第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第30話 【核核】しかじか
妖精世界から召喚された地球において核爆発と思われる閃光が多数確認されたのだが、それは相当大きな問題となるのであった。
「これはまずいことになりましたわね」
メガネをキラリンとさせつつその人物は発言をした。言わずと知れた仕様を持つ水城江梨子その人であった。
「ああ、まずいことになった」
受けるのは加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】の【所長】こと剣持道彦主任である。彼もまた江梨子に対抗してメガネをキラリンとさせている。剱持主任の場合は仕様でもないのにわざわざ御苦労なことである。
「これでは妖精たちを難民として保護した上で、加賀重工が囲い込むということは……」
「……できない相談ということにならざるをえない」
「それどころか日本国内でブースターを大々的に運用することすら……」
「……ああ、制限がかかるかもしれないな」
お互いに向かい合い、『ふふふふふっ』と、どこか吹っ切れたような気持ち悪いような何とも表現のしにくい笑い声を上げる剣持主任と江梨子。ふたりの間には何というか、ある種の異空間が形成されているかのようだった。
「もしもし、ふたりだけで納得していないで、できたらどうして何がまずいのか解説していただけるとありがたいんですけど」
とりあえず美姫が両者共通の知り合いという立場で、いまだに笑い続けているふたりに聞いてみた。ちなみに同じく共通の知り合いである珠美香は会議室という場所にも関わらず、雄高とふたりでイチャコラとしていたりしていて役に立ちそうにない。
「まったくもう、本当に美姫さんの言う通りですよ。道彦さん。これは加賀重工の今後にも関わることですから、妖精たちを加賀重工が囲い込むことが出来ないというようなことについてちゃんと説明していただけますか」
詩衣那が若干の嫉妬心を言葉に込めて剣持主任に問いかける。ジェラシーに身を焦がすとは、まことに可愛いものである。
「おお、そうだったな。例えばなんだが、いつでもどこでもすぐに使用可能な核兵器を持参した人物を難民として受け入れられると思うかね?」
「あるいは国民のすべてが核兵器の起爆ボタンを持っている国を隣人としたいと思いますか? と、問いかけてもいいですわね」
質問をした詩衣那に向かって剣持主任と江梨子は、何が楽しいのか交互に笑顔で答え出した。
核兵器。人間世界の地球において最終兵器と称される兵器である。しかし何を以ってして核兵器が最終兵器と称されるのか? それは核兵器を全面的に使用した戦争は、戦争そのものを終結というか無意味なものにしてしまうからに他ならない。
核兵器といった場合にイメージされるのは、核爆弾とそれを運搬する手段である弾道ミサイルから構成されている核弾道ミサイルであろう。地球の裏側まで1時間もかからずに核爆弾を運搬できる能力を持つICBM(大陸間弾道弾)などが思い浮かぶかもしれない。
あるいは射程距離の短い中距離弾道弾(IRBM)や、普段は海中に潜み有事の際には敵に発見される前に敵地等を攻撃可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)があるが、要は極めて短時間にて敵国の中枢または敵戦力の集中地点等に大量破壊を行うことが出来る攻撃を加えることが出来るもの。
それが核兵器のイメージであろう。
さて、それで核兵器がなぜに最終兵器と呼ばれるのか。それを理解する前に大前提として理解して欲しいのは、通常において『戦争とは国力が拮抗している国同士でしか発生しない』ということである。
もしも国力に圧倒的な差があるのであれば、国力が下の国は『戦争しても勝てない』との理解により、戦う前に国力が上の国に対して降伏してしまうので、最初から戦争にはならない。
