔法を使って手に入れることが出来るので、地上に降り立つ必要がないし、ましてやそこに住む必然性もない。
しかし近年の特殊事情が地上に住居を構える必要性を生んでいた。人間の身体を召喚して人間へとチェンジリングした元妖精の人間たちの存在がそれである。
当然ながら元妖精だったとはいえども人間は空を飛ぶことはできないし、魔法力が弱すぎて実質的に魔法を使えないので、水や食料といった生活に必要な物資を魔法で召喚して手に入れる等ということもできない。必然的に元妖精の人間たちは地上に住むことになる。
そして対機械たちへの戦いにおいて人間たちの力が戦力として必要であるということになれば、人間たちと行動を共にする妖精の軍人たちや魔術師たち、更には彼らを支える妖精や人間の後方支援要員たちも併せて地上に住むのが合理的だ。
既に妖精たちが大脱出計画を発動させて大量の人間たちが存在するようになってから15年以上が経過している。約100万人の妖精がチェンジリングして人間になっているし、人間同士で結婚して子を作ったという例も多数存在するので、実際の人間の人口は小さな子供たちも含めれば200万人に迫ろうかという数字になっている。
もちろん人間たちは一ヶ所にかたまって住んでいるわけではなく、
話を戻そう。高度1万メートル上空から
「ここが、
宇宙船うみねこ2世号のコクピットから見える秋津島皇国の様子は自然に満ち溢れていた。巨大な森林に覆われている地域が圧倒的に多く、森林に覆われていない地域は灌木帯であり2~3メートル程度の低い木々に覆われているか草原であったり、そして田園があった。
「アヒカルさんからはそう聞いてる。3つの円形の空き地が重なり合うようになっている一番大きな森の切れ目にディアナ女皇の宮殿があるそうだから」
「宮殿って、やっぱり石造りのお城なの?」
「……さっきも説明したと思っていたけど、石造りだよ」
先程のブリーフィングをちっとも聞いていなかったことを暗に告白してしまう美姫と、脱力してしまう海斗であった。まあ飲み食いしながらの雑談めいたブリーフィングであったので、一方的に美姫を非難するのもどうかと思うのだが。
さて、アヒカルから海斗が聞いた情報によると、秋津島皇国の皇族が住む宮殿も本来は巨木の内部にくり抜かれた空間に存在していたらしい。しかし大規模なチェンジリングによって人間が多数存在するようになってからは、新たに建てられた石造りの城へと宮殿を移しているとのことだ。
「西洋のお城みたいなやつ?」
「そういったお城とは全然違って、階段型ピラミッドっていう感じらしいよ」
「エジプトのピラミッド?」
「どっちかと言うとマヤとかインカとかの遺跡にあるようなピラミッドかな」
美姫と海斗が会話していると、コクピット後方のキャビンから剣持主任が話しかけてきた。
「遺跡と言えば、海斗君。地域的には東京が有るはずの場所にある巨大なビル群は、前に話にあったという人間時代の遺跡なのかな?」
「ええ、なんでも【フルリの地】って言うらしいですよ」
「フルリの地ですか。興味深いですね。もしも人間時代の記録が残っていれば、彼らの科学のなにがしかが理解出来るかもしれませんね」
そう言うのは仕様通りにメガネをキラリンとさせている水城江梨子である。誠にもって律儀なことである。
「どうでしょうかねえ。アヒカルさんに聞いたところでは、少なくとも文字記録のようなものは極端に少なかったという話らしいですよ」
「海斗さん。それは当然でしょう。妖精世界の人間たちの世界は私達の未来の世界に酷似しているんですよ。記録はすべて電子化されているでしょうから、紙の書籍のようなものはもともと存在していない可能性が高いわけですし」
「となると問題の所在は明らかだな。妖精世界の人間たちが残しているかもしれない電子的な記録を、現在の我々が持つ電子情報機器で読み込めるかどうかということだ」
海斗と江梨子、そして剣持主任は難しい顔をしてそんな話をしているが、その他のメンバーにしてみればどうでも良い話だった。
まず、とうとう加賀詩衣那は飲酒が過ぎて酔いつぶれてしまっている。とりあえず今は酔いをさます為に大量のスポーツドリンクを飲んでから仮眠を取っているところだ。
まあ大量とはいってもしょせんは妖精サイズ。ペットボトル1本でこと足りる。
