第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第38話 番外編1 小ネタ集 + 美姫と海斗の異宇宙漂流記
主に本編終了後の小ネタ集と、美姫と海斗のふたりが本編最終話(37話)にて太陽表面から送還魔法による脱出をした後の話です。
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小ネタ その一 平行世界と並行世界の違い? 〓〓〓
さて、後年において様々なメディアでの展開を見せた『妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール』の物語であるが、その物語の中では【平行世界】という表記でパラレルワールドのことを表している。
通常、以前の表記であれば【平行世界】ではなく【並行世界】と表すことが主流であったのであるが、現在では【平行世界】と表記することが主流となっている。
はたしてそれはいったい何故なのか?
それには先の妖精たちに関わる事件を解説していたとある有名な学者あがりのTVコメンテーターの発言がきっかけになっていたのであった。
「ですからね、ある世界から分岐独立して出来た世界を並行世界、パラレルワールドと称しているわけですが、今回確認出来た妖精世界というパラレルワールドは、並行世界というよりは平行世界と表現したほうがよろしいかと思うわけですよ」
そう言いながら学者コメンテーターはフリップを出す。そこには次のように書かれていた。
✕ 並行世界
○ 平行世界
「並行世界という言葉のニュアンスには、並んで存在しているという意味合いが含まれていますが、多分にややずれて存在しているという意味合いも感じられます」
そして彼は何も書かれていないボードに一本の線と、その線と並んでいるが微妙にずれたもう一本の線を書き足した。
「対して平行世界と言ったときのニュアンスには、定規で引いたようにピタリと並んでいる平行線のように、最初の線と全く同じと言って良い程の線というか世界という意味が込められています」
今度はわざわざ定規を使って二本の平行線を引いてその一本に妖精世界と書き、もう一本の線に人間世界と書いた。
「このように定規で書かれた二本の線は書かれている場所こそ違いますが、線としての形と向きは全く同じで違いがありません。そしてこれは妖精世界と人間世界の関係と同じなのです」
「そもそも本来なら異世界と呼んでも良いはずの並行世界において、惑星上の地形が全て一致し、言語まで一致するという点を鑑 みて、更には妖精世界と人間世界は途中までの歴史すら一致するらしいということで、並行世界とは呼べず、平行世界と呼ぶべきなのです」
後日、この学者コメンテーターの発言はネット上でも拡散し、多くの賛同者を得ることになる。
そして事情通ぶる人は妖精世界のことを表すのに、あえて【平行世界】という言葉を使うようになるのであるが、やがて【平行世界】という表記が【並行世界】という表記を駆逐するようになり、後年ではパラレルワールド、異世界のこと全てを、【平行世界】と表記するようになったのである。
(作者解説)
本来、本作のリニューアル前の作品である『妖精的日常生活』という作品において、私が、並行世界と記述しようとしたのに平行世界と間違えて記述したことによる言い訳ネタです。
感想等で誰かが突っ込んでくれたら、上記のような事情があったのですよと言い返す予定だったのですが、誰も突っ込んでくれないので今回の小ネタ集に入れてみました。
〓〓〓 小ネタ その二 日本政府による復興支援 〓〓〓
本編の物語が終了して直後のことであるが、当事者である加賀重工より今回の事件の詳細な顛末の報告を聞いて、日本政府はいわゆる【大召喚】事件の後始末に翻弄 されることになる。
まず今回の世界各地の地震や津波に火山噴火等々の天変地異は純粋な自然災害というわけではなく、人為的な【大召喚】というきっかけで引き起こされたものであるというのが明らかであったからだ。
『この事実が世界に知られたらまずい』
と、日本政府の面々はまずそう思ったのだが、考えてみれば既に加賀重工からその件は発表済みであることに思い至り、思わず床に手をつきたくなってくるのであった。
そこで考えに考えた末に決定された方針は、全世界に対して今回の件について表面上は謝罪をしつつ、魔法というファクターを加味した新たな日本の軍事的な能力を誇示することであった。
いわば極めて婉曲的ではあるが一種の砲艦外交をすることによって、世界各国からの反発や非難を力ずくで押さえ込んでしまおうという方針を決定したのであった。
『召喚ゲート、埋め立て予定の海上に繋がりました』
「OK! じゃあこれからこの辺り一帯の瓦礫を一気に召喚除去しまーすっ!!」
無線からの準備完了の合図を受けてそう声をあげたのはトンボ羽の若い妖精の女性であった。少女と言うにはちょっと薹 が立っている年齢だ。およそ人間で言えば20代前半くらいに見える。髪の毛は黒い短髪であり、妖精の例に漏れず巨乳である。
そして何よりも特徴的であったのは、陸自仕様の迷彩服を着用していたのであった。
そう、彼女は妖精の女性陸上自衛官であったのだ。……ま、元はむさくるしい筋肉だるまの男だったんだけど、それはまあどうでもいい。
彼女は瓦礫だらけの都市の中心部上空二百メートルに光輝く巨大な召喚ゲートが形成されたのを確認すると、その更に上空へと飛び立って行った。
この召喚ゲートは彼女とはまた別の妖精が作り出し維持しているものであり、都市上空と近隣にある海上とを繋いでいるのであった。
「いっきまーすっ!」
そして彼女は都市を覆う瓦礫の山を目につく範囲から順次【召喚ゲートの真上】へと召喚する。通常の召喚魔法により極短距離を移動した瓦礫の山は、今度は重力に引かれて次々と召喚ゲートへと吸い込まれていった。
そして召喚ゲートを介して瓦礫の山は次々と埋め立て予定の海上へと移動していったのだが、この様子はテレビ映像として、更に後にはネット動画として全世界に放映・拡散されていくことになる。
そして世界は気づくのである。今回は海上の埋め立て予定地へと召喚移動した瓦礫の山々が、もしも【大都市部や軍事施設の上空】へと召喚されたとしたら……。
あるいは召喚されたのが瓦礫の山々等ではなく、爆弾や有毒物質だったなら……。
別に危険物質でなくとも、大質量そのものが脅威となる氷山が南極からでも召喚されたなら……。
核など持っていなくても、いやむしろ核兵器で無いだけに簡単に使用することが可能なので、実際の脅威としては核兵器以上の【兵器システム】を日本が保有したのだと、世界は気づいてしまったのだ。
こうして世界は、【とりあえず】日本に対して先の大召喚に伴う世界各地における天変地異に依る被害についての補償を声高に要求することは止めたのであった。
まあ、日本に対しては『あの時の被害が今でも影響してまして……』と、【遠回しに遠慮がちに要求する】ほうがはるかに効果が高いという事実が広まっただけという話もある。
結局のところ日本政府としては、『災害に対して補償はしてあげるから、日本を非難することはやめてね。さもないとお宅の国がどうなってもしらないよ♪』という主張をし、世界も渋々ながらそれを飲んだのであった。
但し、アメリカ合衆国だけは表面上はともかく、本心では納得しないのであった。
というわけで次の話へと続く……。
〓〓〓 小ネタ その三 The Magic war 〓〓〓
西暦2016年、後世において大召喚と呼称されるようになった事件以後、すなわち我々が住んでいた地球から離れること200万kmの宙域に妖精世界の地球と月がまるごと召喚された事件以後、アメリカ合衆国は憂鬱だった。
せめてその大召喚が純粋な自然現象であったならばこうまで憂鬱な事態にはなっていなかったであろうが、残念ながそれは完全に人為的なものだった。いや人為的な現象だとしても合衆国の手によるものならばまったく問題はなかったはずだ。問題なのは大召喚を行ったのが日本であったということだ。
西暦2000年以降、パラレルワールドである異世界の妖精が人間の身体のみを召喚し、代わりに妖精の身体を押し付けていくという現代におけるチェンジリング現象が日本を中心にして起こっていたことは、オカルト愛好家のみならず広く知られていたことだったが、その現象の結末が機械によって強化増幅された召喚魔法によって異世界の地球と月がまるごと召喚されてしまうことになろうとは、世界中の誰一人として思いもしなかった。
