第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第33話 古の故事に習うは大騒ぎ
グモモモモモモーーーーーッ
無限に広がる大宇宙っ!
ここは地球から遥か100万km離れた宇宙空間。更に前方100万km先には妖精世界の宇宙から召喚された地球が同じく召喚された月を従えて浮かんでいた。
この宙域は、距離的にふたつの地球のちょうど中間となっている。新たに出来た二重惑星系の重力均衡点でもあり、いわゆるラグランジュポイントと呼ばれる宙域のうちのひとつでもある。
そしてここには虚空にとぐろを巻くようにして丸くなっている白竜王吹雪の姿があり、宇宙船うみねこ2世号の窓からは、その竜体を白銀に輝かせて周囲に光を放っている様子が見えている。
しかししばらく見ていても、白竜王吹雪にはまるで動きがなかった。文字通り微動だにしていない。
「さて、着いたは良いが、この後はどうすればいいのかね。うーん、とりあえず美姫君、白竜王吹雪さんに呼び掛けてみてくれないか?」
加賀重工航空機製作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】の剣持道彦主任は、美姫にそう指示をした。
「えっ!? 私がですか?」
「確かにここは、お兄ちゃんが白竜王吹雪のおじいさんに呼び掛けるのが筋すじかもね」
美姫は分かっていないようだが、珠美香には、なぜ美姫が白竜王吹雪に呼び掛けないといけないのかが分かっているようだ。『何故に自分が?』と、きょとんとしている美姫に対して、珠美香は『ああ、なるほど』と、うなづいている。
……それにしても珠美香の宇宙服の胸の部分の生地がやや余っているように感じるのは、けっして気のせいではない。うむ、余っている話だけに余談である。
「珠美香、どうして白竜王吹雪のおじいさんに呼び掛けるのは、お姉ちゃんじゃないとダメなの? 誰がやっても、そう、珠美香でもかまわないんじゃないの?」
宇宙空間であるからして音声で呼び掛けるというわけにはいかない。何せ空気がないので音が伝わらない。
通信機の類いがあるわけでもないので、となると呼び掛ける方法は念話のみとなる。すると必然的に魔法の力を増幅するブースターの助けを借りることになるのだが……。
であるならば元々の素の魔法力の強さは関係なくなるので、妖精や魔法を使える人間なら、誰でも白竜王吹雪に呼び掛けることは可能なのだ。しかし美姫が呼び掛けなくてはいけない理由というものが、確かに存在していたのだ。
「だってお兄ちゃんは、白竜王吹雪のおじいさんを召喚した【ドラゴンマスター】だし、白竜王吹雪のおじいさんは、お兄ちゃんの【召喚獣】なんでしょ?」
「……ああ、そういえばそういう設定だったね」
美姫は、『機械ブースターの力を借りようが何しようが、まがりなりにもワシを召喚したドラゴンマスターなんじゃから、お前さんがわしの面倒をみるのは当たり前じゃろ?』と言われて、白竜王吹雪にこき使われた日々を思い出してげんなりとした。
妖精の小さな体で人間サイズの感情体となった白竜王吹雪に対してできることは、それほど多くはない。しかし小さな妖精だからこそ、より細やかな仕事ができるという分野というものもまた存在した。
一例をあげるなら、それは耳掃除である。耳かきを手に持った美姫は、何度も白竜王吹雪の求めに応じて耳掃除をさせられたのだが、意外とこれが重労働なのだ。
妖精が人間サイズの通常の大きさの耳かきを持ってそれを操るというだけでもけっこう大変なのに、そこに加えて多大なる精神的な疲労が加わるのだ。そう、精神的な疲労である。
考えてみて欲しい。耳掃除のたびに、『うっ、おぉっ! そっ、そこじゃっ! そ、その奥が気持ちいいのじゃ……。あ、う、い、いいのう。お前さんの持っているその(耳かき)棒で、ワシの(耳の)穴をかき回すようにぐりぐりとして欲しいのじゃ……。お、おおうっ、き、気持ちいいのう』などと、ジジイの声で言われても、誰もうれしくないのだ。むしろ苦痛である。
……いや、もしかすると世の中にはジジイに萌える爺専ジジセンの女性もいるかもしれないが、少なくとも美姫はそうではないし、美姫の知り合いにもそんな趣味の人はいない。ましてやそんな性的趣向をもった男性など、美姫の回りにはいるわけがない。……はずである。
