第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第29話 回避された地球滅亡? いえ、まだまだです。
「よし、みんな集まったな。……何やら部外者もいるようだが、まあいい。関係者の知り合いなら関係者だ」
それでいいのかセキュリティ? というようなトンデモな発言をする剣持主任。まあ非常事態なのだからそういうこともあるのだろう。というか、その程度のことはどうでもいいというところまで状況が逼迫しているのかもしれない。
ここは加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】の会議室である。集まっているメンバーは、通称、所長こと、剱持道彦主任。白衣が似合うというか、白衣しか似合いそうにないちょっとだけマッドな香りがする技術者、人間である。
そして加賀重工会長の孫娘にして魔法研究所の協力者にしてオペレーターでもある加賀詩衣那。紫色の蝶の様な羽を黒髪ストレートな妖精のお姉さんである。サイズや羽は別にして、人間だったときと妖精になった今を比べて容姿的な外見上の差異がほとんどないという奇跡のチェンジリングを果たした妖精である。
そして同じく妖精の協力者なのが、まずひとりめは白い鳥の様な羽をしたショートカットな青髪を持つ妖精少女の長谷川美姫である。つい先日までは全員がボッキュンボンなナイスバディな体型しかいない妖精の女性たちの中にあって、唯一の貧乳の持ち主であったが、今は他の妖精たちと比べてもさらに大きな爆乳の持ち主となっている。もちろんストーンとした幼児体型であったのが、今はすっかり大人な女性の体型へと変化している。
ちなみに長谷川美姫、さっきから突然に大きくなった自分のおっぱいが気になって仕方が無い。違和感大爆発なので、もじもじしっぱなしだ。更に隙あらば妖精の幼女であるトンボ羽の結菜ちゃんが美姫のおっぱいを触ろうとして手を伸ばしてくるのも気をそらせる原因になっている。
次の妖精の協力者は、滝沢海斗である。人間の時は滝沢汐海という20代の妊娠中の女性だったのだが、今は浅黒い肌をしたコウモリ羽をした妖精の男性だ。イケメンと言えなくもない。というかどっちかというとイケメンだ。犬歯というよりすでに牙とでも言った方がよい尖った歯が口元から覗いているのがワイルドである。
最後にさっきから落ち込んだ雰囲気を周囲に漏らしまくっている妖精が外見が、女の子にしか見えないトンボ羽をした妖精少年の山本夏樹だ。基本的に妖精という種族にはボッキュンボンとしたスタイルの良い女性しかいないのに、貧乳しか愛せないという性癖を持っている不遇な妖精である。
ちなみに落ち込んでいる理由は、先日までささやかなおっぱいしか持っていなかった美姫が、突然に爆乳妖精少女と化してしまったということに尽きるので、同情してあげる必要はないので安心されたい。
あと協力者ではないのだが、訳あって美姫と海斗のふたりが親代わりとなっているのが、まだ5歳児のトンボ羽をした妖精の幼女である老田結菜と、その召喚獣(?)であるドラゴンバタフライのピイちゃんピイちゃんはその名の通り蝶の羽をしている仔猫程度の大きさの小さなドラゴンの幼生体である。
そして剣持主任以外の人間のメンバーを確認してみよう。
まずは協力者でもある長谷川珠美香である。もともとは女の子として生を受けたものの、約1年半前に妖精世界のエルフィンから召喚を受けた際に玉突き召喚事故が起き、その為になぜか女の子にしか見えない外見の男の娘になっていたのだが、先日の再度の召喚事故により正真正銘の女の子に見事返り咲いたという奇跡の少女である。
次にもう言い切ってしまうが、珠美香の恋人である佐藤雄高である。今は亡き祖母への肩たたきから進化して、今では指圧マスターともゴッドフィンガーとも言われる男である。緑ヶ丘高校の同級生で、そのマッサージの腕が知れ渡るまではごく普通のもてない男子高校生だったのだが、今では肩こり持ちの女子高生に素手でタッチして揉み揉みグニグニしても感謝されこそすれ、セクハラと訴えられることなどなくなったうらやまけしからん境遇となっている。
