兄妖 第17話

            第二地球圏物語 前史

It is historical in front of The second Earth area story

妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール

作:紅衣北人 / ジャージレッド



第17話 夏は水泳、夜のお泊りも良し (後編)


「うわ、お兄ちゃんっ! イルカだ。イルカがいるよっ!」

「うん、イルカがいるか?」

「もう、お兄ちゃんったらバカ言ってないで、見に行こうよ。雄高君も一緒にっ! さ、早く、早く!」

 珠美香は雄高の手を取ると、引っ張るようにして走り出した。

「珠美香ちゃん、ちょっと、イルカは逃げないよっ!」

 女の子に間違えそうなほどかわいい顔の美少年(男の娘?)が、筋肉質の少年の手を取って笑顔で走る姿。そして筋肉質の少年の顔もまんざらではない。……それは一部の高尚な趣味をお持ちになっている女子の方々に、妄想の材料を提供することになったのは間違いないはずだ。

「やれやれ、イルカぐらいではしゃいじゃって大人げない。じゃあ結菜ちゃん、行ってみようか?」

 珠美香や雄高の走り去る姿を見ながら、美姫は、まったくしょうがないなあとばかりに溜息をつくと、手をつないだ先に居る結菜に問いかける。

「……イルカ、怖くない?」

 人形サイズである妖精にとっては、犬や猫といった人間のペットですら猛獣に思えるのだ。結菜にとり水面から顔をのぞかせるイルカはモンスターにも等しい。

「大丈夫、大丈夫。イルカは魚しか食べないし」

「だったら行く!」

「よおし、じゃあ競争だよ。お母さん、飛ぶの早いんだからね」

 美姫はおもむろに結菜の手を放すと、独りで飛んで行ってしまった。残された結菜は大慌てである。

「あ、ちいさいお母さん、待って~~~」

 まったく美姫も大人げない。珠美香のことを言えたものじゃないのであった。

 ちなみにここは日間賀島の西側に広がるサンセットビーチであるが、ここにはイルカが飼育されている生簀があったりする。(※ 浜でのふれあい体験などもあるが、それにはまず講習をうけたりする必要があるので、実際に日間賀島に行ってイルカと交流しようと考えてる人は、まずはネット等で調べてから行くことをお勧めします。)



「海斗さん」

「何ですか夏樹君?」

 美姫と結菜がイルカの生簀のほうへと行ってしまったので、その場に残った妖精は海斗と夏樹だけになってしまった。人間たちと違って妖精は飛べるので、高さにして3メートル程度の空中に静止して羽ばたいている。

「結菜ちゃんって、美姫さんのことを『お母さん』って呼んでますよね。

「ああ、『ちいさいお母さん』って呼んで慕ってるね」

「そして海斗さんのことは『お父さん』って呼んでますよね」

 どこかふてぶてしさを感じさせる表情で質問をする夏樹に対して、海斗は何を考えているのか分からない無表情のまま、夏樹の質問に対する答えを口にした。

「ああ、そうだね。俺は結菜ちゃんから、『お父さん』って、呼ばれている」

「どういうことですか?」

「どういうこととは、どういうことかな?」

「子供がある女性をお母さんと呼び、そしてそのそばにいる男性をお父さんと呼ぶ。この場合、その女性と男性の関係はどのようになっているのでしょうか?」

 質問に対して質問で答える夏樹と、それを受け流すように静かな表情の海斗の間には、晴天にも関わらず嵐の予感がざわめいていた。



 夏樹は、加賀重工航空機製作所開発部新技術研究班、通称【魔法研究所】と呼ばれている組織に所属している妖精、加賀詩衣那に、『長谷川美姫という恋人募集中の女の子の妖精さんがいるんだけど、夏樹君、彼氏候補としてどうかな?』という紹介を受けて、美姫とデートすることになったのが、過去の経緯である。

 美姫が人間であった時は男であったということを聞いた当初は、あまり乗り気ではなかったのだが、その写真を見た瞬間に意見が変わってしまった。

 ひとめぼれだった。

 妖精は男女ともに美人が多い。というか美男美女しかいない。スタイルもバツグンな妖精ばかりである。なぜそうなっているのかということは、現時点では不明なのだが、とにかくそういうことになっている。

 というわけで元々は人間の女の子だった夏樹が、妖精の美少年になってから付き合ってきた妖精の女の子たちは、すべてナイスバディの娘さんばかりだった。ありていに言えば、ボッキュンボンとした体型の、おっぱいが大きくてウェストが細く、そしてヒップが大きめの女の子ばかりだったと言っても過言ではない。