余談となるかもしれないが、おおよそ三万数千年前後の寿命を持つドラゴンという種族にとって、一番の強敵は【退屈】なのだという。
生まれて100年程度の間はまだ言葉も喋れない幼竜なので良いとして、言葉が喋れるようになり相応の思考力がついてくると、途端に知的な飢餓感とでもいうべきものに襲われるようになってくる。
それでもまあその状態になってから千数百年程度は、竜種が持つ知識を学ぶことに費やされるので良いのだが、問題は既存の知識を学び終えたその後である。学ぶべき新しい知識がなくなると、とたんに退屈だけが支配する暇な時間に襲われることになる。
その為に年を経た高齢のドラゴンたちの間では、新しい物語を創作しては他のドラゴンに話して聞かせたり、新しい遊びを考え出したり、あるいは白竜王吹雪のように他者をからかって遊んだりということに情熱を燃やすのだという。
ドラゴンという種族、意外とめんどくさい奴らである。
「……まあ、たしかに白竜王吹雪さんは、私の召喚獣という設定で遊んでたわけだけど。本当に単なる遊びの設定だけなんだよ」
「いいじゃない。遊びだろうがなんだろうが、お兄ちゃんのことをドラゴンマスターとして認めているんでしょ。だったらお兄ちゃんが呼びかけたほうが反応がある可能性が高いわけだし」
「うーん、というか昨日はここから地球まで念話を届けていたはずなのに、なんで白竜王吹雪さんから呼びかけてこないんだろう」
話していて気がついたのか、美姫が根本的な疑問を口にする。するとその発言を待っていたかのように水城江梨子が話に割り込んできた。
「白竜王吹雪のおじいさんは、『今のまま魔力の補給が出来なければ、あと1ヶ月も経たないうちに魔力が無くなってしまう』と、おっしゃってましたけど、実際のところは既にもう限界ギリギリなのではないでしょうか?」
当然のごとく、江梨子のメガネはキラリンとしている。安心の仕様である。
「限界ギリギリって? 白竜王吹雪さんの声というか、念話からはそんな感じはしなかったよ」
「それが私たちを安心させるための演技だとしたら?」
不思議そうに聞き返す美姫に対して、江梨子は静かに言い返す。
「もしも本当にその通りだったら大変どころじゃないじゃないですかっ! 白竜王吹雪のおじいさんの魔力が切れたら、その瞬間にふたつの地球で天変地異の大バーゲンセールになっちゃうんですよね?」
主に窓の外の景色を眺めて話を聞いてるだけだった佐藤雄高も、さすがの事態に口を挟んで来た。
「可能性は否定できませんね」
静かにメガネをキラリンとさせる江梨子。大声でわめき散らかさないだけ、よけいに深刻さが増してくる。
「そんな……」
雄高は言葉を失ってしまい、窓から白竜王吹雪の姿を確認すると小さく、『吹雪のおじいさん……』とつぶやいている。
そこへ剣持主任の声が響いた。
「ふむ、江梨子君の言う通りで間違いないのかもしれないな。考えてみれば本来なら地球滅亡クラスの大災害が起きるはずだったのを、ふたつの地球全土において魔力によって各種災害を不自然に抑えこんでいるのだから、その魔力の消耗も激しいものがあるはずだ」
江梨子の意見に賛成らしい剣持主任も、窓の外に見える白竜王吹雪の白銀に光り輝く竜体を見ながら言葉を続ける。
「とりあえず美姫君が白竜王吹雪さんに呼びかけるのは良いとして、呼びかける前に準備が必要だな。詩衣那君、ブースターの出力を最大まで上げてくれないか。それから海斗君、可能な限り近づいて白竜王吹雪さんをブースターの影響圏内に捉えてくれ。」
「わかりました。ブースター出力上げます。現在稼働中の1番から7番までのブースターに続き、8番から21番ブースターまでを起動。さらに予備のブースター3台も起動します」
詩衣那はテキパキとパネルを操作して、次々とブースターを起動していく。
「……全ブースターの起動を確認。ブースターの限界効力半径は本船を中心としておよそ八百メートルですが、より有効にする為には可能な限り白竜王吹雪様に近づいてください。理想を言えば、うみねこ2世号の船体が白竜王吹雪様の竜体に接触するくらいが良いのですが」
詩衣那の心配を聞いたからなのかどうなのか、剣持主任は詩衣那の言葉に返事をすることなく、今度は珠美香に対して指示をする。