ついでに男の娘だった珠美香と出会ってそのまま恋人になってしまうようなセクシャリティ的に寛容な考え方の持ち主であったことも付け加えておこう。まあ、人生いろいろである。
そして珠美香がもともとの女の子だった頃からの親友がふたり。まずはかわいいものが大好きで、その乳の大きさに並ぶ者がいないというほどの爆乳かつ軟乳である大島早苗である。得意技はその柔らかすぎる胸の谷間に妖精さんを挟み込んで捕らえてしまうという乳ホールドだ。ちなみに早苗の意思を無視して、その束縛から逃れられた妖精さんは誰一人としていないという恐ろしくも気持ちよい技である。
最後に珠美香のもうひとりの親友であるのが水城江梨子である。白衣を着たことなど一度も無いにも関わらず、なぜか白衣が似合いそうな理知的な女性である。そのメガネは江梨子の心境を映し出して時あるごとにキラリンと光るのだが、それが仕様なんだからしょうがない。
その水城江梨子が、剣持主任に続いて口を開いた。
「初めまして。珠美香さんの親友をしています水城江梨子です。なかなかに面白くも不思議で妙な状況になっているようですね」
「ほほう、どこが面白くて不思議で妙な状況だというのかね?」
仕様ということでキラリンとメガネを光らせる江梨子に対抗して、自分もメガネをキラリンと光らせる剣持主任。何だかしらないが、負けず嫌いなのだろう。
「TVで加賀重工の会長さんが発表しているのを見ましたよ。妖精の魔法を研究していて事故が起きて、妖精世界の地球と月ごとこちらの世界に召喚してしまったって」
「まさにその通りなんだがね」
「あら、そうですか。妖精世界の地球と月を召喚してしまうほどの大事故なのに、事故の被害が何もないのは、まさに面白くて不思議で妙な状況だとは思いませんか?」
「ふっ、お見通しというわけか……」
剣持主任と江梨子は、背後に『ゴゴゴゴゴゴ……』という擬音を背負ったかのような表情でお互いを見つめ合った。そのふたりの顔には抑えた笑顔がうっすらと浮かんでいた。
「教えてくださいますか?」
江梨子は、抑えた笑顔から光り輝くほどの笑顔へと切り替える。その笑顔には圧力すらあった。
「……よかろう。まだ部外秘だが、事態が収束した暁には公表する予定だからな。それまでの間は守秘義務を守ってもらう必要があるが、問題ないかね?」
「ええ、それぐらいでしたら」
「代わりに一般人が受け取る印象というものを教えて欲しいな。事実を発表する際の参考にしたい」
「了解です」
「……ふっ」
「……ほほっ」
「ふはーっ、はっはっはっ!!」
「ほーっ、ほっほっほっ!!」
そしてふたりはしばし無言で見つめ合ったあと、唐突に高笑いをし始めた。ふたりの間では何か通じ合うものが有ったらしい。とても良い笑顔で笑い続けている。
「珠美香、江梨子ちゃんってこんな性格だったけ?」
「えーと、ここまでじゃなかったような……」
「そうかなあ、江梨子ちゃんの本質ってこんな感じだよ。美姫お姉さんと珠美香ちゃんが気づかなかっただけじゃないのかな?」
江梨子の隠された(?)一面を見て少々混乱する美姫と珠美香に早苗がフォローを入れる。フォローになっていないというか、『美姫お姉さんに珠美香ちゃんってにぶいんじゃない?』というようにも聞こえるセリフだが、まあふたりとも実際に気づいてなかったんだからしょうがない。
「どっちにしても、水城さんとあの剣持主任って人、同類だね。何だか生き生きしてるし」
「うーむ、剣持主任に似た性格の女子高生がいるとは思わなかったな」
それぞれの感想を述べる雄高に海斗。ふたりはお互いの言葉に気が付くと、人間と妖精の垣根を超えてそのげんこつを触れ合わせたのだった。
「何だか、おじちゃんも、お姉ちゃんも気持ち悪い……」
「ピイ、ピイ!」
「残念だけど、その意見に一票」
そして素直な感想を述べる結菜ちゃんとピイちゃんに、その感想に同意する詩衣那がいた。
「ほらほら、いつまでも笑ってないで、話を進めてください」
詩衣那はその蝶のような羽を羽ばたかせつつ、剣持主任と江梨子の顔の間を飛びながら行き来した。
「あら、これは失礼しました」
「うむ、ちょっと楽しみ過ぎたかな?」
「ほんとにもう、時間は限られてるんですから遊ばないで下さい」
