第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第02話 召喚!?
その夜、珠美香は夢を見ていた。
暗黒の中、珠美香は自分の身体から淡い光を出しながら漂っている。なぜか緑ヶ丘高校の制服を着ているのは夢特有の不条理だからだろうか。上下の区別も無いその空間をどれほど漂っただろう。一瞬のようでもあり永遠のようでもあったが、意識レベルが低下しているためか何も判断がつかなかった。
しばらくそのまま上下の無い空間を漂っていると、かりそめの前方に小さな光が見えてきた。その光は徐々に大きくなっていき、やがて光は小さな草原へと姿を変えた。
せいぜい六畳一間ほどの小さな草原の真ん中には珠美香の腰の高さほどの白い岩があり、そしてその上には金色の長い髪と青い目をした妖精が座っていた。昼間とは違って透き通った裸身ではなくちゃんとした肉体を持って存在しているようであり、そして和風のようでいてどこか異国情緒あふれる見たことも無いデザインの服を着ている。
その妖精と目が合った瞬間、珠美香の意識は一気に覚醒した。
「あーーーっ! 昼間の妖精っ!」
状況の異常さに気づくよりも先に、珠美香は思わず大声を出してしまった。
「やはり次元の壁を越えて私の姿を御覧になっていたのですね。さすがに私と魂の波動を同じくする者だけのことはあるということですか」
対して珠美香を見つめる妖精のほうは落ち着き払っている。やや疲れたようにも見えるが、それよりも何かを成し遂げたという達成感が感じられる表情だ。
「駄目よ。妖精に召喚なんかされないんだからね」
一方の珠美香は妖精に召喚されてしまいそうだという危険な状況を認識したのか、目を閉じ耳を手でふさぎ、小さな地面の上にしゃがみこんでいる。
「どうやらこちらの事情はご存知のようですね。御安心ください。あなたの意志を無視して無理矢理に召喚することは出来ません。まずは私たちの事情をお話しさせてください」
何かを覚悟した者だけが持つことが出来る、静かで落ち着いた気迫を発する妖精であった。
「わーっ、わーっ、わーっ! 聞きたくない、聞こえなーい!」
必死で妖精の言葉を無視しようとする珠美香。しかしそれは成功しそうに無かった。
「精神に直接話しかけていますから夢幻体の耳を押さえても無駄ですよ。さて、私は、あなた方が住む世界とはほんの少しだけ違う可能性が顕在化した世界に住む、妖精のエルフィンと申します」
エルフィンと名乗る妖精は、珠美香が聞く姿勢をとっていないことを気にする様子も見せず、滔々と話し出した。
「既に約100万人以上の同胞が、あなた方人間を召喚していますので、既にあなた方もご存知のことと承知で話をさせていただきますが、私たち妖精が住む世界は星から来たロボット達に侵略されつつあるのです」
悲しい顔をしてエルフィンが語った話の内容は次のようなものだった。
人間の世界と同じく妖精の世界もまた多数の国に分かれていて、国同士では多少のいざこざはあったものの、魔法を自在に使いこなす妖精たちはそれなりに豊かに、そして概ね平和に暮らしていた。しかし50年ほど前からその状況は一変する。
動き回る金属で出来た機械、いわゆるロボット達が妖精世界の一角に現れたかと思うと、じわじわとゆっくりだが確実に世界を侵略し始めたのである。
それは世界各地では合わせて14箇所に落ちてきたというが、現場を目撃した妖精によるとすさまじい轟音と眩い光と共に黒い筒状の物体が天空より落ちてきたという。
大きな穴を大地に穿ったその物体からは、昆虫のような外見をした金属で出来た動き回る機械が出てきて、何かを周辺に作り出したというが、何を作っているのかを調べようとそこに近づいた妖精は一人として帰ってくることは無かった。
後日判明したのだが、機械に近づいた妖精は気分が悪くなり、そして魔法が使えなくなるのだ。それどころか気を失って動けなくなり、最悪、命を落としてしまうのだ。
こうしてその機械たちが何をしているのかということは不明なまま、機械たちはどんどんとその数を増やし、妖精が近づくことすら出来ない地域は年々拡大し続けた。やがて天から落ちてきたその物体周辺のすべてが機械たちとその建造物で覆われると、機械たちは更にその周辺へと進出してきた。