戦争になるのは、『もしかしたら戦えば勝てるかもしれない』と思える程度には国力に差がない国同士でしかありえないのが本来である。
逆に言えば、『とある国家と対立する別な国家との国力差が逆転しようとして一時的に国力差が拮抗する瞬間に戦争は発生する』と言い換えても良い。
これは有史以来近代に至るまでの真実である。
しかし第二次世界大戦後、この命題は成立しなくなってくるのだが、その要因はふたつある。
ひとつは言わずと知れた核兵器の開発であり、もうひとつは第二次世界大戦後に米国の軍事力の庇護のもとに成立した世界的な規模の自由市場経済というシステムの存在である。
ものすごく単純に言えば、戦争とは相手国を打ち負かし占領し、そこから利益を上げる為に行うものである以上、相手国そのものを破壊してしまっては利益を上げようがなくなってしまう。核兵器は相手国のすべてを破壊してしまうのであるからして、これでは利益を上げようがなくなってしまうのだ。
特に現代のように自由市場経済システムにおいて利益を上げる為の相手とは市場であり、その市場は相手国の国民によるものである以上、相手国を戦争で打ち負かすという選択肢は無いも同然なのだ。
ちなみに核兵器を使わずに戦争を始めても、核兵器を運用もしくは製造できる能力がある国が負けかけた場合、勝つ為に禁断の核兵器に手を出さないとは限らない。そして報復へと……。
というわけで例えば日本と米国における産業界同士が相手国の市場が閉ざされていると非難しあったとしても、それが国家間の戦争にまでは絶対に至らないのは、戦争が開きたいはずの相手国の市場そのものを破壊するからに他ならないからだ。
現代では何かと非難されがちな自由市場経済システムであるが、戦争の発生を抑止してきた実績を考えると、それほど非難すべきものではないことを理解してあげたい。
さて、ここで話を戻し、なぜに核兵器が最終兵器と言われるのかということだが、戦いが武器を生み、武器が進化してそれに伴い戦争も進化し、更にまた武器が進化し、その流れの果てに出てきた核兵器は、実際には使えないほどの破壊力を持ってしまったが故に、戦争そのものを実際には行えないものにしてしまったということに尽きる。
大量の核兵器を抱え込んだ米ソは、冷戦という実際には戦闘を行わない戦争を戦った。
日本の市場が閉鎖されているとして、米国は日本を非難する貿易摩擦が発生したが、それは戦争には至らず、いわゆる経済戦争に収まった。
その他にも中国や北朝鮮が行う外交戦争や、イスラムの一部のはねっかえりが行うテロという名の非正規戦争はあったが、結局のところ核兵器を開発した、もしくは即時開発することが可能な国力を持つ大国同士は、第二次世界大戦後に実際の戦争をしていない。
まあ各種の平和団体等の人たちには理解しづらい理屈ではあろうが、ベトナム戦争という米ソの代理戦争や、湾岸戦争という核兵器を持たない国と持っている国との戦争があるにはあったが、そのような例を除き、核兵器は戦争そのものを終焉しゅうえんさせたという意味で、最終兵器なのだ。
実際に、過去の歴史上、地域あるいは世界の覇権国が交代する時、つまりは前の覇権国と次の覇権国の国力が拮抗した時に必ず戦争が発生していたのに、核兵器が開発された第二次世界大戦後には覇権国と成り得る国同士の戦争が発生していない。
つまり核兵器の存在は、『国力が拮抗する国同士において本来発生するはずの戦争を抑止してきた』ということになる。
ちなみに余談となるが、『戦争とは国力が拮抗している国同士でしか発生しない』という命題から考えると、第二次世界大戦における日米戦争は不思議な戦争である。そもそも当時の日米の国力は拮抗などしていなかった。同盟国であるドイツやイタリアを加えて計算しても、米国一国の国力に負ける。
1937年の世界の工業生産高に占めるシェアを比較すると、米国が35.1%なのに対し、日本が3.5%とおよそ10分の1でしかない。更にドイツは11.4%であり、イタリアは2.7%なので、日独伊を合計しても17.6%と、米国のちょうど半分程度の国力にしかならない。