椎名は、剱持主任とは初対面なのに彼と息がぴったり合っているように見える水城江梨子の様子に少々イライラしているのだが、自分自身ではまだそれに気がついていない。もちろん他の面々はちゃんと気がついているのは言うまでもない。
人間、自分の感情についてはなかなか気がつかないものだが、他人のこととなると敏感に感じ取れちゃうものなのだ。
「それでは現状を説明しよう」
剣持主任は一旦そこで言葉を区切ると、改めて一同を見まわした。そして、それなりに深刻な顔をすると、状況を整理するために話をし始めたのだった。
「まずは妖精世界の地球において、おそらく異星から来たと思われる恒星間植民の為の先遣部隊としての各種インフラ整備用の建設ロボットに依って、妖精たちは絶滅の危機を迎えていた……」
「そこまでは既に誰もが知る状況ですね」
江梨子があいづちを打つ。少々不適な笑顔だ。
「そこで妖精たちは人間の体を召喚するとともに人間世界に妖精の体を送るチェンジリングを実行。機械たちと戦える人間の体を得ると同時に、魔法発動体としての妖精の体を多数、人間世界の地球に設置することが出来た。そして妖精たちの立てた計画は次の段階へと移る」
「それが大脱出計画だということですね」
「……ふむ。どこからその計画名を知ったのかね?」
「もちろん、美姫お姉さまや珠美香さんからですけど、何か?」
「美姫君、珠美香君、3ヶ月間、時給を10%カットということで。詩衣那君、経理のほうにそのように連絡しておいてくれ」
「分かりました。良かったですね。美姫さんに珠美香さん。守秘義務違反の情報漏えいの罰がその程度で済んで」
にっこりと笑う詩衣那。加賀重工の会長の孫娘であるというのは伊達ではない。その笑顔はとても怖かった。
「いや、時給を10%カットというのはちょっと……」
「そうですよ、お兄ちゃんの言うとおり。3ヶ月も10%カットは横暴ですっ!」
「良かったですね♪」
「「……はい」」
詩衣那の笑顔、それは加賀重工という巨大組織を将来的に背負うことを宿命づけられた者のみが持つ迫力を持っていた。その迫力に逆らえるものではなく、不承不承ながら美姫と珠美香は3ヶ月間の時給10%カットという裁定に同意せざるを得ないのだった。
とりあえず静かな迫力。それである。
「ともかく詳しいことは省くが、妖精たちが立てていた大脱出計画は美姫君を巻き込んだ珠美香君の玉突き召喚事故により計画通りの発動は無理ということになり、結果的に我々が妖精たちの代わりに、【人道的】な理由により、大脱出計画を実行してあげようということになったのだが……」
「ほほう、妖精たちを召喚しようとして、妖精世界そのものを召喚したということですか。これはこれは」
「もう、江梨子ちゃんったら、さっきからメガネがキラリン、キラリンしっぱなしだよ」
既に大脱出計画の名前どころか概要までも知っている江梨子は、剣持主任が言いたいことをすぐに理解すると、興味深そうに何度もうなづいている。そして早苗は、そんな様子の江梨子に対して呆れていた。
そしてそんな状況を無視して……。
「まあ、軽く地球滅亡の危機だったんだがね」
剣持主任は、そこで、本当に軽~~く、爆弾発言をすると、詳しい話をし始めた。他の面々は驚きのあまり静まり返っていた。唯一、江梨子だけがそのメガネのレンズをキラリンと光らせていたのだが。まあ仕様なのだから無理もない。
さて、昨日、魔力が暴走して妖精世界の地球と月を召喚してしまった時、その召喚場所は人間世界の地球や月と重なり合うように召喚されるはずだったという。
物質が重なり合うようにして召喚されると、場合によっては原子核同士が融合して核融合爆発を起こすことがあるが、そこまで行かずとも、地球と同一空間にもう一つ妖精世界の地球が召喚された場合、破滅しかもたらさないのは誰にでも分かる理屈だ。
召喚された妖精世界の地球と月が、こちらの世界に完全に現れる寸前、それを察知した白竜王吹雪は、『まずいっ! このままではぶつかるっ!!』と、一声叫ぶと空へ舞い上がっていった。