そして珠美香と雄高はお互いに窓の外を見ながら、『綺麗な景色ね、雄高君』、『いや、珠美香ちゃんのほうが綺麗だよ』等といつも通りのスイート空間を形成していて他を寄せ付けない。
早苗は操縦席のすぐ後ろに陣取り、美姫の操縦具合を観察している。よっぽどフェアリードライブで宇宙船を動かすことに興味を持ったようだ。まあ、無理もないが。
残るメンバーは幼女で妖精な5才児である老田結菜と、貧乳大好きむしろ貧乳しか愛せませんな山本夏樹である。そのふたりは、結菜の召喚獣という扱いのドラゴンバタフライのピイちゃんに、余った料理を食べさせていた。
体は妖精と同じくらいの大きさでしかない小さなドラゴンであるが、やはり小さくてもドラゴンであり、おそらくは人間サイズの感情体を亜空間に持っているはずなので、その大きさからは信じられないほどの多量の料理をパクついていた。
「はい、ピイちゃん。これも食べてね」
「ピ、ピーイッ!」
結菜は残り物が置かれた皿の中から、適当に料理を選んではピイちゃんに差し出している。
「結菜ちゃん。これもピイちゃんにあげてみたらいいんじゃないかな?」
その結菜を手助けしているのが夏樹なのだが、ペッタン
もっとも美姫も海斗もそんなことは気にもしていない。ある意味、夏樹を信頼しているというか、本物の幼女相手に夏樹がそんな変なことはしないということを知っているからだろう。
というわけで既に海斗は江梨子と剣持主任との話を切り上げ、美姫の隣の操縦席へと戻ってきている。
「どうする? 操縦するの替わろうか?」
「大丈夫。もう見えてきた」
美姫が指差す先には先程の話にでてきた、エジプトのピラミッドとは意匠の違ったマヤ文明やインカ文明のピラミッドのような階段状のピラミッドがあった。
秋津島皇国の女皇の居城である宮殿だ。その宮殿の周りには、半径数百メートルの広さで庭園が広がり、更にその周囲には【人間サイズ】の家々と、低木の上に建った【妖精サイズ】の家々が雑然としつつもある一定の秩序を保って並んでいる。
そんな景色を眺めつつ、美姫が操縦するうみねこ2世号は、ぐんぐんと降下して行き、階段型ピラミッドの外見をした宮殿の前に広がる庭園へと着陸したのだった。
そしてその数時間後には、妖精世界の地球に唯一残された妖精の大国である秋津島皇国の代表である女皇ディアナとその他面々、人間世界側からは現在のところ召喚された妖精世界の地球へと至る唯一の交通手段を保有する加賀重工会長の孫娘であり、会長の名代である加賀詩衣那とその他面々の会談がセッティングされることになった。
ちなみに着陸から会談の開始まで数時間の時間が必要とされた理由の大半が、酔いつぶれた詩衣那が目を覚ます為に要した時間であったということは、以後語られる歴史のなかでも最高級の黒歴史として封印されている事実であるのは公然の秘密であった。
「それではどうあっても、機械たちの支配領域に対する核攻撃を中止するつもりは無いということでしょうか?」
どのような理屈で輝いているのかわからないが、LEDライトに負けない程の明るさで輝いている水晶による照明により明るく照らされた秋津島皇国の女皇が居城たる宮殿内の会議室において、加賀詩衣那の声がディアナ女皇に向けて響いていた。
ふたりとも妖精なので普通に相対しているが、ディアナ女皇以下秋津島皇国側のメンバーは正装しているのに対して、詩衣那および人間世界側のメンバーは宇宙服のままというのが、少々アンバランスではある。
ディアナ女皇の横には女大魔導師と呼ばれるエラと、国防大臣のティプファンたち妖精が並んでおり、その後ろには、人間であるアヒカルとエルフィンが控えている。そして加賀詩衣那の横には美姫と海斗が横に付き、その後ろに剣持主任と珠美香が控えていた。
ちなみになぜか珠美香の横には水城江梨子と大島早苗がおり、江梨子はメガネをキラリンと光らせ、早苗はその大きなおっぱいをポヨヨンと揺らせていた。誠にもって仕様通りのシチュエーションというのは美しい……。
なお緊急事態に備えて夏樹と雄高、そして安全を考えて結菜とピイちゃんたちは、宇宙船うみねこ2世号の中で待機しているというか、本人たちにしてみれば不本意ながら留守番役を仰せつかっている。
「中止するつもりが無いとは言っていません。今現在の状況において、中止する理由が無いと言っているだけです」
限りなく白に近い緑色をした鳥のような羽を持つ人間で言えば40代半ばに見える外見をした妖精の女性、女皇ディアナは、加賀詩衣那の言葉をやんわりとした口調で訂正した。
