第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第28話 珠美香、再性転換! 男の娘から女の子へ ♪
大召喚と呼ばれることになる事件が発生した翌日、丸一日も気を失っていた美姫が気がついてみれば、自分の胸が大変なことになっていることを知ったのだった。
「うそっ! なんで私の胸がこんなにもおっきくなってるのっ!? もしかして偽物?」
下を見ると普段ならば遮るものは何もない(泣)はずなのに、今はふたつの丸いお肉の塊が圧倒的な存在感を以てして美姫の視線を遮って居た。
「うぉっ!? 何っ! この柔らかさっ!!」
考えたわけでなく思わず手が出てその大きな肉塊を鷲掴みにした美姫は、そのあまりの柔らかさに素の口調が出てしまう。
「それに触られてる感じがある。本物だ……」
美姫は己の小さな手の中でぐにぐにと形を変える柔らかな肉塊を揉みしだき、やがてそれが本物か偽物かを確かめる為という当初の目的を忘れ、次第にその快感を味わい始めてしまう。
今までの美姫であるならば非常にささやかな膨らみしか持たない胸をしていたので、胸を触っての行為といえばイコール左右の胸の中央に配置された指先ほどの突起物を指で摘まんでコリコリといじることを意味していた。
決してその周辺の感度がよろしくないという訳ではない。むしろ薄い胸だからこその感度の良さというものもあるので、加賀詩衣那とふざけあって彼女の手が美姫の胸に直接触れ、そしてサワサワと動いたならばもう、美姫の体はぴくんぴくんと反応してしまったのはまぎれもない事実である。
おふざけの遊びとはいえ、『あれは気持ち良かった』……と、後日の美姫はその感覚を反芻して楽しんだものである。
しかしその平らな部分を自分で触るとあまり感じないというのも事実なので、どうしてもそのような行為をする際の前菜として採用されるのは前述したように左右の胸の中央の突起物をいじることになってしまうのはしょうがない。
そしてそれはもう無意識の動きとして定着していた。つまりそれだけいつもやっているということである。長谷川美姫、妖精少女生活を楽しんでいるのは間違いない。
「あん、うん、……なんだか、いつもよりも、き、気持ちいいかも」
成熟しきれていない平らな胸と、成熟しきった豊満な胸。どちらの感度がよろしいのかという議論は多々あるであろうが、とりあえず今の美姫は未知なる感触に快感神経を刺激されまくりということで、普段よりも感度が増し増しになっていた。
例外もあるだろうが、新しい刺激というものは大切であるということは、専門家の間でも意見が一致しているところである。……なんの専門家だ。いったい。
まあ、というわけで前菜を味わい尽くした美姫が次に手を伸ばすのは、いつもなら胸よりももっとずっと下のほうについている秘所であるので、自然とそちらに手が行ってしまう。せっかく豊満な胸があるのにもったいないことである。
しかし美姫もそれに気がついたのであろう。途中まで秘所へと伸びかけていた左手はそのままに、右側の突起物をいじっていた右手は突起物がついている土台の肉塊へとわずかな距離を移動する。そしてそれをふたたび力強く揉みしだこうとしたときに……。
「はい、そこまでっ!」
聞こえてくる声で何が行われているのかに気づいてしまったので、それまで背中を向けていた海斗は、くるりと振り返るとツカツカっと歩み寄り、美姫の頭を軽くげんこつでコツンと叩きつつそう言った。
「いったい何をしようとしていたんだか。まったくもう」
溜息をつく海斗。浅黒い肌が心なしか赤くなったような気がする。
「いや、何って、ナニかな?」
微妙にイントネーションが『びみょう』な返事をする美姫。というかいい加減その動かしている手を止めろという話である。
「やっぱり美姫さんも、元男ということか……。はぁ」
海斗はそう言いつつ、ようやく手を止めてベッドから降りてきた美姫に持ってきた服を手渡す。言葉の最後に出てきた溜息が海斗の心情を現しているのだが、美姫はそれには気がつかず、受け取った服を眺めていた。