「……珠美香君、白竜王吹雪さんと魔力の同調および共鳴を開始してくれ。そしてブースターに依って増幅された魔力を、白竜王吹雪さんへと流し込んでもらえるかな」
「は、はいっ! 白竜王吹雪さんと魔力の同調および共鳴をスタート。……同調および共鳴の開始を確認。増幅された魔力を白竜王吹雪さんへと流し込みますっ!」
珠美香はちょっと慌てたような雰囲気だ。今回は妖精世界から召喚された地球に着くまで特に何も役割は無いだろうと思っていたので、まあ、そのようなことになる。ちなみにそんな珠美香の様子を見て、雄高が珠美香の左手をそっと握ってあげている。
まったくもう爆発すればいいのに。佐藤雄高だけに、砂糖吐きそう……。しかしそんな甘々な状況を完全に無視して、剣持主任は指示を飛ばす。
「うむ。詩衣那君に珠美香君、ありがとう。よし、それでは海斗君、うみねこ2世号、微速前進。白竜王吹雪さんの竜体に可能な限り近づいてくれ」
「了解。微速前進します」
海斗は美姫たちとは違って、一切ふざけることなく、うみねこ2世号をゆるゆると前進させていく。
ちなみに海斗の横に座る夏樹は何やら地上側とやり取りして、データを送信しているらしい。
海斗と同じく夏樹もまた魔法を使うことに習熟してきており、極小の召喚ゲートを発生させて通信機能の状態を維持するぐらいは片手間の作業となっているので、本当に地上との通信を担う係もまた担当することになっているのだ。
「わぁ、きれいだねえ、ねえ、おっきいお母さん」
特にすることもない結菜が、段々と近づいて大きく見えてくる白竜王吹雪の銀色に輝く竜体を見ながら、美姫に話しかけてくる。もちろんその周りにはドラゴンバタフライのピイちゃんも飛び回っている。
「そうだねえ。きれいだよねえ」
美姫は飛びながら近づいてくる結名を、その胸に抱きしめた。スキンタイトな宇宙服で押さえつけられているとはいえ、そのおっぱいのボリューム感は少しも損なわれてはいない。もちろん柔らかさもだ。
そして結名は抱き締められた美姫の腕の中でわずかに身動きすると、顔に当たるぽよぽよとしたその感触を楽しんだ。幼児というか、幼女の特権である。
そんなお母さんしてる美姫と美姫の胸にぽよよんと抱き締められている結菜を見て、大島早苗が『むう……』と唸ったかと思うと、やおら珠美香の元へと行き、その頭を胸に抱き締めた。
「わわっ、早苗ちゃんっ! いったいどうしたのっ!?」
今の珠美香は超貧乳とはいえ完全に女の子であるのだが、いかんせん一年数ヵ月も男であった経験をしているという特殊事情がある。要するに恥ずかしいのだ。おっぱいに対する抵抗力が極端に低くなっているのだと理解して欲しい。
「早苗ちゃん、く、くるしい。顔がおっぱいにうずまって、息が、息ができないっ!」
息ができないのはまさにその通りなのだが、それよりも恥ずかしさのほが先に立つ珠美香であった。
「……ごめんね。珠美香ちゃん。だって、こうでもしないと、巨乳キャラポジションと出番を完全に美姫お姉さんに取られちゃうような気がしたから」
Fカップな超巨乳を無駄にぽよよんと揺らしながら、早苗は珠美香に謝った。
「そんなこと気にしてたんだ。大丈夫だよ。早苗ちゃん。お兄ちゃんの巨乳は体の比率から言ったら確かにEカップで巨乳になるけど、しょせんは妖精サイズ巨乳。早苗ちゃんの巨乳はFカップの超巨乳でファンタジーなんだよ。自信持とうよ」
珠美香は、『どちくしょーーっ! どうせ私は貧乳だよっ!!』という思いと叫びを圧し殺して、早苗を慰める。これ以上早苗が暴走して、そのおっぱいを顔に押し付けてきたら、マジで命が危険であるわけだからして。
女のプライドよりも命が大事。これでいいのだ。
「ふっふっふっ、甘い、甘いよ、珠美香に早苗ちゃん」
珠美香と早苗の会話に割り込んで来たのは、もちろん美姫である。宇宙服の背中から、ホログラフのような透けて見える白い鳥のような羽を生やし、それをぱたぱたと羽ばたかせながらの登場である。
「甘いって、何が甘いっていうのよ?」
美姫が何を言いたいのか、いまいち理解できない珠美香である。
「美姫お姉さん、乳の大きさとボリュームでは負けませんからね」
なぜか対決モードの早苗である。……大島早苗。もしかして乳のでかさのみが、アイデンティティーの構成要素であったのだろうか。ちょっと可哀想ではある。