そして白竜王吹雪が持つ確率を幸運の方向へと操作する魔法は、珠美香とエルフィンの魔力の同調・共鳴能力とそれに上乗せされたブースター等の力を借りて、当初の設定ではなく見事妖精世界の地球と月を人間世界の地球と月とは別の空間、およそ200万km離れた宇宙空間に召喚されるように誘導することに成功した。
「……というわけだ。もしも白竜王吹雪さんがいなかったら、ふたつの地球はぶつかりあって消滅していただろうな。はははははっ!」
「って、笑いごとじゃないですよっ! そういえばここには白竜王吹雪さんがいないですけど、どうしたんですか? ……まさかっ!?」
美姫が慌てて室内を見渡して改めてそこにいる顔ぶれを確認するが、当然ながら白竜王吹雪の顔はそこに無かった。
「ご安心ください。美姫さん。まずはこれをご覧ください」
心配する美姫に対して、落ち着いた声の詩衣那が、台の上に置かれた機器とパソコンを操作する。すると会議室の前方にスクリーンが天井から降りてくると、そこに室内中央の天井に設置されたプロジェクターから、とある画像が映し出されていた。
「これは、地球?」
「正解です。但し、妖精世界の、ですが」
詩衣那は美姫の答えを部分的に肯定する。
「見て欲しいのはここです。ちょうど昼夜の境界線上よりやや夜側に、明るい光点がひとつ確認できるかと思います」
「そうですね」
そしてうなづく美姫および会議室の一同。どうやら他の面々に取っても初出の情報らしい。
「この光点を拡大してみます。どうです? 分かりますか?」
詩衣那が操作すると画像が切り替わり、そこに映っていたのはぼやけているものの白銀に輝く長い体が絡み合うように丸くなった龍、ドラゴンの姿だった。
「白竜王吹雪さんっ!」
「うそっ、いったいどういうことっ!?」
美姫と珠美香が声を上げる。もちろん他のメンバーも『どうなってるの?』、『いったいどうして』などと口々にささやいていた。
「実は我々が住む地球と召喚された妖精世界の地球は、現在のところお互いの距離がおよそ200万kmなのだが、白竜王吹雪さんは、ちょうどその中間地点、それぞれの地球から100万km離れた宇宙空間に浮かんでいるということになる。そして現在でも、その魔法を使い、双方の地球上で起きるはずの天変地異を押さえこんでくれているらしい」
そしてそれぞれの地球は、現在、その共通重心を挟んで公転しあう双子惑星系として生まれ変わっていること。しかしそのような大きな軌道変更が自然な天体に加えられたとなると、惑星の上に住む人間や妖精にとっては大きな影響が出てくるということを、剣持主任は解説していく。
地震や津波、そして火山の噴火である。地殻のちょっとした動きがそれらを誘発するのだ。惑星の軌道が変更されるという大規模な動きが加われば、ちょっとしたどころではない地殻変動に見舞われるのは想像に難くない。
ちなみに白竜王吹雪が存在する宙域こそ、ふたつの地球の共通重心となっている宙域である。
「というわけで、白竜王吹雪さんとは現在連絡は取れない状況なのだが、ああやって光り輝いているということと、双方の地球上にて想定されるような巨大地震などが起きていないということからして、あの状態で白竜王吹雪さんは、とりあえず無事でいるらしいと判断できるというわけだ」
「そうですか、とりあえず無事ということなんですね」
美姫は胸をなでおろす。……なでおろそうとしたのだが、その手はやわやわの爆乳により阻止された。ぽよんという反発が手の平に伝わってくる。ついつい美姫はその胸を軽くゆさゆさとしてしまうのだが、それは元男としての無意識の反応なのかもしれない。悲しき性さがである。
「良かったぁ。お爺さんが無事で」
同じく胸をなでおろす珠美香。女の子に戻ったはずなのに、その手はその胸のふくらみに一切邪魔されることなくストレートになでおろされた。もちろんそれを指摘する勇気は誰にもない。いるとしたらよほどの勇者であろう。……まあ、夏樹あたりならしっかりと賞賛の上で指摘するのかもしれないが、その夏樹は今、絶賛落ち込み中であるので、珠美香の貧乳でまな板なちっぱいを賞賛することはしなかった。
雄高は……、夏樹に洗脳されてちっぱい好きになってしまった雄高はというと、声に出して指摘することはなかったが、目を細めて『うんうん』とうなづきながら笑顔を浮かべている。……本人が幸せならそれで良しとしておこう。
