兄妖 第18話

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It is historical in front of The second Earth area story

妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール

作:紅衣北人 / ジャージレッド



第18話 失われた奥地深くへと……


「……珠美香君と美姫君の魔力の同調・共鳴能力が上がっている? ふ~む、ちょっとこれはまずいな。方針を転換する必要がある。というかせざるを得ないか」

 ここは【加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班】、通称【魔法研究所】とも、単純に【研究所】とも呼ばれている場所である。その責任者である剣持道彦主任は悩んでいた。

 妖精世界の妖精たちによる大脱出計画には、長谷川珠美香と美姫の能力が不可欠らしい。その能力とは魔力の同調・共鳴能力であるのだが、その能力は珠美香が持っているものだという。

 しかし同じく同調・共鳴能力を持つ妖精のエルフィンが珠美香を召喚する際に起きた玉突き召喚事故により、本来無関係なはずの珠美香の兄である幹也(美姫)が関与しまったことにより、事態はややこしくなったのだ。

 妖精のエルフィン皇女は、人間の少女に。人間の少女であった珠美香は、人間の少年に。そして人間の少年であった幹也は、妖精少女の美姫になってしまった。

 しかも単純にエルフィンが珠美香の体に、珠美香が幹也の体に、そして幹也がエルフィンの体になったのではなく、3人の存在が量子レベルで混ざってしまい、それぞれが本来とはちょっと違う体になってしまったのだ。

 分かりやすい点は、その外見上の男っぽさ、女っぽさである。

 本来のエルフィンの体は他の妖精と同じで、ボッキュンボンとしたとてもグラマラスで胸も大きな妖精である。なのに現在、その体にチェンジリングしている美姫(幹也)はどうかというと、幼児体型と言っても決して悪口ではない程度に胸が小さいのだ。

 それは珠美香の体も同じで、本来ならそこそこ胸は有ったはずなのに、珠美香の体にチェンジリングしているエルフィンはどうなっているかというと、小ぶりな胸をした少女となっている。

 そして少年だった幹也の体にチェンジリングしている珠美香はというと、その股間も遺伝子も確かに男であることで間違いないのだが、外見上はかわいらしい女の子にしか見えない男の娘になっているのである。

 その混じり具合が外見的なことだけだったら良かったのだが、その能力にまで影響していたことが妖精たちの大脱出計画を大きく狂わせてしまったのだ。

 本来ならエルフィンと珠美香は魂の波動を同じくしていたはずなのに、3人の存在が量子レベルで混ざり合ってしまった為、波動に微妙なズレができてしまったのだ。このままでは妖精世界のエルフィンが人間世界の珠美香を通じて大規模召喚魔法を発動させることができない。

 そこでまずはイレギュラーの原因である美姫(幹也)と珠美香の間で魔力の同調・共鳴能力を発動させることにより、エルフィンとの同調・共鳴も可能にしようというのが、妖精世界側から提示された最新の計画なのだ。

 加賀重工の会長である加賀光政は、魔法増幅装置ブースーターを使った魔法が人間世界の産業を一変させるほどのポテンシャルを持っているという可能性に気づいていた。そこで妖精世界の妖精たちが機械群の侵略を逃れて人間世界に脱出しようとするのなら、それを援助することにより、将来的に妖精たちを囲い込んで利用しようとしていたのだ。

 しかし妖精たち主導で大脱出計画が成功すると、それは妖精たちの人間世界への侵略と見なされる可能性があり、国やアメリカ合衆国、さらには国連といった連中が介入してくるだろうと予想された。それでは加賀重工が妖精たちを囲い込んで独占することはできない。

 そこで研究所が大規模な召喚実験をした際に召喚魔法が【暴走】して、結果的に妖精世界の妖精たちを召喚してしまったという【事故】を起こすことにより、その責任を加賀重工が被るという形で、妖精たちをどうこうする権利を得ようというのが加賀光政会長の思惑だ。