ちなみに下半身は短めのスパッツであるが、上半身は前述のように裸であり、見事なおっぱいはほりだされたままである。しかし美姫は海斗の人間だった時の性別が女性だったことを知っているので、あまり気にしていない。というかそれを気にするよりも自分の胸の大きさが気になってそれどころではないというところだろう。
「えっと、この服は? なんだかサイズがやけに大きい感じだけど」
「それくらい大きくないと、胸を完全に隠すのは無理だから。なんだったら今までの服を着てみたらどうかな」
美姫の疑問に対して、海斗はベッドの脇に畳んで置かれていた今まで美姫が着ていた服を手に取り、伸縮性のある生地で作られた下着のシャツと、上着である着物のように前を合わせて帯で留めるような服を手渡す。
美姫は先に受け取った服を一旦ベッドの上に置き、無言で本来の自分の服を受け取ると、まずはシャツにその両腕を通し、頭をくぐらせると次に裾を持ち、グッと下に降ろそうとして力を入れたのだが、やっぱりというか、シャツの裾は美姫の胸につかえて下に降りることはなかった。
「は、入らない……。まさかこれもっ!?」
途中までしか着れなったシャツを脱ぎ捨て、次に上着を手にした美姫はそれを手にすると両袖にそれぞれ腕を通し、最後に前で左右を合わせようとしたのだが……。
「まさか胸が隠しきれないほどの巨乳になっていたとは……」
美姫は、喜んでいいのか悲しんでいいのか、微妙な心境だ。
貧乳好きの男性が自分の胸に萌えないのと同じで、巨乳好きの男性もまた自分の胸に付いた巨乳に萌えないのと同じ理屈である。
まあ冗談はさておき、確かに今までの服は着れそうにないので、美姫は素直に海斗から受け取った服を着ることにした。
大きめサイズのシャツは、それでも胸の辺りが若干きつめではあるものの、ちゃんと裾を下まで降ろして着ることが出来たし、上着もその服なら胸を隠すには十分だった。逆に袖が長すぎるのだが、数回折り曲げて短くすれば大丈夫だ。
但し上着の裾が比較的短めだったので、このままではスパッツが見えてしまう。まあ、気にしなければ良いのだが、季節は秋から冬へと向かう頃だ。出来たらウェストを帯で留める前に、下半身用の服も欲しいものだと思っていたら、ちゃんと巻きスカートも用意されていた。
「ところで、この服、どこから持ってきたの?」
美姫は巻きスカートを慣れた手つきで身に着けると、更に上着を着終わり、今さらながらにそう聞いた。
「どこからって、巻きスカートは詩衣那さんからの借り物で、上着は俺のだけど……」
「……海斗って、こんな柄をした服が趣味だったんだ」
「趣味というか、人気がなかったらしくて安くなってたんだよ。定価の7割引きだったら買うしかないでしょ」
「ああ、そういう理由で。まあ、納得できなくはないかな。妖精の服って高いからね。それにしてもこのデザインはちょっと……」
美姫は、胸のサイズが大きく変わった為に服を買い直さなくてはならないことに思い至り、ちょっと暗い気持ちになってしまう。
それはそうと海斗が持ってきた上着はどんなものかというと、裏地のついたジーンズ風の生地で作られており、まあそこまでは良いのだが、背中には登り竜の絵が刺繍されていた。見た目はともかく結構高そうな作りではある。
「まあ、裏地もあって暖かいからいいけど、詩衣那さんのスカートも真っ赤だし、合わせるとどっかに特攻しなくちゃいけないような感じ?」
「そこは今、気にするところじゃないだろ。とにかくみんなのところに行こうか。アレのことも相談しなくちゃいけないし」
海斗は窓の外を指さす。そこにはふたつの星が並んで浮かんでいた。まだ昼間なのでその姿はぼんやりと霞んでいる。その青く見える大きめの星と白く見える小さめの星は、つい昨日まではこの宇宙に存在していなかった星々であることを美姫は知っていた。
「やっぱり、妖精世界の地球と月ごと召喚しちゃったんだ」
「気づいてたのか?」
すべてを知っているような美姫の雰囲気に、海斗は訝いぶかしみながらも聞いてみる。
「気づいていたというか、召喚魔法を発動させたのは私だからね。その結果がどうなったのかってことは最初から知っていたよ。間違いだと思いたいけどね」