そしてその過程で古くから続くいくつもの王国があっさりと滅亡した。機械が進出して来た土地は、妖精にとっては不毛の地と化したからである。
危機感を強めた残された妖精世界の各国は、機械の進出を食い止めようとあらゆる努力を惜しまなかった。しかし妖精たちの魔法は機械に近づいた段階で無効化されてしまうという状況で出来ることは限られていた。逃げること。それのみである。
最初の異変から30数年を経た段階で、主要な大陸のほとんどの地域は機械の支配するところとなった。妖精たちは大陸中央の山岳地帯や砂漠、そして大陸から離れた諸島にのみ生息を許されていた。
その間にも妖精たちは様々な試みをしてはいた。機械には妖精の魔法が通じないなら、異世界から最強の魔法生物と名高いドラゴンと呼ばれる存在を召喚して機械と戦ってもらおうとしたこともあったのだが、それも上手くいかなかった。
異世界のドラゴンもまた妖精と同じように、機械に近づくと活動できなくなるし魔法も使えなくなるだけだったのだ。
その後、半ばやけくそとでも言うのだろうか、妖精世界の伝説に伝わるあらゆる魔法生物を異世界から召喚して機械たちにぶつけてみる試みがなされたのだ。グリフォンやペガサスをはじめ、サラマンダーに至るまで。しかし結果はすべて同様だった。
ここに来て妖精たちは機械から逃げることしか出来なくなったというわけである。
しかし未だ召喚されていない伝説の存在があった。人間である。かつて世界の覇者として君臨し、妖精を含むあらゆる魔法生物を創造した後にどこかへと消えてしまったという伝説を持つ人間という存在。
そんな伝説中の伝説の存在である人間を召喚すれば機械たちの侵略に対処できるのではと妖精たちは考えたのだが、それは思うほど簡単なことではなかった。
多元的に重なり合いながらいくつもの世界が同時に存在するというのが、この世界の真実である。妖精が暮らす世界は多元的に存在する無数の世界の中のひとつでしかない。それら無数の多元世界の中にはドラゴンなどに代表される魔法生物などが住んでいる世界もあり、それら魔法生物の魔力を感じ取り、同調し、更にはそれらを召喚するのが召喚魔法である。
ドラゴンクラスの魔法生物ともなれば強大な魔法力を持っているので、その魔法力を感じ取り召喚することはたやすい。しかし伝説中の伝説の存在と呼ばれる人間は強大な力を持っていたとされるが、その力は妖精が使う魔法とは根本的に異なる法則による力だとされている。
逆の言い方をするのなら、人間は妖精が言うところの魔法力が非常に微弱な存在であるのだ。つまり相手の魔法力を感じ取ることから始まる召喚魔法は、人間を相手にする場合は困難を極めるのだ。しかしもう人間を召喚することしか妖精世界を侵略し続ける機械達を食い止める手段が無いところまで追い詰められていた妖精達は、人間召喚計画を立案実行したのだった。
まずは、どの多元世界に人間が存在するのかを探索するところから始まった計画は、苦労の末に伝説の人間らしき存在が暮らす世界の存在を確定することが出来た。計画発動より3年後のことであった。
次に召喚対象となる人間個人にコンタクトを取ることになったのだが、この段階でも人間の魔法力の低さが問題となった。妖精が発するメッセージを人間が心の力で受け止めることが出来なかったのだ。
なんとか更に2年間の試行錯誤の末に召喚魔法を行おうとする妖精とその魂の波動が同じ人間相手になら、次元の壁を超えて意識のコンタクトが可能だと分かったのだが、これは魔道士クラスの妖精と言えども、魂の波動が同じ人間が居ないことには召喚魔法を使うことすら出来ないということを意味していた。
むしろ魔法力が微弱な人間相手ということなら、王族や貴族といった魔法力が強い妖精よりも魔法力が弱い平民クラスの妖精のほうが、魂の波動が同じ相手を見つけること出来る可能性が高かったのだ。
すると今度は魔法力が弱い平民クラスの妖精が、どうやって魔法力を大いに消費する召喚魔法を発動出来るのかという問題が発生したが、魔法力の強い複数の妖精が召喚魔法を発動させる妖精をサポートするという方法がすぐに発案され事無きを得た。