結果的に人間世界の地球と妖精世界の地球を代表する両者の会談は、今後可能な範囲でお互いに協力し合うという基本的な点で合意したものの、両者が考える具体的な方法においては大きな隔たりが存在していた。
人間世界というか日本の常識として、たとえ自衛の為とはいえ、核融合爆発攻撃を多用するような国家に対して何らかの援助を行うということは現実問題難しい。
現在ならまだ、『機械たちの支配領域において核爆発が多発しているのは、妖精世界の地球が人間世界へと召喚転移してきたことによる何らかの機械的なトラブルによるものである』と言い切ってしまえば、加賀重工以外にそれを検証する手段を持たない他国はそれを信じてなくても受け入れざるを得なくなる。
もちろん日本政府へは加賀重工の加賀光政会長による政治的な工作が行われているので、かろうじて問題は無いと言えなくもない。
しかしそれはあくまでも【今、即時に核攻撃を中止する】というアクションが必要である。召喚転移が行われて何日経っても核爆発が終了しないとなると、そこに何らかの人為的な操作が存在していることを疑わざるを得なくなる。そうなってからでは手遅れだ。
他国に比べて核兵器に対してのアレルギーが特段に強い日本において、たとえ命を持たない機械たちに対してとはいえ、核攻撃を続ける秋津島皇国の妖精たちに対する援助など、ましてや軍事的な援助など出来ようはずが無い。
「核攻撃を行わなくても十分に機械たちに対抗出来る手段として、キャンセラーとブースターを搭載した戦闘用の小型艇数百機をおよそ1年以内に順次提供する用意が加賀重工にはあります。これならば秋津島皇国に侵攻してくる機械たちを水際で撃退することが出来ますが、それでは足りませんか?」
詩衣那は静かに問うた。
「妖精世界の地球と月をまるごと人間世界に召喚出来るほどの魔法力を駆使することが出来るほどのあなた方です。もっと別なことが出来るのではないでしょうか? それが成されないので有れば、機械たちを滅ぼす為に、核攻撃を行えるうちは核攻撃を行い続ける。これが秋津島皇国の意思です」
それに対してディアナ女皇もまた静かに返事をした。ふたりとも心の内は激しく燃えているが、決してそれを表に出そうとはしていなかった。
「ディアナ女皇、秋津島皇国は、いったい何をお望みなのですか」
「この地より機械たちを一掃すること。簡単なことでしょう?」
「……まさか妖精世界の地球から、機械たちのみを召喚して取り去って欲しいということでしょうか」
「まさにその通りです。あなた方なら、機械たちを太陽系の果ての宇宙空間にでも捨ててしまうのは簡単なのではありませんか」
涼しい顔をしてディアナ女皇は詩衣那に対して提案をしたが、提案を受ける側の詩衣那としては、その提案を飲む選択肢は考えていなかったので、自然とその表情も苦いものとなってくる。
ディアナ女皇が提案する方法は、実は剣持就任と加賀詩衣那との話し合いにおいて、取りたくは無い選択肢のひとつとして想定されていたものだったのだ。
そもそも加賀重工が秋津島皇国に対して様々な援助をしようという意思を持っているのは、将来的に魔法関連の技術を体系的に学びたいが故であり、更には魔法を使える人材としての妖精を必要としているというものなのだが、実はもうひとつの目的があったりする。
今後、人間世界の地球においては主に日本が主導して、様々な産業へ魔法を応用して、産業革命に匹敵する魔法革命を起こしていくという未来を加賀重工は描いているのだが、その際、加賀重工の社内より、ひとつの反対意見が出されたのだ。
曰く、魔法革命を起こして推進するのは良いが、それにより、純粋な科学技術の進歩は停滞してしまうのでは無いか? 将来的にそれは何らかの悪影響を与えることはないのか? というものである。
例えば既に加賀重工では魔法を利用して空や宇宙を飛ぶフェアリードライブを実用化しているわけだが、フェアリードライブ以下の性能しか無い宇宙ロケットや航空機を今更新規で開発していく者が居るのだろうか。ということである。
おそらくフェアリードライブ搭載の航空機や宇宙船や、もっと小型の各種コミューターが実用化されれば、フェアリードライブ以外の動力源を持った航空機や宇宙船、小型のコミューターも、開発自体が行われなくなっていくだろうという推測が成り立っている。