そしてそれは、覇権国としてのアメリカ合衆国の終わりの始まりだったのだ。
「……以上の理由により原油相場は下げ止まることなく下げ続けており、1バレル1ドルという水準すらあり得るのでは無いのかという予測をする市場関係者も出てきています」
大統領主席補佐官のブレイデン・テイラーは感情を込めることの無い淡々とした声で、第45代アメリカ合衆国大統領ギャビン・ガルシアに報告をしていた。すでに世間では周知の事実を報告しなければならないという虚しさを感じてはいたものの、常識人というか、つまるところ頭の固い大統領に対しては必要な儀式だと自分を納得させていた。
「それもこれも、日本人達の魔法のせいだと言うのかね」
ギャビン大統領は、『魔法』という言葉を使うとき、忌々しそうに顔を歪めた。敬虔なキリスト教徒である彼にとって、魔法とは文字通り悪魔の所業であり、忌むべきものだったのだ。
「元人間の妖精達と日本人の魔法のせいですね。魔法を使っているのは主に妖精達ですが、最近では魔法増幅装置、ブースーターによって純粋な人間である日本人の中にも魔法を使うことができる人材、いわゆる魔法使いが増えてきているそうです」
反対にブレイデン主席補佐官は、冷静な仮面を崩さない。たとえ心の中はどうだとしても、感情をあらわにした報告により大統領の決断に影響を与えてはいけないからだ。
「そして魔法を利用することによって、燃料としての石油を必要としない産業構造へと変化して来ていると、そういうわけだな」
感情では否定しても、現実であるなら認めなければならない。覇権国であるアメリカ合衆国大統領は、リアリストでもあった。
「正確には産業構造の転換は徐々に進んでいるというところですね。原油相場が暴落している現時点での主な原因は、日本で開発された召喚魔法を応用した原油採掘法によって、実質的な採掘コストが限りなくゼロに近づいていくだろうということが明確になったことです。妖精達が使う魔法に、生物や物質を召喚する召喚魔法がありますが、日本人達は原油を含めたあらゆる資源の採掘に召喚魔法を応用していることが確認されています」
さもアメリカ合衆国国防情報局が調べあげたかのような態度をとっているが、実際のところ日本の石油採掘会社のホームページ等を見れば誰もが閲覧できる一般的な情報として掲載されている内容でしかなかった。
「全くもって忌々しいことだ」
ギャビン大統領はそう吐き捨てると、しばし黙していたのだが、やがて声を低くしてブレイデン主席補佐官に質問をした。
「それで、例の件はどうなっている?」
「順調、と言えば順調です。日本政府に対して、近日中に某北の国から新式の核弾頭ミサイルが複数、東京に向けて発射される予定らしいと伝えましたが、パニックが起きる様子は何もありません。おそらくよほど迎撃に関して自信があるのではないかと」
実際のところ日本としてはキャンセラーやブースターによって強化された召喚魔法とフェアリードライブ搭載の護衛艦や小型艇があれば、核弾頭ミサイルが数百、数千と発射されようが余裕で対処出来るとの判断があったのだが、もちろん米国はそのことを知らない。
そして日本政府としては、『日本が持つ魔法を使った迎撃能力の一端を見せつけることにより米国をはじめとした世界各国に圧力をかける』ことができるので、むしろこのような状況は実のところ大歓迎であったのだ。
ちなみに小型艇と表現しているが、実質的には戦闘機である。但し魔法以外の武器が搭載されていないので、あえて小型艇と言っているのだ。
「ブラフではないのか? もしも万が一だが実際に東京に着弾して爆発するようなことがあれば、そしてそれに合衆国が関与していることが発覚したら、我が国は世界中から非難を浴びるぞ」
「その可能性を考え、弾頭には遠隔で起爆させて空中で破壊出来るように細工がしてあります」
「そうか。ならば計画は GO だ。但し公式には私は何も関与していない。仮に我が国が疑われても政府の関与は一切否定しろ。ダミー企業による独断という形は崩すな」
なにやら不穏な会話であった。
さて、こうしてホワイトハウスの中でホワイトならぬブラック満載の計画が始動されたのだが、その内容は『魔法という力を得た日本の軍事的な防衛力の実体を確かめる為に、核弾頭ミサイルを実際に撃ち込んでみよう』という発案者の常識を疑うようなものであった。
まあそれだけアメリカ合衆国も心理的に追い詰められていたということであろう。
もちろんアメリカ合衆国そのものが実際に核弾頭ミサイルを日本に打ち込むわけにはいかないので、迂回策を取ることになる。
実行犯として三代目の将軍様が治める某北の国が選ばれた。彼の国ならば日本に核弾頭ミサイルを打ち込んだとしてもおかしくないと判断されたのだ。
そしてその某北の国を影から支援するのが陸続きの人口だけは多い赤い大国である。赤い大国は『責任は持つから』と言いつつ、密約によりアメリカ合衆国より手に入れた核弾頭ミサイルを某北の国に提供した。
その際に赤い大国がアメリカ合衆国製の核弾頭ミサイルを分析することを考慮して、相当にスペックダウンしたものを提供してあるのはもちろん、外見は某北の国製に見えるように偽装がほどこしてあるのはいうまでもない。
そして核弾頭ミサイルが某北の国から発射されたのだが……。
「低軌道衛星高度に滞空しているフェアリードライブ搭載航宙護衛艦『星虹 』より入電っ! 事前情報通り核弾頭付きミサイルと思われる弾道弾が発射されました。その数、4発っ!」
「よし、日本の排他的経済水域(EEZ)に入った段階で、弾道弾は日本への【落とし物】と断定すると宣言する。宣言を受けたら直ちに『星虹 』の妖精部隊は弾道弾のすべてを宇宙空間に召喚せよ」
他者が所有するものを召喚することは出来ないのが召喚魔法の弱点であるのだが、日本政府は、【日本を攻撃する為に日本の排他的経済水域(EEZ)・領土内に入った弾道弾をはじめとする武器弾薬は【落とし物】もしくは【違法所持品】として、その所有権を日本政府に移すと宣言することが決定され、それを世界中に公表していた。
自衛隊は日本政府の決定を受け、粛々(しゅくしゅく)と事前に決められた手順に従って弾道弾の召喚作業を実行した。
まずは弾道弾に使われている電子機器によって魔法が妨害されないほど強力な召喚魔法を発動させる為に、航宙護衛艦『星虹 』に搭載された複数のブースターが全力で稼働する。
更にサポートする目的でフェアリードライブ搭載の小型艇が6機、緊急スクランブルした。
現時点でも宇宙空間であれば光速度の数%の速度まで出せる性能があることが確認されているフェアリードライブ搭載の小型艇である。緊急スクランブルをして、わずか1分後には弾道弾に随伴飛行をし、キャンセラーの効力範囲内に弾道弾を包み込んだのだった。こうなってしまうと仮に弾道弾がジャマーを搭載していたとしても召喚魔法から逃れることは出来なくなる。
もちろんジャマーを搭載していなければ、キャンセラーのサポートがなくても弾道弾を召喚することは簡単であるのだが、念には念を入れるというのが基本である。
そして『星虹 』の妖精部隊はその仕事をきっちりこなした。宇宙空間に向けて上昇中だった4発の弾道弾はまだ燃料が残っている状態で宇宙空間に召喚され、軌道を大きくそらした上で爆発したのだ。
その後、アメリカ合衆国は2番めの作戦として数ヶ月後にまたしても某北の国を使って潜水艦発射型の核弾頭ミサイルを東京に向けて発射したのだが、そのミサイルは関東地方のすべてを覆う巨大な重力場と電磁場による複合バリヤにより防がれてしまった。
もちろんその直後に放射線を放出する放射性物質は召喚魔法により完璧に除去されたので、放射能汚染の心配は一切なかった。
こうしてアメリカ合衆国は核によっても脅すことが出来ない程の防衛力を日本が持ったことを認識したのだったが、それはつまり日本が米国の同盟国でありながら、同時に米国の仮想敵国の筆頭に位置した瞬間でもあった。
なお、その後のアメリカ合衆国は日本に対抗する為に魔法とは異なった技術を手に入れようとするのであるが、それはまた別な話である。
ちなみに某北の国であるが、赤い大国がしっかりと【 責任を取って 】アレしてコレしてくれたのは言うまでもない。毒をもって毒を制すということで、まことにありがたいことであった。
(作者解説)
小ネタ二および三は、魔法を得た日本の軍事的な実力の一端を表現した内容になっています。