 そう、とにかくおっぱいが大きかったのだ。

 山本夏樹は人間だった頃、正真正銘の女の子だったのだが、男になりたい女の子だった。妖精からの召喚を受けた時、相手が男の妖精であるということを知った途端に召喚に同意したという猛者である。

 その夏樹は、自分が人間の女の子だった頃、自分の胸についているおっぱいが嫌いだった。こんなもの切り取ってしまいたいと常々思っていた。それは女性の象徴であるがゆえに、男になりたい自分はおっぱいを嫌うのだと思っていた。

 だから女の子のような外見の妖精の美少年、男の娘(?)になってからは、普通におっぱいが大きな妖精の女の子たちと付き合ってみたのだが、どうもしっくりと来ず、その関係は長続きしなかった。

 しかし美姫の写真を見て、そのスタイルを確認し、夏樹は確信したのである。『知らなかったっ! 僕は貧乳好きだったのかっ!!』と。

 そう思ってなぜか妖精とはいえ男になった自分が未だに大木南高校の女子寮、桜花寮にて人間の女の子たちと一緒に風呂に入っているのだが、改めてそういう目で女の子たちを観察してみたところ、夏樹の恋心センサーに反応したのは、みんな貧乳の女の子たちばかりだった。

 普通の男性はおっぱいが大好きである。それはもう人類の進化の過程でそのような志向を持つように男の性格が進化してきたのであるから、仕方がないことである。しかし何事にも例外というものは存在する。貧乳好きの男もまた、確かに一定割合で存在するのだ。

 さてでは貧乳のどこが良いのであろうか? 子孫繁栄を願う動物としての本能に従うなら、男はおっぱいの大きな女性を選ぶのが普通である。しかし知っているだろうか? 母乳の出は、貧乳のほうが良いという事実を。むしろ巨乳のほうが母乳の出は少ないという話もある。ならば貧乳を選ぶことこそ、男の本来あるべき姿であるともいえる。

 さらに言うなら貧乳娘さんは、その感度が良いとも言う。さわさわとしたちょっとした刺激でOKである。艶やかな声が聞けるであろう。それはとても良いことである。

 そしてあえて言うなら、意外性の美学であろうか? 人というものは不意打ちに弱い。それは妖精であっても同じである。着衣の状態からするとおっぱいが無いとしか見えない女の子でも、やっぱりその胸を触るとちゃんと柔らかな感触が有るのである。まして脱いだら、小さいからこその自己主張という面があることを忘れてはいけない。

 無いと思っていたら有る。その意外性こそが男心を刺激するのだ。

 もしもあなたがまだ若く初々しい男性であるならば、初めて女の子の手を握った時の、その手の柔らかさを思い出して欲しい。手を握らずともちょっとした拍子に触れ合った手と手の感触を思い出して欲しい。その女の子の手は、それはもう柔らかかったはずだ。

 女の子というものは、手ですらそれほど柔らかいのだ。貧乳とはいえおっぱいである。その柔らかさにかけては手をはるかに上回る。無いと思って触れた貧乳の柔らかさを想像してみよう。イメージしてみよう。実際に触ったことがある人は思い出してみよう。

 巨乳ですら触った時の柔らかさは『こんなにも柔らかいのかっ!』と、意外性のかたまりなのだ。いわんや貧乳の柔らかさという意外性は、巨乳をはるかに凌しのぐのは間違いない。秘密兵器である。

 さらにさらに言うならば、女性にとっておっぱいとはセックスアピールの為の武器である。武器であるからには相手に対して脅威を与えるものなのだ。胸囲だけに……。

 いや、冗談はさておき、ある種の男にとり女性のおっぱいは脅威なのだ。ありていに言えば怖いのだ。負けそうなのである。男である自分の胸は何もない真っ平らなのに、相手の女性には存在感あるおっぱいがついているのだ。これは怖い。

 言ってみれば純情な女性が、戦闘準備が整った男性の股間を見て恐怖を感じるようなものと思えば、その怖さの一端でも理解できるかもしれない。

 しかし男の本能はおっぱいを求める。この葛藤が、武器としてはまだ許容範囲な大きさの貧乳を好きになる心理である。分かる人には分かるはずだ。同志諸君には頑張ってもらいたい。