 というわけで研究所の剣持主任に出された暗黙の指示は、『妖精世界側と協力するふりをしつつ、最終的には出し抜け』というものであった。

 具体的な方法として、珠美香と美姫の間で、機械的に同調・共鳴能力の補助をしていると考えられているキャンセラーのデータ通信機能を、わざと数十秒単位でランダムに接続が瞬間的に切断と接続を繰り返す設定がなされていたのだ。

 これによりふたりは同調・共鳴能力を発動させることが困難になるはずだったのだが……。

「まさか、データ通信機能がランダムに切断されるという状況が、結果的に素の同調・共鳴能力を鍛えてしまう役割をしてしまったとは誤算だったな」

 剣持主任は各種データと珠美香と美姫からの聞き取り調査の結果を見ながら、そう結論付けた。明らかにデータ通信機能が切断されている時間帯でも、ふたりの同調・共鳴状態が不完全ながらも維持されていたのだ。

「このままの状況を続けていたら、妖精世界側の指導とアドバイスによりふたりの同調・共鳴能力が開花したということになってしまうな。……ここはひとつ、一気に畳み込んでみるのも手かな」

 剣持主任は暗い笑顔を浮かべながら、そうひとりごちたのだった。



「こんにちは。今日もよろしくお願いします」

 それなりに礼儀正しく挨拶をしつつ研究所に入ってきたのは珠美香である。授業と演劇部の部活が終わったあと、学校まで迎えに来た研究所の車に乗ってやって来たのだ。

「やあ、珠美香。待ちくたびれたよ」

「珠美香お兄ちゃんこんにちは♪」

 迎えたのは授業が終わったあと文字通り急いで飛んできた美姫と、朝から海斗とともに研究所にお邪魔している結菜である。美姫は結菜と何やら遊んでいたらしい。美姫もなかなかに面倒見が良い。

 ちなみに結菜は現在5才ということで義務教育前でもあるので、美姫が高校に行っている間は海斗と行動を共にしているのであった。

「……こんにちは。結菜ちゃん」

 珠美香はお兄ちゃんと呼ばれることに対して一瞬だが抗議しようかと思ったものの、自身の体はまぎれもなく男であることは間違いないので、不承不承ながらも結菜に返事を返すことにした。まあ、いつものことである。

「それはそうと珠美香、話は聞いてる?」

「うん、車の中で聞いた。データ通信強化型のキャンセラーができたって聞いたけど、そんなに簡単に開発できるものなのかな?」

 電子機器からの妖精への悪影響を中和する機械、キャンセラーは、その作動原理が不明のままである。なのにそんなにも簡単に新型のキャンセラーが開発できるものなのか? という疑問である。美姫と珠美香はお互いに顔を見合わせたまま首を傾げた。

「おやおや、疑っているのかい。出来ちゃったものはしょうがないだろ? まあ、いわゆる天才ってやつかな」

 タイミング良く顔を出したのは剣持主任であった。

「うそばっかり。たまたま偶然に出来ただけなのにね」

 続いてロビーに出てきたのは詩衣那である。飛んできて、美姫と結菜が遊んでいるテーブルの上に着地する。

「ま、偶然だろうが何だろうが、出来たのなら結果オーライってことだろ?」

 剣持主任と詩衣那が、『偶然だ』、『結果良ければいいんだよ』と冗談っぽく言い合っていると、そこに海斗がやって来た。例の何とかスーツから通常の服装に着替えていたらしい。

「いやあ驚きました。あんな魔法の使い方もあったんですね。目からウロコですよ。なんだか光ってましたけど、あれって空気がプラズマ化したということですよね」

 海斗はしきりに感心していた。さて、いったい何が有ったのかというと、先ほどまで行っていた魔法の実験である。妖精世界の元妖精のアヒカルからの直伝によって魔法を使えるようになった海斗であるが、剣持主任のアイディアにより、今日は純粋なエネルギーそのものを召喚してみたのだ。

 以前、海斗は溶岩を召喚したり氷を召喚したりしたのだが、今回は、『熱エネルギー』そのものを召喚しようという実験だった。

「妖精世界の妖精たちはおそらく物理的な知識が乏しい時代から魔法を使っていただろうから、過去の使用方法に囚われた魔法の使い方しかしていない可能性がある。その点、我々は魔法の使用方法にタブーは何もないからね。次回の実験では、重力場とか磁場そのものとかを召喚して使用できるかどうかを確認してみようか?」