大召喚事件により結果的に世界全土は各種の天変地異により相当な被害を受けました。当然に世界は日本に対してその補償を求めるでしょう。
しかしいくら責任があるといっても日本にも経済的に出来ることと出来ないことがあります。というわけで作中の日本は新たに魔法の力で隔絶した軍事力を手に入れたという設定にしてあります。
その軍事力を背景に、正当な補償要求には出来る限り誠実に対応するが、理不尽な補償要求には断固として拒否するということになります。
まあ、そうでもしておかないと、今後の展開が世界と日本が戦争する話にしかならないような気がしましたから、そのルートを潰すという意味で、このような小ネタを入れてみました。
ところで本当なら、このあたりの話は小ネタでまとめるという感じではなく仮想戦記風に書いてみたいと思ったのですが、作者の力不足でとりあえずこんな形になりました。
現代兵器でドラゴンやモンスターなどのファンタジーな存在をやっつけるという話も好きですが、逆に魔法で現代兵器に対して無双するって話もありじゃないですかね? 特に魔法を発動させるのが日本というなら最高じゃないかと。
〓〓〓 小ネタ その四 フルリの地、命名の真実 〓〓〓
妖精たちが住む地球にも、かつては人間たちが住んでいた。
そして秋津島皇国における人間たちの遺跡が存在する場所を『フルリの地』といい、地理的には東京が存在する場所にあった。
機械達の侵略がある前は【世界で最も保存状態が良い遺跡】と呼ばれていたが、機械達が侵略を開始してからは【世界で唯一残った人間たちの遺跡】と呼ばれるようになっている。
さて、有史以来、秋津島皇国の妖精たちはかつて妖精たちを作り上げたという人間たちのことを偲び、決してその遺跡には入ろうとはしなかった。ただ神聖なものとして崇め奉るだけであった。
しかし今を去ること数百年前、海を渡った中央大陸の西の国であるアルサメス神聖帝国から大学者と呼ばれるハットシリシュが弟子たちを引き連れて秋津島皇国に来訪し、人間たちの遺跡に調査と称して入っていった。
そして彼らが遺跡の調査結果をまとめて本にして発表した時から、世界は、そして世界に引きずられる形で秋津島皇国でも、その遺跡がある地のことを【フルリの地】と呼ぶようになったのだという。
「ハットシリシュ様っ! 文字が書かれた板が見つかりましたっ!」
「なに、本当かっ! ……おお、まさにこれは秋津島文字。ふむ、勉強して来た甲斐があるというものだ。なになに、これは、フル・リ? そうかっ! ここはフルリというのかっ!」
実は人間世界の地球で言えばフランス語を母国語とするハットシリシュは、いくら勉強してきたとはいえ秋津島語を完全に読むことはできなかったのだが、それが数百年後にまで伝わる悲劇(喜劇)の原因となった。
せめてこの時、秋津島皇国の妖精が一人でも同行していればそんな事態は避けられたのであるが、事実はそうではなかった。
後日、ハットシリシュ一世と呼ばれるようになった大学者が書いた本、「フルリの地へ」は、妖精世界のあらゆる国で広く読まれ、大ベストセラーとなったのだが、秋津島皇国の妖精たちの間では、なんとも言えない苦笑と共に読まれることになった。
なぜならそこにはハットシリシュが【フルリ】と読んだ文字が正確にスケッチされて挿絵となっていたからだ。
「……これ、【フルリ】じゃなくて、【古里 】じゃね?」
(作者解説)
妖精世界の地球において存在した人間たちは、現在の私達よりも技術も社会も進んだものをもっていたという設定になっています。
というわけで彼ら人間たちは、文字記録を残すのに紙を使わない生活を送っていました。すべてを電子的な記録に頼っていたのです。
また建物につけられる看板なども、ホログラフィなどに置き換わり、物理的な形態を取っていないのが普通でした。
なので人間たちがどこかへ消え、妖精たちの時代になると、妖精たちが自分たちの為に残した本を別として、人間たち自身の文字記録は綺麗サッパリ消えてしまいました。
では【古里 】の文字が書かれた板は一体何だったのかと言うと、居酒屋を経営していたご主人が、過去に有ったという物理的な形をもった看板にこだわって同様のものをわざわざ作って掲げていて、それが残っていたという設定です。
ちなみに看板は完全な形では残っていなくて、【古里 】という文字だけが残っていましたが、全部残っていたとしたら、【居酒屋古里】と書かれていたのが分かったことでしょう。
〓〓〓 小ネタ その五 再チェンジリング 〓〓〓
「……ただいま。道彦さん」
「ああ、おかえりなさい。詩衣那……」
妖精たちの地球。今では妖精たちの地球とその衛星である月をあわせて、【第二地球圏】と呼ばれている。
その第二地球圏は秋津島皇国の帝都天邦 に新設された【加賀重工魔法研究所】において、所長である剣持道彦は加賀詩衣那の背中をそっと抱いていた。
そう、背中である。その背中には先程まであった蝶のような羽はなく、滑らかであった。
更に言うならその身体は妖精サイズではなく、かつてのように人間サイズであった。
「ええと、とにかく身体をお返し出来て良かったです。今まで約10年にも渡って身体をお貸しいただいて、ありがとうございました。おかげで機械たちの侵攻に何とか対抗することが出来ました」
抱き合うふたりを横で見ながら、さっきまで確かに加賀詩衣那であった紫色の蝶の羽をした妖精がホッとした様子でお礼を言う。
そうなのだ。加賀詩衣那は、元妖精で先程まで人間としての加賀詩衣那の身体になっていたコシャロットと身体を入れ替える魔法を使い、再チェンジリングを果たして元の人間の身体に戻っていたのだ。
「こちらこそ10年の間、無事でいてくれてありがとう御座いますとお礼を言わせてください」
「いや、その、無事とはとても言えないというか、身体のあちこちにけっこう傷を作ってしまいましたし……」
道彦所長と抱き合うのを止め、詩衣那はコシャロットに向き合うと頭を下げてお礼を言う。それに対してコシャロットは両手を前に伸ばして手のひらを詩衣那に向けて左右に振ってワタワタとしている。
「うーん、確かに肌の露出した部分を見てみる限り、小さな傷がけっこうあるな。まあ、顔に傷はついてないし、問題ないと言えば問題ないかな」
詩衣那の首筋から肩にかけてとか手足の部分を見ながら、剣持所長はふむふむとうなづいている。
ちなみに服に隠された部分の皮膚の状態は、なるべく近いうちにアレコレしながら確認して詩衣那さんを安心させなければと思っているのは言うまでもない。
まったくこのエロいやつめというなかれ。剣持所長も詩衣那さんも既にいい年なのだ。詩衣那さんは妖精にチェンジリングする約10年前にはとっくに結婚適齢期であったのを思い起こせば、そういうことはもうとにかく早いに越したことはないのだ。
「コシャロット様、これらの傷は過去の私に対する戒めです。お気になさらずに」
詩衣那という人間の身体を得たコシャロットは、約10年も機械たちとの戦争に身を投じていたのだ。多少の傷は作っても、四肢が欠損することもなく五体満足であったことを喜ばずしてなんとするということである。
「既に最初のチェンジリングから10年を経て、お互いの魂の波動にもズレが生じ始めていましたから上手くいくかと案じていましたが、どうやら問題なく再チェンジリングは終わったようですね」
なんとなく場が落ち着いたと見て、詩衣那とコシャロットの身体を入れ替える魔法を行使した秋津島皇国の女大魔導師と呼ばれているエラが飛んできた。その背後には弟子のマルナとアルナも控えている。
「チェンジリング用にチューニングされたブースターが役にたったようで何よりです。お互いを入れ替える魔法は、両者の魂の波動が一致していないと発動出来ないということでしたからね」
かつての、そしてこれからの恋人であり結婚相手となる加賀詩衣那の為であるので、剣持所長はとにかく頑張ったのである。
今回の場合、妖精の身体をしていた詩衣那のもつ魂の波動をブースターにより限界まで強化増幅し、その波動の中に人間の身体になっていたコシャロットを置く。するとやがて詩衣那の波動に影響されてコシャロットの波動が徐々に詩衣那の波動に同調していき、最後には同一の波動になるのだ。
そしてそこで身体を入れ替える魔法である魂を召喚する魔法を行使すれば、再チェンジリングが終了となる。
そんな剣持所長とエラのふたりが交互に解説する今回の再チェンジリングの手順の話を聞き終わった時、マルナがおずおずと手を上げながら発言した。