ここに至り人間召喚計画はようやく成功するかに思えたのだが、最大にして最高の障害がまだ残っていたことが判明したのは実際に人間を試験的に召喚してみた時だった。
苦労の末にコンタクトした人間に召喚に対する承認を得てから召喚魔法を発動させたのだが、実際に召喚する事が出来たのは人間の肉体のみであり、その魂を召喚することは出来なかったのだ。妖精達が残る総力をあげて召喚したもの。出来たもの。それは魂の無い人間の肉体。つまり骸だけだったのである。
これは何かの事故である。妖精達はそう信じた。そう思い込もうとした。しかし何度人間を召喚しようとしても、生きた状態で人間を召喚することは出来なかった。
人間以外の魔法生物や、たんなる異世界の生き物たちなら何の問題もなく召喚出来ることから、問題の原因は人間そのものにあることが推測された。
そして更なる試行錯誤と考察により多元世界間において妖精世界と人間が住む世界の間には、人間の魂が通化できない障壁のようなものが存在する可能性があるということが分かったのだ。
もはや人間を召喚することは不可能であると考え始められた頃、ある画期的な召喚方法が提案された。相互換身召喚である。
単純に人間を召喚するのではなく、その身体のみを召喚すると同時に自らの身体を人間世界へと飛ばし、魂の入れ物である身体を人間と妖精の間で交換するという、魂を入れ替える魔法と通常の召喚魔法を合成した特殊な召喚魔法である。
通常、魂を入れ替える魔法は魂の波動が同じ者同士でしか行うことは出来ないのでめったに行われることは無いのだが、そもそも人間を召喚するにあたって召喚魔法を行う妖精の魂と波動を同じくする人間しか召喚できないのであるから、ふたつの魔法を合成することに特に障害となるものは無かったのだ。
こうして人間召喚計画が発動されてから約10年が経過し、ようやく妖精達はまがりなりにも人間を生きたまま妖精世界へと召喚することが出来るようになったのである。
ひとつ問題があるとすれば、人間の身体を得た妖精は、ほとんど魔法を使うことが出来なくなってしまうということだろう。人間の身体は魔法力が弱すぎたのである。しかしそれは対機械という点において致命的な問題では無かった。
機械に近づいただけで気分が悪くなり最悪気絶したり命を落としたりする妖精やドラゴンなどの魔法生物とは違って、人間の身体は機械に近づいても何の問題もなく普通に活動することが出来たのだ。
こうして妖精達は星の世界から来た機械の侵略が始まってから約40年を経て、ようやく対抗手段を手に入れたことになる。
「というわけで私、妖精のエルフィンは、あなたがた人間がロボットと呼ぶ機械達の侵略から故郷を守る為に、あなたの身体を召喚したいと希望します。その為にはあなたの承認が必要なのです。承認の証としてあなたのお名前をお教えください」
長い話が続いたあとで、エルフィンは単刀直入に申し出た。申し訳なさそうな表情をしているものの、その眼差しだけは強い決意に燃えていた。
「妖精世界の事情は説明されなくても知っているわよ。こっちではさんざんテレビやネットでも説明されていることだから。同情するわよ。かわいそうだとも思うわよ。でもそれとこれとは話が別。駄目ったら駄目。絶対に駄目なものは駄目なの」
珠美香はエルフィンの要請を言下に否定する。それはそうだろう。一時の気の迷いで承認なんかしたら、これから先の人生はずっと妖精のままで生きていかなくてはならないのだ。好きな人と結ばれることも無くなるのだ。恋する少女としては否定するしか無い。
「妖精世界の命運を背負っている秋津島の皇家の第一皇位継承者として、私も退くわけには参りません。今この瞬間にも機械達は大勢の妖精の命を奪っているのですよ。あなたはそれを何とも思わないのですか」
妖精からすると巨人なみに大きな身体をした珠美香を相手に、一歩も退かないエルフィン。
「え、あなた皇女様だったの」
微妙にずれた所に反応する珠美香。
「ええ、そうですが何か。既に妖精世界の大半は機械達に占領されてしまいました。秋津島は妖精界に残された数少ない大国であり、私はその国の皇女です」