「早苗ちゃん、良い言葉を教えてあげよう。それはね、『見慣れた超巨乳より、新鮮な巨乳っ!』という言葉なんだけどね。参考になったかな?」
……他人をからかって遊んで暇潰しをする。そんなドラゴンたちの一人である白竜王吹雪を召喚獣とする美姫は、まさにドラゴンたちの性癖に通じるものがある真のドラゴンマスターの資格十分である。
「見慣れた超巨乳より、新鮮な巨乳っ!」
しかし言われた早苗は、美姫の言葉を文字通り真剣にそのままの意味で受け止めた。何故か頭をガーンと殴られたような衝撃を感じているらしい。
「ええと、早苗ちゃん。とりあえず容積では勝ってるということで……」
珠美香は早苗をどう慰めようかと言葉を選ぶが、ど貧乳の自分が超巨乳の早苗を慰める形になっているのが気持ち的に【とっても不本意】なので、その言葉はどことなく棒読みの響きがあった。
「珠美香ちゃん、なんだか気持ちがこもってないんだけど」
「えっ? そ、そんなことはないわよ。早苗ちゃんの巨乳は世界一っ! やったね、もう男の子達はメロメロだよ」
珠美香はそう言うが、もう棒読みなのを隠そうともしていない。
「……僕としては、早苗ちゃんの巨乳よりも、珠美香ちゃんの控えめな胸のほうが好きなんだけど」
そして追い打ちをかけるのは、あえて空気を読まない男、佐藤雄高であるのだが、それを見て、うみねこ2世号のコックピットから貧乳教の教祖様がグッジョブ! とばかりに親指を立てていた。山本夏樹、仕事に専念してほしいものである。
しかし仕事に専念しなければならないのは、珠美香も同じなのであった。ショックを受けている早苗を無視して、加賀詩衣那が口を開く。
「珠美香さん。それに美姫さん。大事なときなんですから、まじめにやってください。珠美香さんはちゃんと白竜王吹雪様の魔力と同調・共鳴状態を維持してください。そして美姫さんはちゃんと白竜王吹雪様に呼びかけ続けてくださいね」
口調は優しいが、そのこめかみが微妙にピクピクと動いているところを見ると、かなり怒っているのかもしれない。
「は、はい、はいっ! 白竜王吹雪さんとの魔力同調及び共鳴はちゃんと維持してます。魔力の流し込みもしっかりやってますから安心してください」
珠美香もまた、その程度のことは片手間にやれるようになってきているのであった。しかし片手間にできるから、片手間にして良いというわけではない。何事にもTPOというものがある。
「わ、わたしも、ええと、これから呼びかけますっ!」
対して、美姫はダメダメだった。乳の大きさを自慢しているどころじゃない。
そしてそれを見て、『ふっ♪』と、微笑む早苗ちゃん。黒い、黒すぎて怖い。
「……どうにも呼びかけに反応が無いんですが、どうしましょう?」
さて、その後の状況であるが、どうにも芳しくない。うみねこ2世号のブースターだけではなくデータ通信回線を通じて、地球側のブースターもグリッドモードにて接続・稼働させ、更には珠美香が持っている魔力の同調・共鳴能力を全開にしてサポートしても、白竜王吹雪に対する美姫の呼びかけに返事が無いのだ。
「これは想像以上に白竜王吹雪さんの魔力が枯渇していると見るべきか、それともふたつの地球の天変地異を抑えこむのに必死で返事をする余裕も無いのか、いずれにしろそんなところかもしれないな」
腕を組み、うみねこ2世号の船体と接触せんばかりの距離にある白竜王吹雪の竜体を見ながら、剣持主任はそう結論づけた。
「どうすればいいんでしょうか?」
詩衣那は、このまま白竜王吹雪の魔力が完全に枯渇した場合に訪れる未来を想像して、暗い表情になるが、剣持主任には代案があるのか、その笑顔は輝いたままだった。
「日本人ならこういう場合はやることはひとつだろ? 違うかね?」
「おらーっ、振れーーーっ! 揺らせーーーっ!」
はしたなくも騒いでいるのは美姫である。そして美姫の目の前には、先ほどまで落ち込んでいた早苗がいた。早苗は宇宙服を脱いでホットパンツとタンクトップ姿になると、なにやらくねくねと体を揺らしながら踊っている。……らしい。
「振れーーーっ! 揺らせーーーっ!」
「ピイ、ピイ、ピーーーイッ!」