「そうか。じゃあ、その他のことは知っているのかな。白竜王吹雪さんのこととか、珠美香ちゃんのこととか」
海斗のその言葉に、空に浮かぶ妖精世界の地球と月を見ていた美姫は視線を海斗に移した。
「えっ? 珠美香がどうかしたの?」
「いや、美姫さんの胸が大きくなったのと同じ理由かは知らないけど、珠美香ちゃん、女の子になってるぞ」
以前の珠美香は男の娘ではなく、れっきとした女の子だったことを知らない海斗は、【戻っている】という言葉を使わず、【なっている】という表現をした。しかしそんなどうでもいい点に気づくことなく、美姫は驚きの表情を浮かべ、声を上げる。
「うそっ!? 珠美香が女の子に戻ったってっ!!」
その直後、美姫は白い鳥のような羽を広げると部屋を飛び出して行った。珠美香がどこに居るかということも聞きもせず。
「あっ、行っちゃった。珠美香ちゃんのことよりも白竜王吹雪さんのほうが重要な話だったんだけど、まあ、そっちのほうは剣持主任に任せておけばいいか」
海斗は頭をポリポリ掻いた後、『美姫さんが落ち着かないことには、白竜王吹雪さんの話もできないしな』などと言いつつ、黒いコウモリのような羽を広げ、美姫の後を追いかけて行ったのだった。
「珠美香ちゃん、良かったねっ! 女の子に戻れてっ!!」
「ちょ、早苗ちゃんっ! 苦しい、くるしいってばっ!!」
単純に喜んでいるのは大島早苗だ。珠美香を抱きしめ、その大きなFカップの胸に珠美香の頭を沈めている。珠美香は苦しそうだが、見ようによっては少し嬉しがっているように見えなくもない。
「女の子から男の娘になったことも不思議でしたけど、また女の子に戻るだなんて、不思議を通り越して不可思議ですね」
と、意味がありそうでなさそうなコメントをしつつメガネをキラリンと光らせている水城江梨子。もちろんメガネを光らせているのは仕様であるのは言うまでもない。
ここは美姫が寝ていた妖精サイズの部屋がある建物の一角にある医務室である。医務室とは言っても小さな病院程度の設備を持ったれっきとした病院と言い換えても良い。
加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】では魔法を応用した様々な新技術を実験・検証しているのだが、その際に被験者の状態を調べるために存在している施設である。
その医務室には検査を終えた珠美香と、美姫と同じく倒れてしまった珠美香を心配してやって来た早苗と江梨子がいた。
そして佐藤雄高も……。
「珠美香ちゃん、女の子に戻ったって、本当っ!?」
早苗と江梨子に遅れて医務室に入って来た雄高は、早苗に抱きしめられている珠美香から少し離れたところに立ち、おずおずと聞いてみる。なぜにおずおずと聞いているかというと、珠美香の外見が今までと全く変わったように見えなかったからだ。
珠美香は昨日まで外見が女の子にしか見えない完全無欠の男の娘であった。男性用の服を着ていても、男装した女の子にしか見えないという男の娘の中でも希少種で、局部を見て本当に男であることを確認した後ですら、『これだけ可愛ければ男でもいいか』と思えるくらいの男の娘であったのだ。
つまり珠美香が女の子であった頃を知らない雄高からしてみたら、完全無欠の男の娘の姿であった珠美香と、今の女の子に戻ったという珠美香と、外見上どこか違いがあるのか分からなかったのだ。
そんな戸惑いの気持ちを抱く雄高の心の内を知ることなく、雄高の姿を認めた珠美香は、喜びの声を上げながら雄高の元へ行くと、そのまま雄高に抱き付いた。
ちなみに早苗は空気をしっかりと読んでいて、雄高がやって来たのと同時に、抱きしめていた珠美香を開放していた。
「やったーーっ! 雄高君、私、また女の子に戻れたんだよっ! 嬉しいっ!!」
以前の珠美香は、演劇部の先輩である杉野部長に恋をしていたのだが、その恋は見事に破れ去り、今は目の前に居る佐藤雄高に恋しているのであった。まあ、色々とあったのである。