エルフィンはそう言うと、ふと何かを思いついたように右手の人差し指を頬に当て、首をわずかに傾けた。
「そうですね。やはりここは正式に自己紹介しておいたほうが良いかもしれませんね。私は妖精界の中央大陸の東の外れにあり、未だ機械たちの侵略から持ちこたえている秋津島の皇家の第一皇女である白き翼のエルフィンと申します。以後、よろしくお見知り置きをお願い致します」
岩の上に立ち、珠美香に対して恭しくお辞儀をするエルフィン。それを見て反射的に珠美香は慌ててしまった。
「い、いえ、こちらこそよろしく、お、お願いします。私は緑ヶ丘高校1年の長谷川……」
そこまで名前を言いかけた珠美香は、ハッと気がつくと、慌てて口をつぐんだ。そうなのだ。名前を言ってしまうと妖精の召喚に同意したということになっていたのを思い出したのだ。
「ちっ」
エルフィンは軽く舌打ちをした。皇女という立場にあるまじき態度である。
「こらっ! 今、舌打ちしたっ! ちって言った! 上品そうな態度で私を引っ掛けるつもりだったのね。ああ、危ないっ! もう油断も隙も無いわね、妖精っていうのは」
危うくエルフィンの策に乗せられそうになったと気づいた珠美香は、心臓がはじけそうなほどドキドキしているのを感じていた。夢の中のはずなのに異常なまでにリアルである。
「名前くらい教えてくれても良いじゃないですか。召喚に応じていただけるのなら、あなたはこんなにも可愛い妖精になれるんですよ」
本当にエルフィンは皇女なのだろうか。あまりにもノリが軽すぎる。
「自分のことを可愛いって言うな。腹立つわねえ本当に」
珠美香としてもエルフィンのことを可愛い姿をしている妖精だと思わなくもないのだが、その妖精が自分の身体を文字通り奪おうとしているのだから、素直に可愛いと思えない。むしろ可愛さあまって憎さ百倍というところだろうか。少々意味は違うけど。
「少なくともあなたよりは可愛いですよ。人間の皆さんの美的感覚の基準は調査済みです」
なぜかエルフィンは先ほどから珠美香の心を逆撫でるようなことばかり言っている。
「嫌よ。可愛かろうが可愛くなかろうが、私は妖精になんかなりたくないの。人間のままの私でいたいの。だからもう消えてちょうだい。さあ、早く」
ますます怒りでイライラしてくる珠美香。夢の中だからだろうか、感情の起伏が普段よりも大きくなっているような気がする。
「駄目です。あなたには妖精になっていただきます。さあ、というわけであなたの名前をお教えください。それが召喚に対する同意の意思表示になりますので」
一歩も退かないエルフィン。それを見て珠美香は徐々に焦りの気持ちが出てくるのを感じていた。ここが夢の世界の中だとは思っているのだが、こんなにもリアルで意識がハッキリした状態の夢が、普通の夢ではありえないこともまた理解している。
まさに今この瞬間に本物の妖精から召喚を受けているのだ。この状況を理解していながら、焦らないで居られるほど珠美香は精神的に鍛錬されてはいない。
「何度も言うけど、絶対に嫌。召喚に応じるつもりはありません」
そう言いつつ珠美香は、とにかく目が覚めるまで粘らなくっちゃ駄目よね。それまで長谷川珠美香っていう名前を言わないようにしないといけないわ。絶対にね。と、思っていた。
そして心の中で珠美香がそう呟いた途端、目の前にいるエルフィンが微妙に口の端を歪ませた笑顔を見せたのだった。
「ありがとうございます。長谷川珠美香様。良くぞ我が召喚に応じて頂き、感謝いたします」
わざとらしくもうやうやしく礼をするエルフィン。
「えっ、私、自分の名前なんか言ってないわよ」
慌てだす珠美香。
「ここは私、エルフィンと長谷川珠美香様のお互いの精神が接触して作りだしている夢幻界です。会話はすべて精神を通じて直接行っていますから、言葉に出さなくとも思うだけで会話が可能なのです」
にこやかに説明するエルフィン。その顔には暗黒の深淵を覗いたような暗い笑顔が浮かんでいた。もとが可愛い顔をしているだけに、背筋がぞくっとくるような雰囲気が出ている。
「思っただけで言ったことになっちゃうなんて詐欺よ。聞いてないわよ、そんな話」