戦争を仕掛ける側は勝つ為に行うのであるから、そのような国力差がある場合、よほどの技術的アドバンテージでもない限り、普通は戦争を仕掛けることはない。
常識で考えたらあの時期に日本から宣戦布告をして日米が戦争状態に突入する軍事的な合理性のある理由がないのだ。なぜなら日本の国力ではあの段階で米国に勝つことはどう逆立ちしても無理だからだ。だからこそ当時の米国大統領フランクリン・ルーズベルトによる陰謀論とかが出てくるのだが……。
しかし結果的にあの戦争は実際に始まり、そして日本が負けることになり、当時の日本人は大変な御苦労をされたのだが、その御苦労があったからこそ、今、人類はまだ文明を維持して生存していられるのだという考えも出来る。
もしも、1942年の段階で日本が米国に戦争を仕掛けず、『今、戦っても負けるだけだ』と戦争を自重し、国力を伸ばすことのみに注力して時を得た場合、逆に米国は第二次世界大戦を利用して国力を増大させることが出来なくなったかもしれないので、【1970年代頃に日米の国力が均衡した可能性】があるという仮説も成り立つかもしれない。
そして国力が均衡した日米が1970年代に開戦した場合、核兵器を投射しあう全面核戦争が起こった可能性が否定しきれない。そうなれば地球環境は完全に破壊され、人類はその文明を失い、他の生物を道連れにして絶滅した可能性すらある。少なくとも現代文明社会は完全に破壊されていただろう。
しかし現実には、国力が米国の10分の1でしかないにも関わらず日本は米国に対して1942年の段階で開戦し、ギリギリ核兵器が実戦で投入されるまで必死で米国と戦った。
ともかく国力が均衡した国同士で戦争が起こるという歴史上の法則から大きく外れたところで日米は開戦したのは歴史上の事実である。
そこには陰謀があったかもしれないが、日本人としては、日本一国の事情で開戦をこれ以上遅らせることが出来ない事情があったと理解したい。
つまりは白人による世界侵略戦争に抵抗することが出来る有色人種唯一の国としての責務である。
あの段階の日本の国力では勝算はなかった。しかしあの段階で戦わなければ、欧米以外の文化・文明はすべて破壊しつくされ、有色人種とされた人々は21世紀となった今ですら、奴隷どころか人間扱いをされていなかったかもしれない。
そして悲痛なことではあるが、実戦において広島ヒロシマと長崎ナガサキに原爆が投下され、核兵器とはどのように悲惨で残虐な兵器であるのかということを、核兵器の黎明期であるあの段階で人類が正しく認識出来たというのも奇跡だったのだと思う。
もしも米国が日本に対して原爆を使用せずに第二次世界大戦(日米戦争)が終結した場合、核兵器に対するそういった正しい認識が無いまま米ソが対立し、冷戦では無く核兵器を投射しあう熱い戦争になり、結果として人類文明は滅亡したかもしれない。
あくまでも結果論でしかないのだが、戦争は勝算がない限り仕掛けてはいけないという常識からしたら、日本が1942年の段階で米国に対して開戦するのは限りなく愚かな行為ではあるのだが、あの時、あのタイミングで開戦したからこそ、結果的に人類はその文明を維持したまま、滅亡することなく生存し続けていられるのだと考えることも出来る。
まこと第二次世界大戦における日米戦争ほど不思議な戦争も無い。人類文明を守護する神様のような存在が居たとして、その神様が日本をあのタイミングで開戦に至る決意をさせたのではないかと思えてくるほどだ。
話を戻そう。地球上において大量に核兵器を使用しあった戦争を行った場合、地球環境そのものが破壊されてしまい、地球が人類の生存に適さないことになってしまうというような事態にもなりかねない。
そういう意味でも、核兵器は最終兵器と言える。
最終という言葉はそれで【おしまい】ということであり、その先が無いという意味である。武器は進化に進化を重ね、最後に核兵器という化け物を生み出し、戦争によって利益を生み出す前提条件を破壊することにより、戦争そのものをリアルでは実行出来ないものしてしまった。