しかしこの佐藤雄高という少年、今まで女性にもてたことが無い人生を歩んできたので、いささかデリカシーに欠けるというか、配慮が甘いというか、そんなところもあり不用意な発言をしてしまうことになるのだが、その前に美姫がようやく医務室に入って来た。
「はあ、はあ、珠美香、珠美香が女の子に戻ったって本当っ!?」
珠美香の居場所を聞かずに部屋を飛び出た美姫は、途中でドラゴンバタフライの子供であるピイちゃんと遊んでいた結菜、紆余曲折あって美姫と海斗が面倒をみているまだ5歳の妖精の女の子を見つけた。その結菜に珠美香の居る場所を聞き、慌てて飛んできたのだ。
「待ってーーっ! 結菜を置いていかないでーーっ!!」
「ピイピイ、ピイ?」
突然に表れた美姫と結菜とピイちゃんにより、医務室内の会話は一旦途切れることになり、その静寂の中、結菜は昨日までとは大きく違う美姫の大きな胸を見て言うのだった。
「ちいさいお母さんが、(胸が)大きいお母さんになっちゃったっ!!」
そのまま結菜は美姫の胸へと顔をうずめる形で飛び込んでいく。
「うわーいっ! ふかふかだぁーーっ!」
「ちょっと、結菜ちゃん、待って。あ、あぁっ!!」
美姫、少々感じていちゃったりして。
そんな美姫と結菜、そしてその周囲を面白がって飛び回っているピイちゃんを見つつ、珠美香と早苗、そして江梨子と雄高はなんとなくほっこりとした気持ちになっていた。
4人は、しばしその光景に見入っていたのだが、美姫の大きくなった胸を見て雄高は何かに気が付いたこのように、『そう言えば……』と言葉を紡ぐ。
「珠美香ちゃん、外見が変わってないんだけど、……もしかしてちっパイなのかな?」
その瞬間、部屋の空気が凍り付いた。
「……雄高君、胸の小さな女の子って嫌い?」
若干、涙目になりながら雄高に質問する珠美香の肩は小さく震えていた。
Fカップな爆乳を持つ早苗はもちろん、普通並みの胸よりもやや小さめ程度の胸をした江梨子も珠美香に掛ける言葉が見つからない。
それどころかつい先日までは貧乳だった美姫ですら、今は早苗とタメを張れる程度には爆乳なのだ。
となれば珠美香に慰めの言葉を掛けるのは嫌味にしかならないので、結果として雄高を非難する言葉を吐くしかなくなる。というわけで早苗と江梨子、そして美姫の女子組3人はそろって雄高を詰問しようとしたのだが、その直前、部屋の外から飛び込んで来た妖精によりその意図は挫かれた。
「この、馬鹿ものーーっ!!」
猛スピードで飛び込んできた妖精は、そのまま両足をそろえたキックを雄高の顔に炸裂させた。その破壊力はすさまじく、小さな妖精から繰り出されるキックにも関わらず雄高を転倒させるのに十分なパワーを持っていた。
そのあまりの光景に女子3人組は、開きかけた口をパクパクとさせることしかできなかった。
「夏樹君っ!」
唯一、言葉を発したのは珠美香である。そう、飛び込んできた妖精はトンボのような羽をした山本夏樹であった。
呼びかけられた夏樹は優しい目をして珠美香にうなずくと今度はキリッとした顔になり、床に倒れた雄高を指さしながら話すのだった。
「話は聞かせてもらった。君は間違っているっ! 女性の胸はささやかな大きさであるちっぱいこそ至高にして究極っ! なぜそれを分からないっ!?」
そして夏樹はその他の人々をおいてけぼりにして、如何に小さくて控えめなちっぱいこそ最高であるか、女性のおっぱいが大きいのは如何に駄目であるかを滔々(とうとう)と演説し始めたのだった。
「そもそもおっぱいというのは赤ちゃんへの授乳の為にあるのであるからして……」
「薄くて小さいちっぱいのほうが圧倒的に感度も良く……」
「男の手のひらの中にすっぽりと納まる大きさこそベストであり……」
「大きなおっぱいはすぐに垂れてしまうのは言うまでもなく……」
「大きすぎるおっぱいは女性の運動能力を阻害し……」
「男が感じる心理的圧迫感から鑑みるに……」
「夏場の蒸れる時期のおっぱいはある意味汚らしいと言えなくもなく……」
「ちっぱいは可愛い下着も着放題であり……」
「……とまあ、そういう訳で、ちっぱいこそ至高にして究極っ! そこのところOK?」