「……あの、今、ふと思ったんですけど、このブースターを使って両者の魂の波動のズレを一致させるという方法を使えば、元々魂の波動が一致していない同士を入れ替えるなんてこともできちゃったりしませんか?」
「「「「あっ!」」」」
後日の、魂の波動の一致という条件を必要としない、万人に対して行使可能な入れ替わり魔法が確立した瞬間であった。
(作者解説)
魂を入れ替える魔法とは、魂のみを召喚しあい入れ替える魔法です。お互いが術者となり入れ替えることも可能ですが、第三者が両者の合意のもとで魂を入れ替えることも可能です。
但しこの魔法は、お互いに入れ替わる者同士の魂の波動が一致していないと発動出来ないという設定になっていました。
しかしその縛りもチェンジリング用にチューニングされたブースターの存在により解除されましたので、今後の物語世界には、【お互いの同意さえ得られれば、相手を選ばずに入れ替わることが出来る魔法が存在する】という状況になります。
いろいろな話が書けそうですね。
ちなみに元人間の妖精も元妖精の人間も既に結婚して子供がいる場合、再チェンジリングを望まず、今の姿のままで生きていくことを望む場合が大半です。
また、独身のままでも、元人間の妖精の場合は、魔法を使える状態のままでいたいという希望が勝り、再チェンジリングを望まないということもあります。
〓〓〓 美姫と海斗の異宇宙漂流記 〓〓〓
「赤い星ばかりだね」
宇宙船うみねこ号の舷窓より外を見ていた美姫は独り言のようにつぶやいた。
「星が赤いということは、燃え尽きる寸前の古い星ということだね」
律儀にも美姫の言葉に反応して、返事をする海斗。なんとなく条件反射という雰囲気がなきにしもあらずという気の無さながなくもない。
「ということは、古い宇宙に来ちゃったということでいいんだよね?」
「まあ、そうだね」
妖精のふたり、美姫と海斗はもう何度めにかなる会話をけだるそうに繰り返した。あの機械たちとの戦いにて太陽表面からの送還魔法による脱出を果たしてから既に1ヶ月。ふたりは退屈していたのだった。
当初はすぐにでも召喚救助が行われると思い安心していたのだが、実際には数日経っても救助は行われなかった。それどころか通信も出来ない状況である。
召喚ゲートを経由した通信であるので、距離は関係なくリアルタイムでの通信が可能であるはずなのに、通信機はうんともすんとも言わないどころか、どうにも召喚ゲートが不安定なのだ。
ゲート自体はしっかりと形成されているのに、出口が詰まっているような、何かに封鎖されているような妙な感覚がある。
というわけで召喚ゲートという双方向にて機能する召喚魔法の発動は上手く行かなかったのだが、とりあえず普通の召喚魔法は問題なく発動したので、生存に必要な物資の補給に関しては心配はなかった。
まず最も重要な空気や水については、おそらく地球からではないだろうが、赤い星ばかりが存在する古い宇宙の何処かにあるだろう惑星から簡単に召喚することが出来た。ついでに食料についても秋津島皇国にて紹介されたグリーンスライムによく似たものを召喚することが出来たので、まあ何とかなった。
おそらく宇宙全体で見れば、グリーンスライムに酷似した生き物というのは多数存在しているものなのだろう。……全体的に緑色の体色の所々に黄色い斑点があったりするのは、まあ気にしないでおこう。
「海斗さん、ものすごーく暇なんだけど、どうしようか?」
救助についてはもはや地道に待つしかないとの結論に達していたふたりは、船内に置いてあった雑誌や本を読んだり、映画作品のDVDなどを見たりして時間を潰していたのだが、すぐに読むもの見るものが無くなってしまうことになる。
当面の生存に支障がなくなると、待っているのは完全に暇な時間だけとなる。再度の送還魔法による移動も、【研究所&秋津島皇国】からの魔力供給が無い今、魔力不足ということで出来ないのだから、本当に待つしか出来ない暇な時間だけしか無いのだ。
「美姫さん、暇なのはわかったんだけど、なんで宇宙服を脱ごうとしているのかな?」
「だって、暇なんだもん」
美姫はするするとスキンタイトな宇宙服を胸のところでちょっと引っかかりながらも脱いでしまう。そして『ぶるんっ!』というか『ばるんっ!』というか、そんな擬音が聞こえてきそうな感じで美姫の爆乳が、宇宙服の下から存在感を主張した。
「だから何で暇だったら、宇宙服を脱ぐことになるのかな?」
「えーとね。宇宙服を着たままだと、下着が脱げないでしょ」
ぎこちない動きでその場を逃れようとし始めた海斗だったが、逃れようが無い宇宙船の船内である。海斗は美姫の考えていることが分かっているだけにたらりと冷や汗を流すのが精一杯だった。
「今、下着を脱ぐ必要は無いんじゃないかな?」
「えっ? 海斗さんって、下着が有ったほうが興奮するタイプなの?」
揺れる胸を抑える為のちょっときつめのスポーツタイプのようなブラジャーを脱ぎかけた美姫がその手を途中で止める。
ちなみに人間が付けるようなカップがあるブラジャーを妖精サイズで作ることは諸般の事情でなされていない。
まあ主にコストが問題なのだが、それも秋津島皇国という妖精の国の存在がそういった事情を解決することになるのかもしれない。しかしそれはまた別な話である。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「海斗さんって人間だった頃は女の人だったから、もしかして男の人相手じゃないと興奮しないってことは……無いよね」
ちらりと海斗の股間を見て美姫はニヤリと笑うと、止めていた手を動かして上半身を完全に裸にしてしまった。なぜなら海斗の股間には宇宙服を内部から押し上げてしまう何かがバンバンに自己主張していたからだ。
もちろん人間だった頃には間違いなく男だった美姫には、それが何かは完全に分かっているし、その状態の男の気持ちというのも、よぉーく理解出来ている。
ただ、海斗は真面目なタイプだとも理解しているから、女のほうからリードしないと仲が良い若い男女が致すべきことを致すことが出来ないということも理解している。
「でも美姫さん、こういうことはその……、やっぱりちゃんとしてからじゃないと駄目というか、なんというか」
股間を膨らませながらも、まだ理性が勝っている海斗であったが、『ちゃんとしてからなら美姫とそういうことをしても良い』と、実質OKのサインを出していることには気がついていないようだ。
「もう、女にここまでさせておいて手を出さないだなんて、海斗さんってば意地悪だよぉ」
美姫は甘えるような声を出しながらショーツ1枚の姿のままで文字通り海斗に飛びつくと、ギュッとその胸を押し付けながら海斗の一番硬い部分を、宇宙服の上からそっとなでた。
「み、美姫さんっ!」
「ほら、この子も宇宙服がキツくてしょうがないから、早く脱いで欲しいって言ってるよ」
あそこだけではなく体全体を硬直させる海斗の宇宙服を、美姫は手慣れた手つきで脱がせていった。そうとうイメージトレーニングを積んだのだろう。まあ、妄想とも言うかもしれないが。
そして宇宙服を脱がされた海斗は、褐色の肌の上にランニングシャツとトランクスを穿いただけの姿になった。その筋肉質な身体を見て、美姫は『ほうっ』と、ため息を吐く。どうやら妖精少女となって既に約2年。男性の筋肉に魅力を感じる程度には精神の女性化も進行しているようだ。
「本当にいいんだね。美姫さん」
「美姫って呼んで。私も海斗って呼ぶから」
「……美姫」
「海斗……」
そして見つめ合うふたりはその顔を近づけ、唇と唇を軽く重ね合わせた後、今度はじっくりと心ゆくまでその口をくっつけ合い、舌を絡ませあったのだった。
長く続いた口づけが終わると、ふたりはまだ身につけていた下着をすべて剥ぎ取ると、一糸まとわぬ姿になり、お互いの肌を密着させるのだった。
そして一通りの愛撫が終わると、ふたりの行為は徐々にエスカレートし、いくところまでいったのであった。
さて、後年において様々なメディアでの展開を見せた『妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール』の物語であるが、その物語の中では【平行世界】という表記でパラレルワールドのことを表している。
通常、以前の表記であれば【平行世界】ではなく【並行世界】と表すことが主流であったのであるが、現在では【平行世界】と表記することが主流となっている。
はたしてそれはいったい何故なのか?