だからこそ、世界は核兵器という厄介者と同居しつつも、大国(先進国)同士で大きな戦争をすることなくまがりなりにも平和でいられたのだ。
しかし、妖精たちがその魔法により核爆発現象を発生させることが出来るというなら、妖精世界の地球がこちらの世界に召喚されてしまった現在、【惑星間核戦争】とでもいうべき戦争発生の可能性が出てきたということが言える。
あくまでも可能性の問題ではあるのだが、軍事的な観点から言えば仮想敵国とは対立する相手国ではなく、自国へと侵攻する能力を持つ国ということからすれば……。
「妖精たちの地球と人間の地球、この両惑星はそれぞれ別個の生態系を持っている。一方が破壊されても、もう一方はなんら影響なく存在し続けることが可能だ。つまり地球環境自体を破壊してしまうような核兵器を全面的に使用した戦争をしないでおこうという抑制が働かないということになる」
長い説明の最後に、剣持主任は結論らしきものを言うと、喉を潤す為に水差しからグラスに水を入れると、それを一気に飲み干した。……しゃべり過ぎである。
「しかも現状、妖精たちは妖精たちの地球において、本来なら魔法の発動が阻害されるはずの機械たちが支配する地域に対して、おそらく魔法による核攻撃を実施しています。ということは人間世界の地球に対してもそれが可能ということですよね。なのに現状では私たちの地球からは報復の為の核攻撃を行う能力がありませんから、報復攻撃能力をバランスさせることでの核抑止力が働きません」
そして江梨子が剣持主任の発言の後を継いで説明を続ける。もちろん仕様なのでメガネのレンズはキラリン、キラリンと光りっぱなしだ。しかしいったいどこからこれらの知識を手に入れたのだろうか? 一から全部自分で考えたというならそれはすごいことだが、さすがにそれは無いだろうから、元ネタはどこかにあるはずであるが……。
「かと言って、報復能力を持たせるために我々の地球側でも魔法による核攻撃を行えるような体制を整えるというのも難しいだろうな。おそらく魔法にて同一空間に重なり合うように大量の物質を一度に送還して原子核融合爆発を起こさせているんだとは思うが、もしも現状のブースターを一台使う程度でそれが可能なら……」
「……妖精や魔法を使うことが出来る人間なら、場合によっては個人が魔法による核テロを行うことが出来ますわね」
剣持主任の説明の後を継ぎ、江梨子が楽しそうに恐ろし気な予想を口にする。光ったレンズによって表情が一部隠されているからだろうか、ホホホと笑う笑顔がなんとなく怖い。仕様だからしょうがないと笑えないほどである。
ちなみに妖精は原子単位で物質を召喚することが出来るので、ウランの同位体のひとつであるウラン235を一定数以上召喚すれば原子核分裂反応による核爆発を起こすことが可能である。しかし単なる召喚魔法だと自爆することになってしまうのでお勧めできない。
従って少量ずつウラン235を召喚しつつ、爆発予定地にまでその都度魔法で送還してウラン235を蓄積させれば、現地において核分裂反応による核爆発が起こせるのかもしれないが、おそらく核融合爆発反応を起こさせるほうが簡単だと思われる。
「なるほど、そういうことですか。確かにそんな危険性があるのなら、加賀重工が妖精たちを囲い込んで、将来の魔法による産業革命を起こす人材とするという計画の実現は難しくなったということですね」
現状を理解した詩衣那は、真剣な表情でうなづいた。
「ちょっと待ってください。もしかして加賀重工としてはもう将来的な利益が見込めそうにないから、妖精世界の妖精たちを助けることはしないとか言い出すんじゃないですよね!?」
同じく現状を理解した海斗が声を上げる。海斗はもともと滝沢汐海たきざわしおみという女性だったのだが、コウモリ羽をした男の妖精であったアヒカルに召喚され妖精にチェンジリングしている。そして妖精のアヒカルは現在、滝沢汐海の体で人間へとチェンジリングしているのだが、その体は海斗が汐海だったころから妊娠していた。