 さて、話をもどして何度も言うが、女の妖精さんはみんなおっぱいが大きい。その唯一と言ってよい例外が、長谷川美姫なのである。というわけで貧乳好きであることを自覚した夏樹としては、美姫をものにしたい。それはもう絶対の望みである。

 というわけで夏樹は、美姫のことを『ちいさいお母さん』と呼んでいる結菜が『お父さん』と呼ぶ海斗のことを、恋敵であると認識していたのだった。頭の中で心のアラームが鳴り響きっぱなしなのである。



 夏樹の質問を受けた海斗は、『ふーむ』と一呼吸置きながら考え込むポーズを取り、おもむろに返事を言い始めた。

「とある子供が、『お父さん、お母さん』と呼ぶ男女は、普通に考えたら夫婦だろうね」

「……ですよね。で、実際のところはどうなんです?」

 どこか責めるような雰囲気の夏樹である。

「法律上の夫婦かと言えば、そんなことではないし、結菜ちゃんも実子でもなければ養子でもない。単に結菜ちゃんが俺たちのことを『お父さん、お母さん』と呼んでいるだけだ」

 結菜は元人間の妖精の男女の間に生まれた、この世界における生粋の妖精である。しかし結菜の母親は、中国人らしき二人組の男たちに文字通り食べられてしまい、この世を去っている。父親は結菜の記憶にはない。おそらく結菜という子供ができたということすら知らないままなのかもしれない。

 少し前の話。その中国人らしき二人組の男たちに囚われた美姫と海斗そして結菜を、珠美香が召喚魔法で救出しようとした際、召喚魔法発動の条件として【便宜上】美姫と海斗に結婚の宣言をしてもらい、結菜を養子としている。

 しかしそれはあくまでも言葉の上でそう言っただけであり、法的な根拠は何もない。

「では、僕が、美姫さんを口説いても何も問題は無いですね」

 夏樹は、生簀のほうでイルカと戯れる美姫を遠目で見ながら、どこかふてぶてしい感じで言い放つ。

「それはどうかな? 俺だって美姫という存在を必要としていることに変わりはないのは確かなことなんだが……」

「なるほど。それは宣戦布告ととらえておきましょう」

 海斗がもって回った言い回しをしたので夏樹は完全に誤解してしまったのだが、別に海斗は美姫を恋の相手として必要だと言ったわけではない。妖精世界に召喚されている元の自分の体に宿っている自分の本当の子供を、人間世界へと召喚し直す為の召喚魔法発動の条件として美姫が必要だということなのだ。

 正確には妖精世界の妖精たちが計画している大脱出計画を実行する為に、美姫と珠美香のペアが必要だということなのだが。



 さて、そんな元人間の女性だった妖精の男ふたりの拳なきバトルとも言える言葉のジャブでのやり取りを、その斜め後方下でじっと聞いていた集団がいた。言わずとしれた江梨子と早苗、そして蘭華と由美である。

「ひとりの女性を巡っての男同士のけん制のしあいですか。青春ですねえ。はてさて、いったい海斗さんと夏樹さんのどちらが美姫お姉さまのハートを射止めることやら」

 まずは江梨子が、当たり障りのない感想を口にする。もちろんその眼鏡のレンズはキラリンと光っている。なぜなら仕様だからだ。メガネのフレームをくいっと上げる動作がさまになっている。

「でも江梨子ちゃん。美姫お姉さんって、外見が女の子みたいな男の娘妖精さんが好みなんでしょ? もう勝負は決まっているんじゃないかしら?」

 早苗は赤いビキニに包まれきれていない胸を揺らしながら右手の人差指を右頬に当て、首を右に傾げる。あざといポーズであるが、かわいいのでしょうがない。

「早苗ちゃん、それは甘いと言わざるを得ないですね。ええと、蘭華さんに、由美さん。ちょっとお尋ねしますが、夏樹さんって、確か人間の女の子だった頃から男になりたがっていたんですよね?」

「そうなのよ。夏樹ったら、男になりたいあまり、人間やめちゃうんだもの。性格はもう男らしいというか、漢そのものと言っていいんじゃないかな?」

 由美が江梨子の問いに溜息混じりで答えると、蘭華も遠くを見つめるような表情で言い始めた。

「夏樹ちゃんもね、もうすこし恥じらいというものを持ってくれれば美少年として完璧なのにねえ。いくら外見を飾りたてても、見た目が女の子みたいな美少年でも、あの性格のせいで行動がオジサンになってるところがあるんだもの。ほんと残念だわ」