それには先の妖精たちに関わる事件を解説していたとある有名な学者あがりのTVコメンテーターの発言がきっかけになっていたのであった。
「ですからね、ある世界から分岐独立して出来た世界を並行世界、パラレルワールドと称しているわけですが、今回確認出来た妖精世界というパラレルワールドは、並行世界というよりは平行世界と表現したほうがよろしいかと思うわけですよ」
そう言いながら学者コメンテーターはフリップを出す。そこには次のように書かれていた。
✕ 並行世界
○ 平行世界
「並行世界という言葉のニュアンスには、並んで存在しているという意味合いが含まれていますが、多分にややずれて存在しているという意味合いも感じられます」
そして彼は何も書かれていないボードに一本の線と、その線と並んでいるが微妙にずれたもう一本の線を書き足した。
「対して平行世界と言ったときのニュアンスには、定規で引いたようにピタリと並んでいる平行線のように、最初の線と全く同じと言って良い程の線というか世界という意味が込められています」
今度はわざわざ定規を使って二本の平行線を引いてその一本に妖精世界と書き、もう一本の線に人間世界と書いた。
「このように定規で書かれた二本の線は書かれている場所こそ違いますが、線としての形と向きは全く同じで違いがありません。そしてこれは妖精世界と人間世界の関係と同じなのです」
「そもそも本来なら異世界と呼んでも良いはずの並行世界において、惑星上の地形が全て一致し、言語まで一致するという点を
後日、この学者コメンテーターの発言はネット上でも拡散し、多くの賛同者を得ることになる。
そして事情通ぶる人は妖精世界のことを表すのに、あえて【平行世界】という言葉を使うようになるのであるが、やがて【平行世界】という表記が【並行世界】という表記を駆逐するようになり、後年ではパラレルワールド、異世界のこと全てを、【平行世界】と表記するようになったのである。
(作者解説)
本来、本作のリニューアル前の作品である『妖精的日常生活』という作品において、私が、並行世界と記述しようとしたのに平行世界と間違えて記述したことによる言い訳ネタです。
感想等で誰かが突っ込んでくれたら、上記のような事情があったのですよと言い返す予定だったのですが、誰も突っ込んでくれないので今回の小ネタ集に入れてみました。
〓〓〓 小ネタ その二 日本政府による復興支援 〓〓〓
本編の物語が終了して直後のことであるが、当事者である加賀重工より今回の事件の詳細な顛末の報告を聞いて、日本政府はいわゆる【大召喚】事件の後始末に
まず今回の世界各地の地震や津波に火山噴火等々の天変地異は純粋な自然災害というわけではなく、人為的な【大召喚】というきっかけで引き起こされたものであるというのが明らかであったからだ。
『この事実が世界に知られたらまずい』
と、日本政府の面々はまずそう思ったのだが、考えてみれば既に加賀重工からその件は発表済みであることに思い至り、思わず床に手をつきたくなってくるのであった。
そこで考えに考えた末に決定された方針は、全世界に対して今回の件について表面上は謝罪をしつつ、魔法というファクターを加味した新たな日本の軍事的な能力を誇示することであった。
いわば極めて婉曲的ではあるが一種の砲艦外交をすることによって、世界各国からの反発や非難を力ずくで押さえ込んでしまおうという方針を決定したのであった。
『召喚ゲート、埋め立て予定の海上に繋がりました』
「OK! じゃあこれからこの辺り一帯の瓦礫を一気に召喚除去しまーすっ!!」
無線からの準備完了の合図を受けてそう声をあげたのはトンボ羽の若い妖精の女性であった。少女と言うにはちょっと
そして何よりも特徴的であったのは、陸自仕様の迷彩服を着用していたのであった。
そう、彼女は妖精の女性陸上自衛官であったのだ。……ま、元はむさくるしい筋肉だるまの男だったんだけど、それはまあどうでもいい。
彼女は瓦礫だらけの都市の中心部上空二百メートルに光輝く巨大な召喚ゲートが形成されたのを確認すると、その更に上空へと飛び立って行った。
この召喚ゲートは彼女とはまた別の妖精が作り出し維持しているものであり、都市上空と近隣にある海上とを繋いでいるのであった。
「いっきまーすっ!」
そして彼女は都市を覆う瓦礫の山を目につく範囲から順次【召喚ゲートの真上】へと召喚する。通常の召喚魔法により極短距離を移動した瓦礫の山は、今度は重力に引かれて次々と召喚ゲートへと吸い込まれていった。
そして召喚ゲートを介して瓦礫の山は次々と埋め立て予定の海上へと移動していったのだが、この様子はテレビ映像として、更に後にはネット動画として全世界に放映・拡散されていくことになる。
そして世界は気づくのである。今回は海上の埋め立て予定地へと召喚移動した瓦礫の山々が、もしも【大都市部や軍事施設の上空】へと召喚されたとしたら……。
あるいは召喚されたのが瓦礫の山々等ではなく、爆弾や有毒物質だったなら……。
別に危険物質でなくとも、大質量そのものが脅威となる氷山が南極からでも召喚されたなら……。
核など持っていなくても、いやむしろ核兵器で無いだけに簡単に使用することが可能なので、実際の脅威としては核兵器以上の【兵器システム】を日本が保有したのだと、世界は気づいてしまったのだ。
こうして世界は、【とりあえず】日本に対して先の大召喚に伴う世界各地における天変地異に依る被害についての補償を声高に要求することは止めたのであった。
まあ、日本に対しては『あの時の被害が今でも影響してまして……』と、【遠回しに遠慮がちに要求する】ほうがはるかに効果が高いという事実が広まっただけという話もある。
結局のところ日本政府としては、『災害に対して補償はしてあげるから、日本を非難することはやめてね。さもないとお宅の国がどうなってもしらないよ♪』という主張をし、世界も渋々ながらそれを飲んだのであった。
但し、アメリカ合衆国だけは表面上はともかく、本心では納得しないのであった。
というわけで次の話へと続く……。
〓〓〓 小ネタ その三 The Magic war 〓〓〓
西暦2016年、後世において大召喚と呼称されるようになった事件以後、すなわち我々が住んでいた地球から離れること200万kmの宙域に妖精世界の地球と月がまるごと召喚された事件以後、アメリカ合衆国は憂鬱だった。
せめてその大召喚が純粋な自然現象であったならばこうまで憂鬱な事態にはなっていなかったであろうが、残念ながそれは完全に人為的なものだった。いや人為的な現象だとしても合衆国の手によるものならばまったく問題はなかったはずだ。問題なのは大召喚を行ったのが日本であったということだ。
西暦2000年以降、パラレルワールドである異世界の妖精が人間の身体のみを召喚し、代わりに妖精の身体を押し付けていくという現代におけるチェンジリング現象が日本を中心にして起こっていたことは、オカルト愛好家のみならず広く知られていたことだったが、その現象の結末が機械によって強化増幅された召喚魔法によって異世界の地球と月がまるごと召喚されてしまうことになろうとは、世界中の誰一人として思いもしなかった。
そしてそれは、覇権国としてのアメリカ合衆国の終わりの始まりだったのだ。
「……以上の理由により原油相場は下げ止まることなく下げ続けており、1バレル1ドルという水準すらあり得るのでは無いのかという予測をする市場関係者も出てきています」
大統領主席補佐官のブレイデン・テイラーは感情を込めることの無い淡々とした声で、第45代アメリカ合衆国大統領ギャビン・ガルシアに報告をしていた。すでに世間では周知の事実を報告しなければならないという虚しさを感じてはいたものの、常識人というか、つまるところ頭の固い大統領に対しては必要な儀式だと自分を納得させていた。