「重力場に磁場ですか?」

 剣持主任の言葉に、海斗は不思議そうな顔をしている。ちょっと理解が追い付かないという感じだ。

「ま、それについてはおいおい説明していくから、また後にしよう。それよりも美姫君に珠美香君、早速だが新しいキャンセラーを使ってみてくれないかな。データ通信機能を安定化させてあるから、いままでよりも魔法の同調・共鳴能力を発揮しやすいはずだよ」

 剣持主任は、海斗との会話をいったん終え、美姫と珠美香にそう言ったのだが、新しいキャンセラーというのは嘘である。

 実は美姫と珠美香がつけているキャンセラーはデータ通信機能をonにしてあり、珠美香が持つ魔力の同調・共鳴能力をサポートしているという話になっている。しかし実際にはランダムに数十秒単位位でデータ通信機能が切断・接続を繰り返すような設定がなされているのだ。

 おそらく今までに開発済みのキャンセラーでも日本全国のキャンセラーすべてのデータ通信機能を活性化させれば、妖精世界側のサポートが有るという前提の下で、妖精世界の妖精たちが考えている大脱出計画を実現させることが出来るかもしれない。

 しかしそれでは主導権が妖精世界側に握られてしまう。あくまでも加賀重工という組織としては、人間世界側の技術と魔法のみで、大脱出計画を結果的に成功させたいのだ。後で加賀重工が主導権を握って、妖精世界の妖精たちを囲い込むために。

「はい、美姫さんに珠美香さん、これがふたり用に調整した新しいキャンセラーよ」

「へええ、これが?」

「見た目は今までのものと変わらないんですね」

 詩衣那よりキャンセラーを受け取ったふたりは今までつけていたキャンセラーを取り外すと、美姫は両腕に、珠美香は左右の人差指に新しいキャンセラーを装着した。

「じゃあ、さっそく、調子を見てみようか。あ、それから海斗君、新しいキャンセラーのことを妖精世界側に伝えておいてくれないかな。それと先日、向こう側に召喚してもらった例のアレがちゃんと使えているかどうかも聞いておいてくれるとありがたいね」

 剣持主任はこぼれそうな笑顔でそう言うのだった。



 さて場面は切り替わり、ここは多元世界にある異世界のひとつ、妖精世界に残された唯一の大国である秋津島の皇都天那、その中心にある宮殿である。そこでは今、女皇ディアナ臨席の御前会議が開かれていた。

「それでは、珠美香さんと美姫さんによる魔法の同調・共鳴能力は、キャンセラーのデータ通信機能の強化により、安定的に発現できるようになったということですか?」

「はい、海斗さんからの報告ではそうなっています。いままではふたりの間で魔力の同調・共鳴状態が出来たと思ったら、すぐにその状態が切れてしまい安定化しないという話でしたが、新型のキャンセラーを使うとそれが解消し、安定的に魔力の同調・共鳴状態が維持できるようになったということでした」

 女大魔導師と呼ばれるエラの質問に、人間の女性の姿となったアヒカルが答える。現時点で人間世界側と妖精世界側をつなぐ情報の伝達経路は、アヒカルと海斗に委ねられている。

「……エルフィン皇女、指定された時間において、珠美香さんと美姫さんの気配を感じ取れましたか?」

 海斗の言葉をしばし吟味していたエラは、ふと思いついたとばかりの雰囲気で、エルフィンに尋ねた。

「エラ様、残念ながら明確にその気配を感じることはできませんでしたが、なにかこう、もやもやとしたじれったいような感触はありましたが……。申し訳ありません」

 大脱出計画が現状でとん挫しているのは自分のせいであると思っているエルフィンは、頭を下げて謝った。人間世界側で良い方向に進展が有ったのに、自分はそれを活かせない現状に自分で自分が許せないのだろう。

「エルフィンよ。気にするなとは言わないが、自分を責めることはよしなさい。気配を感じ取れないのは、珠美香さんと美姫さんの魔力の同調・共鳴状態がまだ完全ではないということでしょう」