言いたい放題の夏樹であった。しかしまあ言いたいだけ言ったからなのか、最後にはそのトーンはずいぶんとおとなしいものになってきていた。肩で息をしているところを見るとスタミナ切れだろう。
「はいっ! 分かりました。先生っ! 俺が間違っていましたっ! 女性の胸はちっぱいこそ至高にして究極なんですねっ!! これからはちっぱいを愛でて愛でて、愛でまくりますっ!!」
「分かればよろしい」
雄高は正座しながら床に手を付き、更には無駄に滂沱ぼうだの涙を流している。夏樹は、雄高の頭よりもやや前方の上の位置に滞空しながら雄高を見下ろしつつ、無駄に偉そうにしている。
ふたりにしてみたら『ちゃら~~ら~~♪』と、雰囲気を盛り上げるBGMが脳内で流れているのだろうが、一連の流れを見守っていた一同には、どこかどんよりとした雰囲気が漂っていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。大きなおっぱいでごめんなさい」
泣いているのは早苗である。人生において自分よりも大きなおっぱいにリアルでは出会ったことが無いのが密かな自慢だったのだが、夏樹の偏った価値観による演説により、早苗の心は一時的にせよ完膚無きまでに折られてしまったのだ。
「ついさっきおっぱいが大きくなったばかりだけど、どうしよう。なんだかものすごく申し訳ない気持ちになってきた」
妖精たちの中ではちっぱいの代表選手だったのが美姫だったのだが、今は大きなおっぱいが一般的な妖精の中でも、更に大きなおっぱいをしている。そんな美姫も夏樹の演説を聞き、どうしようもなく大きなおっぱいをしていることが恥ずかしく、そして申し訳なく思えてきたのだ。
「くっ、まさかこの私が、自分のおっぱいが大きすぎると思えてきてしまうとは……」
通常よりもやや小さめな胸をした江梨子ですら、これである。更に言うなら江梨子が仕様である眼鏡キラリンをすることを忘れていることに、誰も気が付いていないという状況……。
恐るべし。山本夏樹……。変態もここまで来れば立派である。
「やったーっ! 結菜のおっぱいはぺったんこだよっ! ほらほらっ!」
見て見てとばかりに結菜は上着の前をはだけてそのぺったんこな胸を見せびらかす。
「う、いいなあ。ぺったんこな胸……。じゃないっ! 結菜ちゃん、みっともないからやめなさいっ!!」
しばし結菜の小さな平原を鑑賞していた美姫だったが、母親代わりの自覚がようやく夏樹の呪縛を解いたらしい。美姫は『あわあわ』としつつ空中で結菜にランデブーすると、結菜の上着を直してその胸を隠すのだった。
「結菜ちゃん。女の子が胸をはだけるもんじゃありません。ここには変態さんがいるんだからね」
と、言いつつ美姫は夏樹のことをジト目で見る。すると見られた夏樹も美姫を見返し、更には美姫の大きくなった爆乳に視線を移すと、大きく溜息をついた。
そして何やら言葉を探しながら葛藤しているように口を開けたり閉じたりしつつ、ようやく意を決したのか、目にうっすらと涙を溜めながら告白した。
「残念ですっ! もう僕は美姫さんを愛せなくなりましたっ!!」
貧乳好きの夏樹は、スタイルが良くて大きなおっぱいの女性しかいない妖精たちの中にあって、唯一の貧乳の持ち主であった美姫にひとめぼれして、会うたびにアタックしていたのだが、その美姫の貧乳が爆乳になってしまったのだ。絶望し、悲しみもするだろうというものである。
まあ、女性を外見でしか愛せない男ということで同情はできないのであるが。
「あ、そう。じゃあ、そういうことで」
対する美姫の返事はあっさりしたものである。当初は外見的には女の子である男の娘な妖精である夏樹のことを恋人候補にしていたくせに、夏樹の性癖を知った途端にこれである。長谷川美姫、女子歴1年と数か月にして女性の割り切りの良さを身に着けているのは間違いない。
あっさりした美姫の返事に、更に打ちひしがれる夏樹。さっきまでの勢いはどこへやら。可愛そうだがしょうがない。
「ええと、じゃあ話もまとまったみたいだから、そろそろ会議室に集まってもらってもいいかな? 現状の把握をしてもらいたいし」
そう言ったのは、部屋の外から中を窺っていた海斗である。その横には詩衣那もいた。