つまり今は人間として妖精世界の地球で暮らしているアヒカルのお腹の中の子は、海斗が人間だった頃に作った正真正銘自分自身の子ということになる。その子を見捨てる選択肢は海斗の中にはこれっぽっちも無いのは言うまでもない。
「安心したまえ海斗君。いい言葉を教えよう。それは【既得権益】だ。どうせ日本政府を始めとして世界各国が現状を正しく認識して対策を打ち出すまでには、それなりに時間がかかるはずだ。我々はその時間を有効に使わせてもらうだけの話さ。さあ、皆っ! 妖精たちを助けに行くぞっ! 出発は明日だっ!!」
剣持主任のテンションは高かった。
「……うん、そう。私もお兄ちゃんも体調に異常はないから。……うん、お兄ちゃんの胸がちょっと大きくなって、私の性別が元の女の子に戻っただけ。……うん、そう。女の子に戻ったの。あ、そうそう、今日はちょっと研究所のほうに泊まっていくから。……あ、そう。もう連絡が行ってるのね。……やっぱり様子を観るってことかな? アハハハハ。じゃ、お母さん。お父さんによろしくね。……うん、じゃあ」
珠美香は耳からスマホを離すと通話を切った。それを見て美姫が話しかける。
「どうだった? お母さん、何か言ってた?」
「泊まる場所が場所だけに、泊まること自体については問題ないみたい」
珠美香は問題ないと答えるが、どこかその顔は浮かない様子をしている。
「で、何て言われたの?」
興味津々の美姫である。
「私が女の子に戻ったってことを知った途端に、『えーっ、女の子にもどっちゃったの? お母さん、珠美香が男の子のままが良かったのに』って言うのよ。信じられる?」
珠美香は憮然とした表情だ。そりゃあそうだろう。女の子に戻ったことを素直に喜んでくれるかと思って話したのに『男の子のままが良かったのに』と返されては、嫌な気持ちにもなるだろう。
「そうかあ……、珠美香、ごめんね。お姉ちゃんが元々の長谷川家の長男だったのに、こんなふうに妖精の女の子になっちゃってるから、珠美香に色々と期待しちゃったのかな。ごめん。その場で怒り出さなかった珠美香を褒めてあげたいよ」
しゅんと小さくなる美姫。まあ、妖精だから元々小さいけど。いや、今の美姫のおっぱいは大きいか。
「そんなっ! お兄ちゃんが気にすることなんて無いのに。うん、みんなお母さんが悪いっ!!」
珠美香は自分の体が女の子に戻ったという安堵感からくる余裕から、美姫に優しく接することが出来るようになっているのだが、その点の自覚はまだない。単になんとなく優しく出来るというように感じてるだけだ。
そんな珠美香は落ち込む美姫を見て、慌てて美姫をフォローする。すると美姫も珠美香の気持ちを分かっているのか笑顔を浮かべると、素直な気持ちを言葉にする。
「ありがとう。珠美香」
そのまま美姫は、珠美香の顔に抱き付くように飛びついた。背中の白い鳥のような羽をパタパタさせながら、珠美香のほっぺたに自分の顔を擦り付ける。ついでにそのぽよんと大きく膨らんだ胸をむにょんと押し付けることにもなったのだが……。
「……お兄ちゃん。なんか悔しいんだけど」
「なにが?」
分かっているのに、気づかないふりをする美姫。
「いや、その、女の子に戻ったのに、私の胸が小さいというか、ほとんどぺったんこなのに、お兄ちゃんの胸はそんなにも大きくて柔らかいし……」
「いやん、もう、珠美香のエッチっ!」
美姫は、ぺちんと珠美香のほっぺたに平手を喰らわせると、空中で『いやんいやん』ともじもじする。
「もう、女の子同士なんだから、エッチとか関係ないもんね」
いたずら心が出てきたのか、珠美香は美姫の体を左手で掴むと、右手の人差指の先を美姫のおっぱいに押し付けてぐにぐにと揉みだした。『ええい、こいつめ。けしからん乳をしやがって』という心の声が聞こえてきそうな勢いである。
「あ、こらっ、珠美香っ! やめっ! や~め~て~っ!!」