また、新時代のエネルギー源として期待されている核融合炉も、今後は新規の開発がストップする可能性があるかもしれない。なぜなら既に既存の施設を流用しつつ、魔法により安価で効率的な発電を行うアイディアは出ていたりするからだ。
具体的には火力発電所の設備をそのまま流用するのだが、石油を燃やして熱量を得る代わりに魔法で熱量そのものを召喚して利用しようというものだ。仮称として魔力発電と呼ばれているこの発電方法の最大の利点は燃料が必要ないということにつきる。
更に言うなら地球温暖化の原因物質のひとつとされている二酸化炭素を排出することもないし、そもそもその他の環境汚染物質にも全く関係がない。
おそらく圧倒的なコストパフォーマンスと環境負荷の少なさから魔力発電が大規模に実用化されたあかつきには、核分裂型原子炉はもちろん水力や地熱発電、将来の技術である核融合を含めたその他の大規模発電方式は完全に過去の物になることは間違いない。
というわけで加賀重工の内部から、そういった航空宇宙産業技術やエネルギー関連以外にも、通信技術や輸送技術、更には資源採掘や精錬加工技術といった様々な技術が魔法を基礎として開発されていく未来が想像される現状において、『魔法に頼り切る技術開発は危険では無いのか?』という意見が出されたのだ。
もしも何らかの状況変化により魔法が使えなくなった場合、魔法技術を中心に文明を作り上げていたら大変なことになる。もしかして妖精世界の人間たちが滅亡(?)したのは、そのせいではないのか? というような意見が出されては、その意見を一考しないわけにはいかなくなる。
しかしせっかく魔法技術を応用すればコスト的にも性能的にも格段に良いものが作れると分かっているのに、ちまちまと一から科学技術を研究開発していくのも難儀な話である。
そこで出てきた解決策が、『妖精世界を侵略しているという機械たちの技術を解析して自分の物とすることは出来ないか?』という意見だった。
まがりなりにも恒星間宇宙移民が可能となるレベルの科学技術である。明らかに現在の地球の科学技術を超えた水準の技術であるだけに、一から開発するよりも既にある現物を研究するほうが遥かに効率が良いのは間違いない。
加賀重工としては、戦闘用に特化したキャンセラーとブースターを搭載した小型艇を数百機、もしくはそれ以上の数を秋津島皇国に提供することにより秋津島皇国を鉄壁の防衛網を持つ不沈空母と化し、その間に大陸の機械たちをそのシステムも含めて全般的に研究調査していきたいというのが本音だったのだ。
妖精たちの魔法技術も欲しいが、機械たちの進んだ科学技術も欲しいという、二兎を求めていたわけである。
「ディアナ女皇陛下。私達が現在運用している技術に関する専門家として発言させていただきますが、妖精世界の地球全体に広がっている機械たちのすべてを召喚して取り去ってしまうことは、おそらく可能でしょう。しかし現時点においてそれを太陽系の果ての宇宙空間に召喚して捨て去るには技術的な問題点がひとつと、更に他に懸念すべき問題点があります」
加賀詩衣那がディアナ女皇の要求に対してどう答えるべきか口ごもっているのを見て、援護射撃とばかりに剣持主任が会話を引き継いだ。それを見て詩衣那は、『よろしくおねがいします』とばかりに剣持主任に向かって軽く頭を下げる。
「はて、問題点とは何でしょう?」
「技術的な問題点ですが、私どもが運用するキャンセラーとブースターを使った魔法技術では、対象である機械たちを例えば太陽系の果ての宇宙空間に召喚するにあたって、システムを搭載した宇宙船が現地、すなわち太陽系の果ての宇宙空間にまで赴く必要がありますが、そこまでは良いとして、現状の航行システムのままでは、その宇宙船が地球へ帰還するのは極めて困難なのです」
よどみ無く答えていく剣持主任が主張する技術的問題点とは、以下のような内容であった。
妖精、もしくは珠美香や早苗のように魔法を使える人間により飛行するフェアリードライブ搭載の宇宙船は、現在のところ目視による飛行をしているのが現状である。
したがって現在の人間世界の地球と妖精世界の地球のように200万kmしか離れておらず、目視出来る距離にある惑星を目的地とする場合には何の問題も無いが、『目視出来ない』。もしくは『目視するのに星図や天文に関する知識が必要な場所(星や宙域)に行くには、何らかの航法補助システムの助けが必要になる。