可愛い声で美姫の真似をするのは結菜である。5歳の幼女に何を言わせているのかということであるのだが、理由があることなので許して欲しい。ついでにピイちゃんも、訳が分からないまま声を上げている。
更にその後ろでは剣持主任と加賀詩衣那、そして海斗が酒盃を傾けていた。もちろん各種料理も取り揃えてある。
未成年組である珠美香と江梨子は酒の代わりにジュースを飲みつつ、料理に舌鼓を打っている。
同じく未成年の雄高と夏樹は何をしているのかと言えば、料理や飲み物の用意をしているのであった。夏樹が制御する召喚ゲートは、普段は電波通信の電波の通り道として直径数センチの大きさでしか無いのだが、今はその直径を10倍程度にまで拡大させ、直径60cm前後となっている。
「はい、次の料理が届きました。ええと、これは『皮むきエビのチリソース炒め』かな?」
召喚ゲートからは、地上で用意された各種料理が次々と【手渡されて】いた。召喚ゲートからにゅっと料理が盛られた皿を持った手が飛び出してくるのを見るのは、なかなかにシュールである。
もちろん空いた皿を召喚ゲートに突っ込んでいる雄高の手も、地上からみるとさぞやシュールであるのは間違いない。
夏樹は地上と随時連絡し合い、地上側と宇宙船側の両側から同時に召喚ゲートに手を突っ込むことが無いようにしている。
そして今まで唐揚げとかソーセージとかいったごく簡単なツマミレベルのものが送られてきていたのが、つい先程からは手が込んだ中華料理が次々と送られてきている。どうやら加賀重工航空機製作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】には、専門店から特別に出前が届けられているらしい。
とりあえず宇宙船うみねこ2世号の中では、雄高と夏樹は裏方要員に回されてしまったらしいのだが、ふたりともそれほど気にする様子もない。と、思ったら……。
「夏樹君、これ、結構いけるよ」
雄高は料理が盛られた大皿から料理を小皿に少し取り分けると、自分の前に置かれたテーブルの上に置くと同時に、箸でひょいぱくと料理を口の中に放り込んでいた。
「お、ありがとう。雄高君。ふむ、実家の旅館で出されるエビのほうが新鮮だけど、まあこれはこれでうまいかな」
……ちゃっかりと自分たち用の料理は確保していたりする。まあ、当然と言えば当然である。
ちなみに宇宙船の船内は無重力では無いのか? という疑問があるかもしれないが、弱めながらもちゃんと重力があったりする。もちろん海斗が木星域から召喚している重力そのものが宇宙船の床に対して垂直にかかっているからだ。
何度も言うが、飲み食いしながら片手間に重力を召喚し続けることぐらい、魔法に習熟してきた今の海斗には簡単なことなのだ。
まあ、酔いつぶれてしまってもそのような技ができるかどうかはしらないが。
「……あの、道彦さん。これで良いんですか?」
理性では理解出来ているものの、感性が理解を拒否しているのか、詩衣那は困惑の表情で剣持主任に問いかける。
「詩衣那君、反応が無い相手をこちら側に引きずり出すには宴会とストリップが一番だというのは、日本古来からの伝統だぞ」
「天岩戸開きの際の、アメノウズメによる踊りのことを指しているのでしたら、まあ、その通りと言えばその通りですけど、本当に効果があるんですか?」
詩衣那はいまいち懐疑的である。まあ、普通ならそうだろう。しかし詩衣那の心配は杞憂だったようだ。
「おお、なんじゃ、なんじゃ? 楽しそうなことをやってるじゃないか。ちょっとワシも混ぜてくれんかのう? いやもう、腹がペコペコでな。待ちかねておったぞ」
宇宙船の中に白銀の光とともに顕現したのは、もちろん人間の老人の姿をした白竜王吹雪の感情体であった。
「おおーーーっ、やったーーーっ」
「白竜王吹雪のおじいさん、無事だったんですね」
「うまい酒とうまい食い物、いっぱい用意してありますよ」
「ささ、どうぞ食べてください。飲んでください。そして魔力をしっかりと回復させてくださいね」
皆が口々に白竜王吹雪の無事を喜んだ後は、何時間もかけて宴会と大騒ぎが続いたのは言うまでもない。しかし本当にうまい酒とうまい食い物で魔力が回復するのか、研究が待たれるところではある。
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