「それもこれも、日本人達の魔法のせいだと言うのかね」
ギャビン大統領は、『魔法』という言葉を使うとき、忌々しそうに顔を歪めた。敬虔なキリスト教徒である彼にとって、魔法とは文字通り悪魔の所業であり、忌むべきものだったのだ。
「元人間の妖精達と日本人の魔法のせいですね。魔法を使っているのは主に妖精達ですが、最近では魔法増幅装置、ブースーターによって純粋な人間である日本人の中にも魔法を使うことができる人材、いわゆる魔法使いが増えてきているそうです」
反対にブレイデン主席補佐官は、冷静な仮面を崩さない。たとえ心の中はどうだとしても、感情をあらわにした報告により大統領の決断に影響を与えてはいけないからだ。
「そして魔法を利用することによって、燃料としての石油を必要としない産業構造へと変化して来ていると、そういうわけだな」
感情では否定しても、現実であるなら認めなければならない。覇権国であるアメリカ合衆国大統領は、リアリストでもあった。
「正確には産業構造の転換は徐々に進んでいるというところですね。原油相場が暴落している現時点での主な原因は、日本で開発された召喚魔法を応用した原油採掘法によって、実質的な採掘コストが限りなくゼロに近づいていくだろうということが明確になったことです。妖精達が使う魔法に、生物や物質を召喚する召喚魔法がありますが、日本人達は原油を含めたあらゆる資源の採掘に召喚魔法を応用していることが確認されています」
さもアメリカ合衆国国防情報局が調べあげたかのような態度をとっているが、実際のところ日本の石油採掘会社のホームページ等を見れば誰もが閲覧できる一般的な情報として掲載されている内容でしかなかった。
「全くもって忌々しいことだ」
ギャビン大統領はそう吐き捨てると、しばし黙していたのだが、やがて声を低くしてブレイデン主席補佐官に質問をした。
「それで、例の件はどうなっている?」
「順調、と言えば順調です。日本政府に対して、近日中に某北の国から新式の核弾頭ミサイルが複数、東京に向けて発射される予定らしいと伝えましたが、パニックが起きる様子は何もありません。おそらくよほど迎撃に関して自信があるのではないかと」
実際のところ日本としてはキャンセラーやブースターによって強化された召喚魔法とフェアリードライブ搭載の護衛艦や小型艇があれば、核弾頭ミサイルが数百、数千と発射されようが余裕で対処出来るとの判断があったのだが、もちろん米国はそのことを知らない。
そして日本政府としては、『日本が持つ魔法を使った迎撃能力の一端を見せつけることにより米国をはじめとした世界各国に圧力をかける』ことができるので、むしろこのような状況は実のところ大歓迎であったのだ。
ちなみに小型艇と表現しているが、実質的には戦闘機である。但し魔法以外の武器が搭載されていないので、あえて小型艇と言っているのだ。
「ブラフではないのか? もしも万が一だが実際に東京に着弾して爆発するようなことがあれば、そしてそれに合衆国が関与していることが発覚したら、我が国は世界中から非難を浴びるぞ」
「その可能性を考え、弾頭には遠隔で起爆させて空中で破壊出来るように細工がしてあります」
「そうか。ならば計画は GO だ。但し公式には私は何も関与していない。仮に我が国が疑われても政府の関与は一切否定しろ。ダミー企業による独断という形は崩すな」
なにやら不穏な会話であった。
さて、こうしてホワイトハウスの中でホワイトならぬブラック満載の計画が始動されたのだが、その内容は『魔法という力を得た日本の軍事的な防衛力の実体を確かめる為に、核弾頭ミサイルを実際に撃ち込んでみよう』という発案者の常識を疑うようなものであった。
まあそれだけアメリカ合衆国も心理的に追い詰められていたということであろう。
もちろんアメリカ合衆国そのものが実際に核弾頭ミサイルを日本に打ち込むわけにはいかないので、迂回策を取ることになる。
実行犯として三代目の将軍様が治める某北の国が選ばれた。彼の国ならば日本に核弾頭ミサイルを打ち込んだとしてもおかしくないと判断されたのだ。
そしてその某北の国を影から支援するのが陸続きの人口だけは多い赤い大国である。赤い大国は『責任は持つから』と言いつつ、密約によりアメリカ合衆国より手に入れた核弾頭ミサイルを某北の国に提供した。
その際に赤い大国がアメリカ合衆国製の核弾頭ミサイルを分析することを考慮して、相当にスペックダウンしたものを提供してあるのはもちろん、外見は某北の国製に見えるように偽装がほどこしてあるのはいうまでもない。
そして核弾頭ミサイルが某北の国から発射されたのだが……。
「低軌道衛星高度に滞空しているフェアリードライブ搭載航宙護衛艦『
「よし、日本の排他的経済水域(EEZ)に入った段階で、弾道弾は日本への【落とし物】と断定すると宣言する。宣言を受けたら直ちに『
他者が所有するものを召喚することは出来ないのが召喚魔法の弱点であるのだが、日本政府は、【日本を攻撃する為に日本の排他的経済水域(EEZ)・領土内に入った弾道弾をはじめとする武器弾薬は【落とし物】もしくは【違法所持品】として、その所有権を日本政府に移すと宣言することが決定され、それを世界中に公表していた。
自衛隊は日本政府の決定を受け、粛々(しゅくしゅく)と事前に決められた手順に従って弾道弾の召喚作業を実行した。
まずは弾道弾に使われている電子機器によって魔法が妨害されないほど強力な召喚魔法を発動させる為に、航宙護衛艦『
更にサポートする目的でフェアリードライブ搭載の小型艇が6機、緊急スクランブルした。
現時点でも宇宙空間であれば光速度の数%の速度まで出せる性能があることが確認されているフェアリードライブ搭載の小型艇である。緊急スクランブルをして、わずか1分後には弾道弾に随伴飛行をし、キャンセラーの効力範囲内に弾道弾を包み込んだのだった。こうなってしまうと仮に弾道弾がジャマーを搭載していたとしても召喚魔法から逃れることは出来なくなる。
もちろんジャマーを搭載していなければ、キャンセラーのサポートがなくても弾道弾を召喚することは簡単であるのだが、念には念を入れるというのが基本である。
そして『
その後、アメリカ合衆国は2番めの作戦として数ヶ月後にまたしても某北の国を使って潜水艦発射型の核弾頭ミサイルを東京に向けて発射したのだが、そのミサイルは関東地方のすべてを覆う巨大な重力場と電磁場による複合バリヤにより防がれてしまった。
もちろんその直後に放射線を放出する放射性物質は召喚魔法により完璧に除去されたので、放射能汚染の心配は一切なかった。
こうしてアメリカ合衆国は核によっても脅すことが出来ない程の防衛力を日本が持ったことを認識したのだったが、それはつまり日本が米国の同盟国でありながら、同時に米国の仮想敵国の筆頭に位置した瞬間でもあった。
なお、その後のアメリカ合衆国は日本に対抗する為に魔法とは異なった技術を手に入れようとするのであるが、それはまた別な話である。
ちなみに某北の国であるが、赤い大国がしっかりと【 責任を取って 】アレしてコレしてくれたのは言うまでもない。毒をもって毒を制すということで、まことにありがたいことであった。
(作者解説)
小ネタ二および三は、魔法を得た日本の軍事的な実力の一端を表現した内容になっています。
大召喚事件により結果的に世界全土は各種の天変地異により相当な被害を受けました。当然に世界は日本に対してその補償を求めるでしょう。
しかしいくら責任があるといっても日本にも経済的に出来ることと出来ないことがあります。というわけで作中の日本は新たに魔法の力で隔絶した軍事力を手に入れたという設定にしてあります。
その軍事力を背景に、正当な補償要求には出来る限り誠実に対応するが、理不尽な補償要求には断固として拒否するということになります。