しかし現段階では、その肝心な航法補助システムが搭載されていないし、そもそもそのようなシステムがまだ出来上がっていないということで、フェアリードライブ搭載の宇宙船で太陽系の果ての宇宙空間まで行くには行けるが、地球への帰還が困難となる。
「なにも地球へと帰還するのに、宇宙船を使って帰還しなくても良いのでは無いですか? 召喚し終わった後は、地球側から宇宙船ごと、もしくは搭乗員のみ召喚してもらって帰還するという方法もあるかと思いますが?」
剣持主任の説明を聞いたディアナ女皇は、そのように反論し、笑みを漏らす。単なる言い訳なのはお見通しですよとの意味を笑顔に込めて。
「……不測の事態というのはいついかなるときも起こり得るものです。ごく最近も私達が、妖精世界の妖精たちと元妖精の人間達だけを私達の地球へと召喚しようとして、妖精世界の地球と月ごと召喚してしまう【事故】が起きてしまったことを、お忘れなきように」
対して剣持主任は半ば強引に、涼しい顔でディアナ女皇の反論を打ち消した。
「ふふ、ではそういうことにしておきましょうか。して、もうひとつの懸念すべき問題点とは何ですか?」
「機械たちが、宇宙空間でも活動可能かもしれないということです」
むしろこちらのほうが問題かもしれないと、剣持主任は持論を展開し始めた。
太陽系の果ての宇宙に召喚された後、機械たちの一部でもそこで活動を再開し、増殖し始めたとしたらどうなるか? 数年後、数十年後、数百年後には太陽系全域が機械たちに支配されてしまうということになりかねない。
「あれら機械たちは、本来は恒星間を渡ることが出来る技術文明の産物です。宇宙空間において移動し、そこで増殖する手段を兼ね備えていたとしても、なんら不思議ではありません」
「……ふむ、なるほど。確かにその点は懸念すべき問題点かもしれませんね」
剣持主任の言葉に、うなづかざるを得ないディアナ女皇であった。
「ええ、ですからここは、むしろ機械たちの脅威を拡散させないようにするためにも、地道で時間はかかりますが、秋津島皇国における防衛網を完全なものとした後に、ゆっくりと大陸の機械が支配する地域を少しづつ【解放】して行くのが常とう手段ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」
「……まだ、結論を出すには早いのではないでしょうか。あなた方人間の技術と、私達妖精の魔法。片方だけでは不可能なことも、ふたつを合わせると可能になることがあるかもしれません」
ディアナ女皇は機械たちを妖精世界の地球から一掃する為に、一気に召喚除去してしまうプランを捨てきれないが、現状に問題点があるのも理解したらしい。
「秋津島皇国と私ども加賀重工が協力すれば、きっと良い方法が見つかるかと思います。女皇陛下」
説明は済ましたと一礼した後に口をつぐむ剣持主任に替わり、詩衣那が当たり障りなく話を締めくくった。
詩衣那としても剣持主任としても、心の中では早く秋津島皇国との協力関係を樹立して、既得権益としての対価を確かなものとして契約したい気持ちでいっぱいなのだが、表面上、詩衣那も剣持主任も落ち着いた顔をしている。
焦りを表面に出すのは、交渉術としては下の下であるのは言うまでもない。足元を見られて交渉が不利になるのがオチだからだ。
「しかしそれにしても少々疲れました。いったん会談はここで中断して、お互いを理解するためにも、打ち解けた場で食事でも摂りながら歓談をするというのはどうでしょう」
「異議などあろうはずがありませんわ。女皇陛下」
今後、具体的にどうして行くのか? その結論はとりあえず先送りとして、一同は食事が用意されている別室へと移動した。
しかしこの時、既に機械たちの間では、何かが動き出し始めていた。
それを一番最初に察知したのは、送還魔法を使った核融合爆発攻撃を行う前準備として、機械たちがキャンセラーのコピー品を稼働させている場所を特定する任務を行っていた妖精たちだった。
「おかしいです。先程まで機械たちの支配領域に点在していた、魔法発動可能域が消えていってます」
機械たちはこの時、妖精たちからの核融合爆発攻撃を受け続けたことにより、何らかの方針転換を決めたのだということが推論されたのは、すべてが終わった後のことであった。
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