「やっぱりね。その内面を考えたら、海斗さんのほうがよっぽど女性らしさを残している精神的な男の娘という感じかな? というわけで早苗。美姫お姉さまが海斗さんと夏樹さんのどちらを選ぶかは、まだまだ分からないんじゃないかなってところね」

「……江梨子ちゃん、顔が笑ってるんだけど、おもしろがってるでしょ?」

「当然でしょ?」

 胸を張って言い切る江梨子の横では、蘭華と由美も苦笑しながら『うんうん』とうなずいていた。



 さて、それからの一行の動きはどうなったかというと、イルカとの戯れを堪能した後は、お約束のビーチでの水泳と相成ったのだが、まともに泳いでいるのは珠美香と雄高の人間の男性陣ふたりだけで、人間の女性陣は水際でパシャパシャと遊んでいた。

 そして美姫や海斗に結菜、そして夏樹の妖精たち4人はどうしていたかと言うと、波の上を飛んで遊んでいた。自力で空を飛べる妖精ならではの海の楽しみ方である。

「よーし、この辺ならまだ波も静かだしいいかな。じゃあ海斗さんに夏樹君、いくよ~っ! よおーいっ、ドン!!」

 美姫の号令を合図に、海面上10メートル程度まで上昇していたふたりは、大きく羽ばたいて海面に向かってダッシュした。海面が近くなると翼を小さくすぼめて突入態勢を取ると、勢いよく飛び込んだ。既に何回も練習しているので上手いものである。

 ちなみに彼らがしている腕輪型のキャンセラーは防水仕様なので、よほど深い海に潜らない限りは問題ない。

「わあ、すごーいっ!」

 練習の時以上に大きく跳ね上がる水しぶきに驚く結菜。

 待つことしばし十数秒。今度は勢いよくふたりが海面を割り飛び出してくる。人間どころかイルカにだってできない空中ジャンプどころか、空中飛翔だ。空を飛べる妖精ならではだろう。

「さあ、結果はどっちかな!? 早く見せて、見せてっ!!」

 美姫は空中で息を荒げている海斗と夏樹に声をかける。するとまずは夏樹がふらふらと飛びながら、両手で石を抱えて美姫と結菜のもとにやって来た。海斗はその場でうんうん唸りながらホバリングしている。

「はあ、はあ、どうです。美姫さん。なかなかのものでしょう?」

 そう言って夏樹が見せるのは、なんのへんてつもない海底に転がる石ころである。

「うわあ、大きいねえ。重いでしょ?」

 人間なら小さな女の子でも軽く持てる程度の小石なのだが、妖精にしてみたら特大サイズの漬物石くらいと変わらない大きさの石である。美姫はぷるぷると腕を震わせている夏樹を気遣い、心配そうに言う。

「へんっ! これくらいの石、何ともないね」

 顔を赤くして無理をしているのがまるわかりなのだが、夏樹の男心に免じて、美姫はそれには気づかないふりをすることにした。さすがに元は人間の男子であるので、女の子にいいところを見せたい男心というものは理解できる。

「美姫さん、はやく、こっちも確認して欲しいんだけど。ちょっと重くて洒落にならない」

 海斗は、夏樹が持ってきた石よりも更に大きな石を抱えてふらふらと飛んでいた。美姫はその声を聞き慌てて海斗のもとへと行こうとしたのだが、美姫がたどり着く前に海斗は石を落してしまった。

 ちゃぽんと音を立てて海底へと石が沈んでいく。

「お父さん、石、落としちゃったね」

 無邪気な口調で結菜が言う。実はこれが海斗と夏樹の真剣な勝負であるということを理解していないので笑顔がまぶしい。

「はあ、はあ、夏樹君、海の底から拾ってきた石の大きさ勝負では俺の勝ちみたいだな」

「何を寝とぼけたこと言ってるんですか? 美姫さんが確認する前に石を落としちゃったんだから、海斗さんは失格。勝負は僕の勝ちですよ」

 夏樹はふうふうと肩を上下に動かしつつ、息を荒らげながらまくしたてる。 

「ええと、この場合は引き分けで良くない? 夏樹君は大きな石を今もちゃんと持ってる。海斗さんはそれよりももっと大きな石を拾ってきたけど落としちゃった。だから仲良く引き分けということで」

 美姫は、夏樹が海斗にケンカを売りそうな雰囲気を感じ取り、ちょっと弱気な感じでそうとりなした。既に妖精少女となって1年以上。美姫も思考が女性化しつつあるのか、暴力的な争いはちょっと遠慮したいという感覚だ。