「ふふふっ、どうしようかなあ~~?」
さて、そんな感じで姉弟改め姉妹でじゃれあって(?)いると、そこに雄高と結菜、そしてピイちゃんがやって来た。
「あっ、ちいさいお母さん……、じゃなかった。(おっぱいが)おおきいお母さんっ! ここにいたんだ。もう、ごはんの後、いなくなっちゃうんだもん」
「ピイ、ピイッ!」
珠美香と美姫は、あのミーティング後、研究所に付属する食堂で少々早めの夕食を摂ったのだが、その後家に電話をするために、ちょっと席を外していたのだ。
「あれ、海斗おとうさんは一緒じゃないの?」
「剣持のおじさんと、また何かお話しないといけないことがあるって言ってたよ」
どうやら海斗は、妖精世界側に伝える情報をまとめる為の打ち合わせを、剣持主任たちとしているのだろう。現状、妖精世界側とコンタクトを取る手段が、アヒカルと海斗が眠っている間に作り出す夢幻界における会話でしかないのがもどかしい。
「そうなんだ。御苦労なことだね。海斗おとうさんも。で、結菜とピイちゃんはこれからどうするのかな?」
「お風呂にいくのっ! おおきいお母さんも一緒に行こっ!!」
「ピイ、ピイ、ピピーイッ!」
「じゃ、一緒にいこうか」
そうして美姫は結菜に連れられてピイちゃんと一緒に研究所内の宿泊施設に併設されたお風呂へと向かって行った。もちろん妖精サイズの風呂である。魔法関連の品々の開発に関して、元人間の妖精たちの協力者を宿泊させたりすることもあるので、そういった施設はしっかりと完備されているのだ。
ちなみに美姫、今度は美姫に甘える結菜にその大きくなったおっぱいを揉まれまくることになるのだが、まあ、詳細は省くことにしよう。こういうものは僅かな情報から色々と想像というか妄想するのが楽しいのであるが故に。
さて、美姫と結菜、そしてピイちゃんがその場を去ったので、残されたのは珠美香と雄高である。ふたりは何も言わず立っていたのであるが、お互いの顔をチラリと見ては目をそらし、そして顔を赤らめるということを繰り返していた。
「あ、あの……」
まず沈黙を破ったのは珠美香である。
「な、なにかな?」
雄高はドキドキだ。
「早苗ちゃんと、江梨子ちゃんは、どうしてるのかな?」
「あ、ああ、あのふたりなら、今頃は自分たちの家に着いてる頃じゃないかな」
「そ、そう。そうよね」
「また、明日、来るそうだけど」
「やっぱり来るんだ」
「見送りに来るって言ってたよ。……明日、妖精世界の地球まで行くんだろ。あと、白竜王吹雪のお爺さんのところにも」
「……うん」
「そうか。頑張れよ。と言っていいかどうか分からないけど、とにかく、頑張れよ」
「ありがとう。雄高君……」
そしてその言葉を最後にふたりはまた沈黙をする。お互いに相手の顔をチラリと見てはまた目を反らし、そして下を向いてはもじもじとする。そんな時間がしばらく続いた後、次に言葉を発したのは雄高だった。
「あ、あのっ! 珠美香ちゃん、本当にいいの? 体が完全に女の子になったって、……聞いたんだけど」
「私、昨日まで男の子というか、女の子にしか見えない男の娘だったでしょ? その時と今では外見上はまったく変化無いし、私が本当に女の子に戻ったっていうことを雄高君にはハッキリと見せておきたいの」
「そ、そうか。じゃ、じゃあ、いいんだね」
「何度も言わせないで。恥ずかしいから」
「わ、分かった。それじゃあ行こうか。お風呂に」
「うん」
そうして珠美香は自分が完全な女の子に戻ったことを、雄高にその裸身を見せることで証明したのだった。
ちなみに雄高の感想は下記のようなものだったという。
「珠美香ちゃんが男の娘だった時に付いていたアレが無くなっていたことよりも、限りなく平らな胸にそれなりに大きな乳首がポツンと付いていたことのほうに興奮してしまったんだけど……、俺、大丈夫なのかなあ?」
勝手にのろけていなさいという落ちでした。
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