エルフィンに対して怒りをぶつける珠美香。内心はこの場から逃げたくて逃げたくてたまらないのだが、逃げ出そうにも周りは暗黒の世界。いったいどうやって逃げ出せば良いのか分からない。珠美香は強烈に焦ってきた。なんとかしなければという思いだけが強まっていく。
「本来なら召喚における同意は夢幻体による発声を必要としますが、今回はどうしても召喚を成功させる必要がありますので、緊急避難的な処置で珠美香様の同意が得られたことと致します」
さも不本意なのですがというポーズをとるエルフィンだったが、うれしそうな表情がそのポーズを台無しにしている。
「こら、やり方がせこいわよ。私は召喚に同意なんかしたわけじゃないんだからね」
ふふふっと不気味に笑うエルフィンから少しでも遠ざかろうと、小さな草原の端へと下がり、その視線から逃れようと右や左へと動く珠美香。
「万物の理は相似形にあると言います。珠美香様の本心はどうであれ、形の上での同意で十分でございす」
確信犯なエルフィン。極悪妖精かもしれない。
「あくど過ぎ。あんたは悪徳商法のセールスマンか。ブラック会社の社員か」
珠美香の叫びはエルフィンを通り越して虚空に消えていくばかりだった。
そしてその間にもエルフィンは召喚魔法の詠唱を行い始めていた。
「我、妖精族のエルフィンおよび人間族の長谷川珠美香は、その互いの肉体を交換し、心を移し替えることに同意せり。この同意のもと我は召喚術を行うものなり」
しかし詠唱とともに発動されるその魔法力は、珠美香はもちろんエルフィンにすら予測がつかなかったある効果をもたらしたのだった。
「誰か、助けて。誰でもいいからっ!」
エルフィンから流れ込んでくる魔法力がどういう作用として働いたのか、涙声で叫びをあげた時、珠美香は右手に何かを掴んでいるのを発見した。それは誰か分からないが明らかに人間の手だった。虚空に空いた穴から人間の手だけが伸びていたのである。
「異世界の壁を越え、生きとし生けるすべての存在の親であると同時に子である創造者よ。我に力を。長谷川珠美香に祝福を。いざ来たれ。いざ行け。命の入れ物、魂が纏いし衣服たる肉体よ。新しい命、新しい魂に仕えよ」
その間にもエルフィンの詠唱は続く。極度に精神を集中させている為なのか、目はうつろで妖しく光っている。
珠美香は理解不能ながらもとにかく自分が掴んだその手を引っ張ってみる。もはや気持ち悪いとかそんなことは言ってはいられない。すると虚空に空いた穴からずるずると引っ張り出されるように出てきたのは、我が兄、幹也だった。
「お兄ちゃんっ! 助けて」
驚いてなどいられない状況に置かれた珠美香は、とりあえず頼りになるかならないかはともかく、兄に助けを求めて叫んでみる。
「あれ、珠美香」
にゅるんっという感じで珠美香の足元に出てきた幹也は、状況が飲み込めないのか、その場にそぐわないのんびりした声を出す。
そしてほぼ同時にエルフィンは最後の句を詠唱していた。
「相互換身用召喚魔法陣展開。次元通路確保。召喚っ!」
次の瞬間、珠美香はさっきまでとは比べ物にならない力が身体に流れ込んでくるのを感じていた。見るとまだ珠美香に手を握られたままの幹也にも魔法力が流れ込んでいるのか、寝ぼけたような顔から一変して、幹也は電気ショックを受けたかのような表情になっている。
「うわっ」
「キャー」
その場にいるエルフィン、珠美香、そして幹也の周りに光が集中し、エネルギーが渦巻いていく。その光のエネルギーは細かな模様の魔法陣を空中に描きだしていた。
「なぜ私と珠美香さん以外に人間が? はっ、しまったっ、まさかっ!」
詠唱を終了して精神の集中状態から解放されたエルフィンは幹也がそこに居ることを見て何かに気づいたのか、驚き叫ぶ。そして魔方陣に囲まれたまま、三人は意識が遠退いていくのを感じていた。
「珠美香さんにも私と同じ力があったなんて」
エルフィンが意識を失う寸前に叫んだその言葉が、珠美香が本来の珠美香として聞いた最後の言葉だった。そして幹也も。
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