「白竜王吹雪さんに関しては、まあなんだ。今のところは様子を見ることしかできないので置いといて、次に妖精世界の地球の様子について状況を把握しておこう。海斗君、説明してくれるかね?」
「はい。それではアヒカルさんから聞いた最新の情報をお伝えします」
そして海斗は自分が知っている限りの情報を話し出した。
それに依ると、先日まで秋津島皇国へと攻撃を加えていた機械たちはその活動を完全に停止したのだという。ひっきりなしに飛来していた輸送機も一機も飛んでこなくなり、既に降下していたロボットたちもその場で活動を停止したということだった。
但し機能が停止したというわけではなく、チカチカと小さなランプの光を点滅させたり、ときおりモーターの作動音のような音もしているそうで、単に活動を停止しただけで機械は壊れることなくしっかりと作動していることはしているのだという。
「とまあ、そういう状況らしいのだが、どうやら以前に実験でロボットを一台召喚したことがあったが、その時もロボットはしばらく活動を停止していたのを覚えているかね?」
海斗の話が終わり、剣持主任がその後を引き継いで話し始める。
「ああ、お兄ちゃんが、牧場の地面とそこにいる宇宙牛ごとロボットを召喚した時のことですね」
珠美香は、ぽんっと手を打ちながら、改めてその時の失敗は美姫のせいであるとちゃっかりと念を押す発言をする。
「むう、珠美香。そのことはもういいから。……で、確かにそうでしたけど、あの時のロボットはすぐにまた動き出しましたよ」
「機械たちのネットワークからロボットが切り離されると、ロボット個体のシステムが再起動されるらしいことは確認できている。それが惑星単位での機械のネットワーク自体が、【異星人の恒星間移民船団との通信ネットワーク】から切り離されると、より大規模に再起動およびエラーチェックでもするのではないかな。ま、完全に推測だが、今のうちに対策を取れば、何とかなるんじゃないかと思ってる」
「対策って、何をどうするんですか?」
海斗は、剣持主任の言葉を聞くと、真剣な表情で問いかけた。海斗がまだ人間の女性である汐海だった頃にチェンジリングした相手であるアヒカルは、現在身重の状態なのだ。心配なのだろう。
「幸いにも秋津島皇国は地形が日本と同じで島国だ。キャンセラーとブースターを搭載した小型艇を量産して秋津島皇国に供与すれば、その防衛力だけで機械たちの侵攻をほぼ完全に防ぐことはできるはずだ。とりあえずそれで妖精たちの生活圏は確保できる。その後のことはそれから考えればいいだろう」
そして剣持主任は、既に小型艇を量産し始めていることを説明した。
「道彦さん、これからどうするつもりなの?」
詩衣那はふと不安を覚えて剣持主任にそう聞いた。妖精たちに肩入れすることは産業界における将来の魔法革命を実施する上での人材を確保するという面で、祖父である加賀重工の会長からの指示もある。だからそれは良いのだが、軍事的な面まで肩入れしても良いものかどうかという点が不安だったのだ。
「もちろん、あの空の向こうにあるあそこに行くだけさ。フェアリードライブなら行けないことはないからね。……白竜王吹雪さん、あなたの犠牲は無駄にはしませんよ」
そしてわざとらしく『くくっ』と泣きまねをする剣持主任。その時である。会議室にいる全員に白竜王吹雪の声が響いた。
『勝手にワシが死んだような言い方をしないで欲しいものじゃのう』
その瞬間、『わっ』と、声が上がる。白竜王吹雪が念話をしてきたということが理解できたからだ。
「白竜王吹雪さん、無事だったんですねっ!」
美姫も嬉しそうだ。その他の面々も口々に白竜王吹雪の無事を喜んだのだが、対する白竜王吹雪の声(?)は、やや疲れたような困ったような感じだった。
『まあ、無事といえば無事なんじゃが、ちょっと困ったことになってのう。端的に言えば助けてほしいんじゃがいいじゃろうか?』
「……まずは事情を伺いましょう」
そして剣持主任に促されて白竜王吹雪が話したことは結構、というかかなり深刻だった。