 娘の様子を見た女皇ディアナは、エルフィンに優しい言葉をかけた。その体が人間になろうとも、娘は娘であるということだ。しかし今では妖精世界すべての妖精たちに責任を負う立場である女皇としての立場も忘れてはいなかった。

「しかし己の魔力を高める努力は常に欠かさないようにしなさい。いつ珠美香さんと美姫さんの気配を感じ取れても良いように」

「……はい、お母様」

 エルフィンは再度、その頭を下げた。

「それはそうとティプファン大臣、人間世界側から提供を受けて召喚した『船』のほうはどうなっていますか?」

 女皇ディアナは、防衛大臣のティプファンに質問をした。

「は、試験運転を済ませた後、北州に上陸した機械群の支配地域へと飛んでみましたところ、『船』は説明通りの性能を発揮したとの報告を受けております」

 さて、いったい『船』とは何のことだろうか? 実は加賀重工にて製造された妖精世界仕様のフェアリードライブ搭載船のことである。例によってその所有権を秋津島皇国に譲渡されたフェアリードライブ搭載船を、エラが召喚したものである。

 美姫たちが使用していたフェアリードライブ搭載実験零号機の外殻は無塗装のアルミ製で銀色に輝いていたが、妖精世界仕様のものは外側一面に太陽電池パネルが貼り付けられており、黒く輝いていた。

 故障した場合の修理は考えられていないので、二重三重どころか、四重五重もの冗長性が実装されているので、その船体は大きい。全長で60mほどもある細長いタマゴ型だ。据え置き型のキャンセラーが複数台ということで計30台も搭載されているのはもちろん、ブースターも正副予備1台ずつが2系統で計6台、そこに予備としてさらにもう1系統が搭載されているので、計9台のブースターが搭載されていることになる。

 緊急用の電源としては燃料電池が用意されており、さらに予備としてガソリンエンジン使用の発電機まで搭載されている。

 さらには長期的な活動を可能とする為に居住性にも配慮がなされており、妖精サイズの居室はもちろん、人間サイズの居室も多数用意されている。汚物処理等に関してはいったんタンクに溜めておき、問題が無い場所で廃棄する予定だ。

 基本的に無補給で3ヶ月から半年は活動できるように設計されているらしい。

 浮上および推進にはブースターで強化された飛行魔法を使用しており、発電機以外のエンジンは何も搭載されていない。基本的にはフェアリードライブのみである。

「この船なら機械たちが支配する大陸の奥地へも安全に赴くことができるでしょう。必ずや機械どもの主人とやらとコンタクトを取って見せましょう」

 自分が作ったわけでもなんでもないのだが、胸を張り自慢をするティプファン大臣。どこの世界でも良いおもちゃを与えられた軍人とはこういうものかもしれない。

「キャンセラーやブースターを開発した剣持道彦さんの話では、機械群は恒星間移民船団の先遣隊ということでした。そして、その主人である異星人ですか。その異星人たちはもうこの世界のすぐそばまで来ている可能性が高いそうです」

 父であるティプファンの言葉を受け、アヒカルが話し出した。

「既に電波を使った交信をしている可能性もあるということですから、まずは金属で出来たお椀型の構造物である巨大なアンテナを目印にして、移民船団本体と交信が可能な通信施設を探してみると良いと聞いています」

 剣持主任とアヒカルは、海斗を通じて間接的に会話を成立させている。たった一つのことをやり取りするのに何日もかかるというわずらわしさはあるものの、会話が全く出来ないのと、少しでも出来るのでは雲泥の差がある。

 それにしてもなぜ剣持主任、ひいては加賀重工は、フェアリードライブ搭載の『船』を気前良く妖精世界側に提供したのであろうか? それは大脱出計画の実施を少しでも遅らせる為である。

 人間世界側とのコンタクトが成立したことにより、機械群の侵略に対し、妖精世界は今までに取ってきた『戦う』、『逃げる』というふたつの選択肢に加え、『交渉する』という新たな選択肢を得ることが出来た。