「すみません。私たちも同席してもよろしいですか?」
江梨子は、ダメで元々であるが、部外者であると自覚していながらも詩衣那に聞いてみた。ちなみに当然のごとくメガネをキラリンと光らせている。
「うっ、分かりました。今は時間が惜しいです。こちらにどうぞ」
めったにないことであるが、加賀重工の会長の孫娘であり、現社長の娘である加賀詩衣那が、江梨子の迫力に押されていた。普段ならありえないことが起きるのも江梨子のメガネキラリンの効果なのであるが、それが仕様なんだからしょうがない。
「はい、ありがとうございますっ! じゃあ、早苗に佐藤君、行くわよ。いざ、真実を知るためにっ!!」
早苗の手を取り、雄高に声をかけつつ嬉々として詩衣那の後をついて歩き出す江梨子。まあ非常事態における成り行きとはこんなものである。
「じゃあ、雄高君、一緒に行ってくれる?」
珠美香は、おずおずと雄高の手を取り、頭ひとつ高いところにある雄高の顔を下から見上げた。
「あ、ああ、そうだね」
佐藤雄高、ちょっと声が上ずっているが、それもしょうがない。男の娘だった時の珠美香の手も男にしては柔らかかったのだが、女の子に戻った珠美香の手はそれよりも更に柔らかく、乱暴に持てば壊れそうだったのだ。
そんな柔らかな手でそっと自分の手を握られ、更には下から見上げられてしまっては、反応するものが反応してしまう危険が危なくてデンジャラスだったのだ。
「でも、珠美香ちゃんが女の子に戻ったっていうなら、もう一緒にお風呂に入ったりはできなくなっちゃったね。ちょっとそこのところは寂しいかな?」
何か話さねばという緊張からだろうか、雄高は何かとんでもない話題を出してしまうのだが、それを聞いた珠美香の反応は……。
「えっ? 私なら構わないよ。雄高君と一緒にお風呂に入っても……」
ポッと顔を赤らめながらつぶやく珠美香。
「えっ!? ……いいの?」
「うん。女の子に戻った私をちゃんと見て欲しいし……」
珠美香、大胆を通り越して痴女レベルかもしれない。後で後悔しなければ良いのだが。
「そ、そうか……。じゃあ、また後で……」
そんなことを会話しながら部屋から出て行くふたりを見ながら、『後で何をするんだこの野郎』と思いつつ、口から大量の砂糖を吐き出す美姫。もちろん比喩表現である。
「そういえば、珠美香は女の子に戻ったのに、なんで私は妖精のままなんだろうね」
砂糖を口から吐ききった美姫は、ふと思い出したようにそうつぶやいた。
「あ、その理由は簡単。どうやらエルフィン皇女が人間の少女から少年へと性転換しちゃったらしいから、そういうことじゃないかな」
海斗は、美姫の疑問にあっさりと答えた。
「マジっ!?」
「マジもマジ、大マジ。アヒカルさんの話によると、結構イケメンのいい男になってるらしいよ。ま、いきなりアレが生えちゃって大変だと思うけどね」
過去の自分の経験を思い出しながら、海斗はしみじみとそう言った。ちなみにアレとは何かといえば、もちろんナニであるアレである。この説明で分からない人は国語力が相当に弱いことを自覚しなければいけない。
「そりゃあ、エルフィン皇女も大変だ……」
珠美香が人間の男の子(娘)になった時の騒動を思い出し、美姫は心の中でそっと手を合わせるのだった。
「ア、アヒカルさんっ! ど、どうしましょう。アレがこんな状態にっ!」
「姫様、というか皇子様、落ち着いて下さい。それは男であれば自然な現象ですっ!!」
その頃、エルフィン皇女改めエルフィン皇子は、ナニがアレしていて大変なことになっていた。
「でも、でも、アレがもう痛くって、我慢がっ!」
「くっ、しょうがありません。エルフィン様、ごめんっ!! あぐっ、はむ、はむ……」
「あ、あぁ~~っ!」
エルフィン皇子の初めての体験は、とても素早かったらしいが、歴史書にそのことが載ることはなかったという。
大変な時期に何をやっているのだという話だが、えてして歴史とはそうやって作られていくのであった。
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