『現在、ワシは両方の地球の地殻の歪みが大きな天変地異へと現実化しないように魔法で抑え込んでいるわけなんじゃが、あまりにも歪みが大きすぎてな、あと1000年程度は今と同じ状態で魔法を使ってその歪みを押さえこんでいなくてはならないんじゃが……』
「1000年もっ! 大丈夫なんですか、お爺さん!?」
雄高はいまいち白竜王吹雪が既に2万年以上も生きている本物のドラゴンであるということが実感できていないのか、驚きの声というか、心配の声を上げる。
『いやなに、ワシの寿命もあと1万2000年くらいはあるからのう。1000年くらいなんぞ大した時間じゃないわい。それよりもじゃ、魔力が尽きかけているのが問題じゃな。今のまま魔力の補給が出来なければ、あと1ヶ月も経たないうちに魔力が無くなってしまうじゃろうな』
爆弾発言である。つまり白竜王吹雪の魔力が尽きた時には、ふたつの地球で大きく歪んだ地殻が大変動を起こし、地震や津波に火山噴火といった天変地異が大規模に起こるということなのだから。
「確か『魔力の回復には、うまい食い物とうまい酒が一番』と以前に伺っていましたけど、具体的にはどうすればよろしいのですか」
剣持主任が、白竜王吹雪を召喚した時のセリフを思い出して確認をする。
『おお、それなんじゃが、そこには簡単に月まで行けるような宇宙船があると聞いておったのじゃが、それでここまでワシにうまい食い物とうまい酒を持ってきてくれんかのう?』
「えっ、宇宙空間で食事ができるんですか?」
美姫はずれたようでいて本質的な疑問を質問した。みんなも、うんうんとうなづいている。
『なに、宇宙船が近くまで来てくれたら龍体はそのままで、感情体を同時に顕現けんげんさせるから、宇宙船の中で飲み食いさせてくれればええことじゃ』
「なるほど、そういうことなら、妖精世界の地球へと行く途中で、白竜王吹雪さんのところに寄ることにしましょう」
『まあ、とりあえずはそれで何とかなると思うんじゃが、出来たら継続的にこの場所でワシが感情体で生活を出来る宇宙ステーションとか、アニメにあったようなスペースコロニーとかいうやつを作ってくれるとありがたいのう』
遠慮のない要求をする白竜王吹雪であったが、彼の魔法によりふたつの地球の天変地異が押さえこまれているということならば、コスト的には完全にペイする内容でもある。
「それについては私の一存では決めかねますので、後日ということで」
『ああ、構わんよ。では待っとるでな。なるべく早いうちに頼む』
そしてそのまま白竜王吹雪の声は途絶えた。それを確認して、皆は『ふう』と息を吐き、しばし無言でいたのだが、海斗は窓から見える妖精世界の地球と月を見上げて言うのだった。
「アヒカルさん、無事でいてください。必ず助けに行きます。そしてお腹の中の子供も……」
その時である。会議室のドアを乱暴に開け、加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】の職員の男性がひとり駆け込んできた。
「き、緊急事態です。主任、今すぐテレビをつけてください」
走って来たのだろう。その職員は肩で息をしていてそれ以上の情報をすぐに得られそうにはなかった。
「TV放送に切り替えます。NHKでよろしいですね」
詩衣那がプロジェクターを操作する機器を操作しつつ、その職員に問いかけると、職員は息をハアハアとさせながらうなづいた。そしてプロジェクターによって映し出されたのは、妖精世界の地球らしき映像だった。
『ご覧ください。これは国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡による画像です。先日、加賀重工の加賀光政会長より驚愕の発表があった妖精世界の地球です。その妖精世界の地球における中国や朝鮮半島に相当する地域に多数の核爆発によるものと思われる閃光が確認されました。くりかえします。妖精世界から召喚された地球上において、核爆発によるものと思われる閃光が多数確認されています』
落ち着いているのか興奮しているのか分からないNHKアナウンサーの声だけが会議室に響いていた。
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