「そうはいきませんよ、美姫さん。勝負は勝負ですから」

 しかし夏樹は勝負をうやむやにする気は全くなく、自分が勝ちだと主張する。

「いや、俺は負けでもいいんだけどな。勝負とはいっても、しょせんは遊びだし」

「海斗さん、そんないい加減な勝ち方は僕は嫌ですね。勝ちを譲られたみたいじゃないですか」

 海斗は大人の対応で夏樹に勝ちを譲っているのだが、夏樹としては勝ちを譲られることは侮辱と感じてしまうらしい。そんな状況が見えてきて、美姫としては、夏樹ひとりがヒートアップしているのが分かって来た。

「うーん、遊びの勝負に真剣さを求めた段階で夏樹君の反則負けっ! 異論は認めませんっ!!」

 美姫は自分が妖精の女の子になってから、妖精の男連中が自分に下心的な好意を持っているかどうかということに関して敏感になってきていた。その感覚を信じるなら、夏樹は美姫に対して相当そういった感情を持っているだろうことが推測できた。

 つまり惚れた女の弱みということで、夏樹は美姫の言うことは基本的に素直に聞くだろうと思ったので、ここはひとつ強気でいってみたのだ。

「美姫さん、さすがに夏樹君が反則負けというのは可哀想じゃないのかな?」

 本来は女性であった海斗が、まだ女性的なところが残っている感覚で夏樹を庇うのだが、これがまた夏樹の神経を逆撫でするのだった。好きな女性の前で、他の男に情けをかけられるというのは、男性にとって決して望まれる状況というものではないからだ。

「ふっ、どうやら本当に、真に、絶対的に決着をつけないといけないようですね。いいでしょう。もはやまだるっこしい勝負事は無しです。……美姫さんっ! 僕はあなたに告白しますっ!!」

「えっ!? 告白?」

「……」

 ハイテンションな夏樹に対して、美姫は『突然なに言い出すの?』との思いが強く戸惑いの色を隠せない。そして海斗はというと、夏樹のそんな物言いいに昔の誰かを思い出したのか、あきれを通り越して無表情になり沈黙を守っている。

「そうっ! 告白です。美姫さん、愛してます。結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!!」

「いや、あの、急にそんなことを言われても……。確かに恋人募集中ということで夏樹君との出会いがあったわけだけど、今日を含めてまだ2回しか会っていないのに、いきなり結婚だなんて」

 情熱だけは溢れかえっている夏樹の告白に、美姫は戸惑いというよりも、どこか困ったような雰囲気を漂わせている。美姫としては、人間の男だったときも含めて告白をされたこと自体が未経験なので、まあそんなものである。

「……夏樹君、いきなりそんな告白をしても、美姫さんも困ってしまうだろ? せめて美姫さんのどんなところが気に入ったのかぐらい話してみたらどうなんだ」

 海斗はやれやれと思いながら、数か月前までは女性だった年頃のお姉さんとしての心遣いでアドバイスをしてみると、夏樹はポンと手を打った。

「それもそうですね。ゴホン、では改めて告白します。美姫さん、僕はあなたの……」



 春風荘の女湯に、『かぽーん』と大浴場特有の音が響く。宿泊客である美姫に江梨子、早苗の他に、旅館の娘で若女将である春風蘭華と、なぜか女湯にも関わらず男の夏樹と、そのルームメイトの由美が入浴している。

「うん、間違いなく夏樹が悪い。美姫さんが怒るのも無理はないわね。これはお仕置きしなくてはいけないわね」

 そう言うなり由美は、高校生としてはそれなり以上の大きさのおっぱいの谷間で夏樹を抱きしめた。

「こら、由美、やめろ。その無駄な脂肪のかたまりを押し付けるなっ! いや、だからやめろ。いや、やめてください。お願いしますっ!!」

 由美の柔らかな乳肉の間でもがき苦しむ夏樹。いったい状況はどうなっているのであろうか?