まあ、そうでもしておかないと、今後の展開が世界と日本が戦争する話にしかならないような気がしましたから、そのルートを潰すという意味で、このような小ネタを入れてみました。
ところで本当なら、このあたりの話は小ネタでまとめるという感じではなく仮想戦記風に書いてみたいと思ったのですが、作者の力不足でとりあえずこんな形になりました。
現代兵器でドラゴンやモンスターなどのファンタジーな存在をやっつけるという話も好きですが、逆に魔法で現代兵器に対して無双するって話もありじゃないですかね? 特に魔法を発動させるのが日本というなら最高じゃないかと。
〓〓〓 小ネタ その四 フルリの地、命名の真実 〓〓〓
妖精たちが住む地球にも、かつては人間たちが住んでいた。
そして秋津島皇国における人間たちの遺跡が存在する場所を『フルリの地』といい、地理的には東京が存在する場所にあった。
機械達の侵略がある前は【世界で最も保存状態が良い遺跡】と呼ばれていたが、機械達が侵略を開始してからは【世界で唯一残った人間たちの遺跡】と呼ばれるようになっている。
さて、有史以来、秋津島皇国の妖精たちはかつて妖精たちを作り上げたという人間たちのことを偲び、決してその遺跡には入ろうとはしなかった。ただ神聖なものとして崇め奉るだけであった。
しかし今を去ること数百年前、海を渡った中央大陸の西の国であるアルサメス神聖帝国から大学者と呼ばれるハットシリシュが弟子たちを引き連れて秋津島皇国に来訪し、人間たちの遺跡に調査と称して入っていった。
そして彼らが遺跡の調査結果をまとめて本にして発表した時から、世界は、そして世界に引きずられる形で秋津島皇国でも、その遺跡がある地のことを【フルリの地】と呼ぶようになったのだという。
「ハットシリシュ様っ! 文字が書かれた板が見つかりましたっ!」
「なに、本当かっ! ……おお、まさにこれは秋津島文字。ふむ、勉強して来た甲斐があるというものだ。なになに、これは、フル・リ? そうかっ! ここはフルリというのかっ!」
実は人間世界の地球で言えばフランス語を母国語とするハットシリシュは、いくら勉強してきたとはいえ秋津島語を完全に読むことはできなかったのだが、それが数百年後にまで伝わる悲劇(喜劇)の原因となった。
せめてこの時、秋津島皇国の妖精が一人でも同行していればそんな事態は避けられたのであるが、事実はそうではなかった。
後日、ハットシリシュ一世と呼ばれるようになった大学者が書いた本、「フルリの地へ」は、妖精世界のあらゆる国で広く読まれ、大ベストセラーとなったのだが、秋津島皇国の妖精たちの間では、なんとも言えない苦笑と共に読まれることになった。
なぜならそこにはハットシリシュが【フルリ】と読んだ文字が正確にスケッチされて挿絵となっていたからだ。
「……これ、【フルリ】じゃなくて、【
(作者解説)
妖精世界の地球において存在した人間たちは、現在の私達よりも技術も社会も進んだものをもっていたという設定になっています。
というわけで彼ら人間たちは、文字記録を残すのに紙を使わない生活を送っていました。すべてを電子的な記録に頼っていたのです。
また建物につけられる看板なども、ホログラフィなどに置き換わり、物理的な形態を取っていないのが普通でした。
なので人間たちがどこかへ消え、妖精たちの時代になると、妖精たちが自分たちの為に残した本を別として、人間たち自身の文字記録は綺麗サッパリ消えてしまいました。
では【
ちなみに看板は完全な形では残っていなくて、【
〓〓〓 小ネタ その五 再チェンジリング 〓〓〓
「……ただいま。道彦さん」
「ああ、おかえりなさい。詩衣那……」
妖精たちの地球。今では妖精たちの地球とその衛星である月をあわせて、【第二地球圏】と呼ばれている。
その第二地球圏は秋津島皇国の
そう、背中である。その背中には先程まであった蝶のような羽はなく、滑らかであった。
更に言うならその身体は妖精サイズではなく、かつてのように人間サイズであった。
「ええと、とにかく身体をお返し出来て良かったです。今まで約10年にも渡って身体をお貸しいただいて、ありがとうございました。おかげで機械たちの侵攻に何とか対抗することが出来ました」
抱き合うふたりを横で見ながら、さっきまで確かに加賀詩衣那であった紫色の蝶の羽をした妖精がホッとした様子でお礼を言う。
そうなのだ。加賀詩衣那は、元妖精で先程まで人間としての加賀詩衣那の身体になっていたコシャロットと身体を入れ替える魔法を使い、再チェンジリングを果たして元の人間の身体に戻っていたのだ。
「こちらこそ10年の間、無事でいてくれてありがとう御座いますとお礼を言わせてください」
「いや、その、無事とはとても言えないというか、身体のあちこちにけっこう傷を作ってしまいましたし……」
道彦所長と抱き合うのを止め、詩衣那はコシャロットに向き合うと頭を下げてお礼を言う。それに対してコシャロットは両手を前に伸ばして手のひらを詩衣那に向けて左右に振ってワタワタとしている。
「うーん、確かに肌の露出した部分を見てみる限り、小さな傷がけっこうあるな。まあ、顔に傷はついてないし、問題ないと言えば問題ないかな」
詩衣那の首筋から肩にかけてとか手足の部分を見ながら、剣持所長はふむふむとうなづいている。
ちなみに服に隠された部分の皮膚の状態は、なるべく近いうちにアレコレしながら確認して詩衣那さんを安心させなければと思っているのは言うまでもない。
まったくこのエロいやつめというなかれ。剣持所長も詩衣那さんも既にいい年なのだ。詩衣那さんは妖精にチェンジリングする約10年前にはとっくに結婚適齢期であったのを思い起こせば、そういうことはもうとにかく早いに越したことはないのだ。
「コシャロット様、これらの傷は過去の私に対する戒めです。お気になさらずに」
詩衣那という人間の身体を得たコシャロットは、約10年も機械たちとの戦争に身を投じていたのだ。多少の傷は作っても、四肢が欠損することもなく五体満足であったことを喜ばずしてなんとするということである。
「既に最初のチェンジリングから10年を経て、お互いの魂の波動にもズレが生じ始めていましたから上手くいくかと案じていましたが、どうやら問題なく再チェンジリングは終わったようですね」
なんとなく場が落ち着いたと見て、詩衣那とコシャロットの身体を入れ替える魔法を行使した秋津島皇国の女大魔導師と呼ばれているエラが飛んできた。その背後には弟子のマルナとアルナも控えている。
「チェンジリング用にチューニングされたブースターが役にたったようで何よりです。お互いを入れ替える魔法は、両者の魂の波動が一致していないと発動出来ないということでしたからね」
かつての、そしてこれからの恋人であり結婚相手となる加賀詩衣那の為であるので、剣持所長はとにかく頑張ったのである。
今回の場合、妖精の身体をしていた詩衣那のもつ魂の波動をブースターにより限界まで強化増幅し、その波動の中に人間の身体になっていたコシャロットを置く。するとやがて詩衣那の波動に影響されてコシャロットの波動が徐々に詩衣那の波動に同調していき、最後には同一の波動になるのだ。
そしてそこで身体を入れ替える魔法である魂を召喚する魔法を行使すれば、再チェンジリングが終了となる。
そんな剣持所長とエラのふたりが交互に解説する今回の再チェンジリングの手順の話を聞き終わった時、マルナがおずおずと手を上げながら発言した。
「……あの、今、ふと思ったんですけど、このブースターを使って両者の魂の波動のズレを一致させるという方法を使えば、元々魂の波動が一致していない同士を入れ替えるなんてこともできちゃったりしませんか?」
「「「「あっ!」」」」
後日の、魂の波動の一致という条件を必要としない、万人に対して行使可能な入れ替わり魔法が確立した瞬間であった。
(作者解説)