 機械たちは妖精たちの存在を無視して活動をしていたのだが、そもそも機械たちは植民地建設の為の建設機械にすぎないのであり、妖精たちを認識する機能そのものが付与されていないらしいということが分かってきた。

 しかしその主人たちはどうであろうか。生身の体を持つ宇宙人(?)である異星の知的生命体は、普通に妖精たちと交渉が持てるかもしれない。もちろん言葉とかは全く分からないだろうが、少なくとも『この星には妖精という知的な生命体が存在しているのだ』ということを知らせるくらいなら何とか出来るだろうと推測された。

 あれほどの自動化された機械群を使役する生命体であるならば、通信機も音声だけではなく映像も送ることが出来るだろうから、妖精たちの姿を送信することが出来るかもしれない。

 機械たちはやがて来る主人たちの為に、いつでも使えるように社会的なインフラを建設しているということであるならば、すぐにでも使える通信設備のひとつやふたつは有っても不思議ではないという理屈だ。

 そして妖精たちは大脱出計画の実現にそそぐはずだったもろもろの情熱を、機械たちの主人とコンタクトを取るという新たな選択肢にそそぎ始めたのだった。

 妖精たちも本音では人間世界側に召喚脱出などしたくないのだ。逃げ出さなくてもすむなら、ずっとこの世界に住み続けたいというのが本心である。

 そして結果として大脱出計画の妖精世界側の行動は遅れることになり、その遅れた分の時間は人間世界側において加賀重工が加賀重工主導で大脱出計画を実施する為の準備時間となる。

 加賀重工や剣持主任は、決して善意で妖精世界側に対して援助をしているわけではなかったのだ。



 そして先の御前会議から数日が過ぎた良く晴れた日。『船』は『デウカリオン』と名付けられ、多くの乗組員を乗せて出発しようとしていた。

「エルフィン様っ! なぜここにいるのですかっ!?」

 船に乗り込んで出発を待っていたアヒカルは、自分に割り当てられた船室にエルフィンが乗って来たのをみて、驚きの声を上げた。

「あら、だって身重なアヒカルだって行くんだもの。私が行ってもおかしくはないでしょ?」

 対してエルフィンは、あっけらかんと明るい反応だ。

「私は目的の施設を探す為に、人間世界の海斗さんと連絡を取り続けないといけないので、ここにいるのです。しかし姫様は大脱出計画の要となる大事なお方。敵地である大陸奥地へと向かう船に乗るのは狂気の沙汰ですっ!」

「大丈夫。お母様の許可はもらってるから。嘘だと思うなら確認してみてくれる? それに私だって人間世界の珠美香さんや美姫さんと連絡を取らないといけないんだもの。アヒカルさんが行くところに付いていくのは当然でしょ? この船なら機械たちがいるところに行っても安全だし」

「……しばらくお待ちください。今、確認してきます」

 ディアナ女皇の許可があるという話であるならば、アヒカルがどうこう言えることではない。不承不承ながらもアヒカルは自室にエルフィンを残し、船のブリッジへと向かうのだった。



「いやはや、エルフィン皇女もですが、ディアナ女皇も思い切ったことをされますね」

 船のブリッジにおいて船長でもあるエラがそう嘆息している。先程、宮殿との念話を終えたばかりであるのだが、確かにエルフィン皇女が探査船『デウカリオン』に乗船する許可がディアナ女皇より出ていることが確認されたのだ。

「思い切りが良すぎますよ。もしもエルフィン皇女に何か有ったら、大脱出計画はそこで終了しちゃうということをわかってるんでしょうか? あのじゃじゃ馬皇女は……」

「誰がじゃじゃ馬ですって?」

 ため息をつくアヒカルの背後から、その場のよどんだ雰囲気を吹き飛ばす明るい声が響いた。言わずと知れたエルフィンである。

「私はね、もう後悔するのは嫌なの。今できることをしたいだけ。分かった? じゃあ大陸の奥深く、失われた奥地に向けて出発っ!! 絶対に任務を成功させるわよっ!!」

 そしてエラとアヒカルの口からは、ため息に続いて苦笑と命令を復唱する声が発せられたのだった。

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