「だ~め♪ ちゃんと美姫さんにあやまらないと許してあげない」

「美姫さんの『ちいさなおっぱいが大好きです』って告白のどこがまずいんだよっ! 僕は悪くない。おっぱいの大きな妖精しかいない現状で、美姫さんの『ちっぱい』は超希少価値の宝物なんだよ。それを褒め称えただけじゃないかっ!! だから僕をその駄肉から離せ。は~な~せ~よ~っ!!」

「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、の、ふっ……。私のこの素敵なおっぱいを駄肉と申しますか? 春風寮長、バトンタッチお願いします」

 由美は、夏樹の体をしっかりと掴んだまま、蘭華へと手渡した。ちなみに由美のおっぱいよりも更におっぱいなのが、蘭華のおっぱいである。蘭華よりも大きいのは、この場では早苗しかいない。

「夏樹ちゃん。女の子に対して、『おっぱいが小さい』っていうのはいつから褒め言葉になったのかしらね。だとしたら私のこのおっぱいは何なのかしら? ちょっと評価してもらえると嬉しいんだけど?」

「うわっ! 寮長っ!! ダメです。やめて、やめて、美姫さん、助けて、助けてくださーーーい」

 蘭華はとても嬉しそうに夏樹を自分の豊満な胸の谷間に誘うと、窒息せよとばかりにそのおっぱいに押し付けたのであった。むにゅんむにゅんと形を変えるその柔肉は、暴れる夏樹をものともせずに包み込んでいた。

「あらあら、おおきなおっぱいが嫌いだなんて言う悪い子は、よぉ~くそこで反省しないとね」

 とても良い笑顔の蘭華。その笑顔はまさにおもちゃを前にした子供のようであった。



「美姫お姉さま、夏樹さまがああ言ってますけど、助けなくていいんですか?」

 江梨子は、さすがに浴場の中ではいつものメガネはしていないが、入浴用に古い予備のメガネをしている。その古いメガネのレンズは湯気で曇ってはいたが、あいかわらずキラリンと光っていた。もうそれが仕様なんだからしょうがない。

「助けなくていい。おっぱいが小さいから好きだなんて、人格を否定するにもほどがあるし」

 大浴槽のすぐ横に置かれた小さめのタライに張られたお湯に浸かりながら、美姫は憮然とした表情をしていた。おっぱいが小さいと言われたこともさることながら、それだから好きだと言われたことのほうに腹が立つという、どうにも納得しかねる感情を持て余していたのだ。

「小さいお母さん、結菜もおっぱいが小さいお母さんが好きだよ」

「そ、そうだね。あ、ははははは、はは……」

 タライのお湯に美姫と一緒に浸かりながら、結菜はキラキラとした目で、そう言った。よくわかっていない結菜の言葉がぐさりと胸に突き刺さる、妖精少女歴1年と3ヶ月程度の美姫であった。

「えーと、私は何も言わないほうがいいのかな?」

 早苗は、微妙に空気を読んだ発言をするのだったが、その胸元には、現有メンバーで最大の戦力を持つおっぱいが鎮座ましまし、ぷっかりぷかぷかと湯船に浮かんでいた。

「あ~、早苗ちゃん、そのおっぱい反則だから」

「よぉ~し、反則なおっぱいは、没収しましょうっ!」

「あ、江梨子ちゃん、ダメ、ああっ……」

 女湯の夜は、まだ始まったばかりだった。



「……ええと、珠美香ちゃん。……女湯って、いつもあんな感じなの?」

 隣の女湯から聞こえてくる嬌声に、お湯以外のものにも、のぼせそうになってきた雄高が、そっと珠美香に聞いてみた。ふたりとも湯に肩まで浸かっているので、大事なところは見えていないのが幸いである。本人たちにとっても、読者の皆様にとっても。

「……そんなことないと思う」

 珠美香の顔が赤いのも、やっぱりお湯だけのせいではなさそうだ。

「不覚だ。あの程度で反応しちゃうだなんて」

 そう言うのは立ち泳ぎのような感じで湯に浸かっている海斗である。空を飛べる妖精なので、お湯の中で足がつかない深さでも大丈夫なのだ。

 ちなみに何が反応しているのかを具体的に書くと伏字になってしまう。というわけで男湯の三人も、それぞれのものがビンビンに反応しちゃって、なかなかお湯の中から上がれない状況であった。

 男湯の夜も、まだ始まったばかりだった。


 その後、一行は島の名物のタコやフグを食して堪能し、男女それぞれ分かれて就寝したのだが、お風呂で聞いた女子連中の嬌声が思い出されて、珠美香と雄高は、眠れぬ夜を過ごしたという。

 のちに、『あの場に海斗さんがいなかったらヤバかった』という発言が有ったそうだが、珠美香と雄高のどちらが言った言葉だったのかは、本人の名誉の為に黙することにしよう。

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