魂を入れ替える魔法とは、魂のみを召喚しあい入れ替える魔法です。お互いが術者となり入れ替えることも可能ですが、第三者が両者の合意のもとで魂を入れ替えることも可能です。
但しこの魔法は、お互いに入れ替わる者同士の魂の波動が一致していないと発動出来ないという設定になっていました。
しかしその縛りもチェンジリング用にチューニングされたブースターの存在により解除されましたので、今後の物語世界には、【お互いの同意さえ得られれば、相手を選ばずに入れ替わることが出来る魔法が存在する】という状況になります。
いろいろな話が書けそうですね。
ちなみに元人間の妖精も元妖精の人間も既に結婚して子供がいる場合、再チェンジリングを望まず、今の姿のままで生きていくことを望む場合が大半です。
また、独身のままでも、元人間の妖精の場合は、魔法を使える状態のままでいたいという希望が勝り、再チェンジリングを望まないということもあります。
〓〓〓 美姫と海斗の異宇宙漂流記 〓〓〓
「赤い星ばかりだね」
宇宙船うみねこ号の舷窓より外を見ていた美姫は独り言のようにつぶやいた。
「星が赤いということは、燃え尽きる寸前の古い星ということだね」
律儀にも美姫の言葉に反応して、返事をする海斗。なんとなく条件反射という雰囲気がなきにしもあらずという気の無さながなくもない。
「ということは、古い宇宙に来ちゃったということでいいんだよね?」
「まあ、そうだね」
妖精のふたり、美姫と海斗はもう何度めにかなる会話をけだるそうに繰り返した。あの機械たちとの戦いにて太陽表面からの送還魔法による脱出を果たしてから既に1ヶ月。ふたりは退屈していたのだった。
当初はすぐにでも召喚救助が行われると思い安心していたのだが、実際には数日経っても救助は行われなかった。それどころか通信も出来ない状況である。
召喚ゲートを経由した通信であるので、距離は関係なくリアルタイムでの通信が可能であるはずなのに、通信機はうんともすんとも言わないどころか、どうにも召喚ゲートが不安定なのだ。
ゲート自体はしっかりと形成されているのに、出口が詰まっているような、何かに封鎖されているような妙な感覚がある。
というわけで召喚ゲートという双方向にて機能する召喚魔法の発動は上手く行かなかったのだが、とりあえず普通の召喚魔法は問題なく発動したので、生存に必要な物資の補給に関しては心配はなかった。
まず最も重要な空気や水については、おそらく地球からではないだろうが、赤い星ばかりが存在する古い宇宙の何処かにあるだろう惑星から簡単に召喚することが出来た。ついでに食料についても秋津島皇国にて紹介されたグリーンスライムによく似たものを召喚することが出来たので、まあ何とかなった。
おそらく宇宙全体で見れば、グリーンスライムに酷似した生き物というのは多数存在しているものなのだろう。……全体的に緑色の体色の所々に黄色い斑点があったりするのは、まあ気にしないでおこう。
「海斗さん、ものすごーく暇なんだけど、どうしようか?」
救助についてはもはや地道に待つしかないとの結論に達していたふたりは、船内に置いてあった雑誌や本を読んだり、映画作品のDVDなどを見たりして時間を潰していたのだが、すぐに読むもの見るものが無くなってしまうことになる。
当面の生存に支障がなくなると、待っているのは完全に暇な時間だけとなる。再度の送還魔法による移動も、【研究所&秋津島皇国】からの魔力供給が無い今、魔力不足ということで出来ないのだから、本当に待つしか出来ない暇な時間だけしか無いのだ。
「美姫さん、暇なのはわかったんだけど、なんで宇宙服を脱ごうとしているのかな?」
「だって、暇なんだもん」
美姫はするするとスキンタイトな宇宙服を胸のところでちょっと引っかかりながらも脱いでしまう。そして『ぶるんっ!』というか『ばるんっ!』というか、そんな擬音が聞こえてきそうな感じで美姫の爆乳が、宇宙服の下から存在感を主張した。
「だから何で暇だったら、宇宙服を脱ぐことになるのかな?」
「えーとね。宇宙服を着たままだと、下着が脱げないでしょ」
ぎこちない動きでその場を逃れようとし始めた海斗だったが、逃れようが無い宇宙船の船内である。海斗は美姫の考えていることが分かっているだけにたらりと冷や汗を流すのが精一杯だった。
「今、下着を脱ぐ必要は無いんじゃないかな?」
「えっ? 海斗さんって、下着が有ったほうが興奮するタイプなの?」
揺れる胸を抑える為のちょっときつめのスポーツタイプのようなブラジャーを脱ぎかけた美姫がその手を途中で止める。
ちなみに人間が付けるようなカップがあるブラジャーを妖精サイズで作ることは諸般の事情でなされていない。
まあ主にコストが問題なのだが、それも秋津島皇国という妖精の国の存在がそういった事情を解決することになるのかもしれない。しかしそれはまた別な話である。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「海斗さんって人間だった頃は女の人だったから、もしかして男の人相手じゃないと興奮しないってことは……無いよね」
ちらりと海斗の股間を見て美姫はニヤリと笑うと、止めていた手を動かして上半身を完全に裸にしてしまった。なぜなら海斗の股間には宇宙服を内部から押し上げてしまう何かがバンバンに自己主張していたからだ。
もちろん人間だった頃には間違いなく男だった美姫には、それが何かは完全に分かっているし、その状態の男の気持ちというのも、よぉーく理解出来ている。
ただ、海斗は真面目なタイプだとも理解しているから、女のほうからリードしないと仲が良い若い男女が致すべきことを致すことが出来ないということも理解している。
「でも美姫さん、こういうことはその……、やっぱりちゃんとしてからじゃないと駄目というか、なんというか」
股間を膨らませながらも、まだ理性が勝っている海斗であったが、『ちゃんとしてからなら美姫とそういうことをしても良い』と、実質OKのサインを出していることには気がついていないようだ。
「もう、女にここまでさせておいて手を出さないだなんて、海斗さんってば意地悪だよぉ」
美姫は甘えるような声を出しながらショーツ1枚の姿のままで文字通り海斗に飛びつくと、ギュッとその胸を押し付けながら海斗の一番硬い部分を、宇宙服の上からそっとなでた。
「み、美姫さんっ!」
「ほら、この子も宇宙服がキツくてしょうがないから、早く脱いで欲しいって言ってるよ」
あそこだけではなく体全体を硬直させる海斗の宇宙服を、美姫は手慣れた手つきで脱がせていった。そうとうイメージトレーニングを積んだのだろう。まあ、妄想とも言うかもしれないが。
そして宇宙服を脱がされた海斗は、褐色の肌の上にランニングシャツとトランクスを穿いただけの姿になった。その筋肉質な身体を見て、美姫は『ほうっ』と、ため息を吐く。どうやら妖精少女となって既に約2年。男性の筋肉に魅力を感じる程度には精神の女性化も進行しているようだ。
「本当にいいんだね。美姫さん」
「美姫って呼んで。私も海斗って呼ぶから」
「……美姫」
「海斗……」
そして見つめ合うふたりはその顔を近づけ、唇と唇を軽く重ね合わせた後、今度はじっくりと心ゆくまでその口をくっつけ合い、舌を絡ませあったのだった。
長く続いた口づけが終わると、ふたりはまだ身につけていた下着をすべて剥ぎ取ると、一糸まとわぬ姿になり、お互いの肌を密着させるのだった。
そして一通りの愛撫が終わると、ふたりの行為は徐々にエスカレートし、いくところまでいったのであった。
こうしてそんなこんなで美姫と海斗は宇宙船の中で暇を潰す方法を見つけたのであるが、美姫のお腹が大きくなりだすのに、そんなに時間はかからなかったのだという。
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