第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第15話 夏は水泳、夜のお泊りも良し (前編)
「ご苦労様。ところで美姫ちゃんに珠美香ちゃん、ふたり宛に春風蘭華さんから手紙が届いているわよ」
美姫と珠美香は妖精世界からもたらされた情報により、珠美香が持つとされる能力である魔力の同調・共鳴能力を発動させる実験していたのだが、実験を終えてロビーにやって来ると加賀詩衣那が声をかけてきた。
人間サイズのテーブルと椅子の上には、なぜか小さな畳が置いてあり、妖精サイズのちゃぶ台がセットされており、そこに詩衣那はいた。
そしてそこには詩衣那の他にも、色々あって長谷川家で引き取ることになった妖精の女の子、老田結菜おいた ゆうなと、彼女と遊んでいる同じく妖精の滝沢海斗がいた。
ふたりとも浅黒い肌をしているので、血がつながっていなくても親子に見えなくもない。海斗に比べて結菜のほうが色がそれほど黒くないので、美姫がふたりの側にいると、美姫と海斗の子供が結菜だと言われても違和感が無いと感じたりする。
「ちいさいお母さん、おかえりなさい。お仕事で疲れちゃった?」
「ぜんぜん疲れてないから大丈夫。結菜ちゃんこそ退屈じゃなかった?」
美姫は飛んできた結菜を胸の辺りで抱きしめると、あまり豊かとはいえない、というかささやかなおっぱいに結菜の顔を押し付けた。精一杯の自己主張であろう。ちなみにそれを見る詩衣那さんは、ほろりと涙している。……かもしれない。
「お父さんや、詩衣那お姉さんに遊んでもらっていたから退屈なんてしなかったよ」
見ると海斗はぐったりとへばっていた。相当、ヘビーな遊び方をしていたに違いない。涼しい顔をしている詩衣那とはえらい違いだ。ちなみに海斗は結菜の本当のお父さんでもなんでもない。単にそう呼ばれているだけである。
「あーあ、なんだかお兄ちゃんって、本当にお母さんしているのね。いっそのこと形だけじゃなくて本当に海斗さんと結婚して結菜ちゃんも養子にして、戸籍上もお母さんになったら良いのに」
なんとなく置いていかれたような気がして、モヤモヤした気持ちの珠美香は、そんなことを言う。
ちなみに美姫は例によって白い【なんとかスーツ】のようなものを着ているのだが、今日は珠美香も同じく、青紫色のそれを着用していた。股間がすこしもっこりしているのが気になるのか、若干もじもじしているように感じられる。
「えっ!?」
美姫は驚いた顔をすると、呆ほうけたように珠美香の顔を見て、その後、へばって座り込んでいる海斗の顔を見た。そしてゆっくりと珠美香のほうに顔を戻すと、顔を横に振ると同時に右手を顔の前に持ってきて、ナイナイと小さく横に振った。
「いや、結菜ちゃんはかわいいし、まあ、その、お母さん代わりになってもいいかな? って、思わなくも無いけど、海斗と結婚はちょっと無理なんじゃないかな」
「ああ、そういえばお兄ちゃんの好みの男性って、外見が女の子にしか見えないような男の娘が好みだっていってたものね。例の山本夏樹さんみたいな」
「……ちいさいお母さん、お父さんのこと嫌いなの?」
美姫と珠美香の会話を聞いて、結菜が少し泣きそうな顔と声をしながら美姫に質問した。下から見上げる結菜の顔は、美姫の母性本能をダイレクトに刺激した。
「ぐはっ! そ、そんなことないから。お母さん、ちゃんとお父さんと仲良しだからっ!!」
結菜を抱き抱えたまま、美姫は海斗のもとへと降り立つと結菜をを畳の上に降ろし、今度は海斗に抱きついた。なんとなく口の端がつり上がり、ピクピクと震えているような気もするが、そこは突っ込まないであげよう。
「え、何!? どうなってるの?」
疲れてへばっていた為に美姫たちの会話を聞いていなかった海斗は、状況が分からずに混乱している。
そんな海斗に対して美姫は、『ほらっ、こんなに仲良しっ♪』とか言いながら、海斗の頬に自分の頬を合わせてすりすりしたり、手を取って両手で握手してぶんぶんと上下に降ったりしている。
横で見ている珠美香や加賀詩衣那も、苦笑を禁じ得ない。吹き出しそうになるのをこらえているから腹筋がぷるぷる震えて苦しくてしょうがない。
「うん、わかったっ! やっぱりちいさいお母さんとお父さんは仲良しなんだねっ!!」
納得したのか、ようやく結菜の顔が笑顔に戻る。それを見て美姫はホッとすると同時に、こうなった発端の一言を言った珠美香を軽く睨み付ける。珠美香も手を合わせて、『ごめん♪』と、苦笑した。
「さて、話が治まったところで、この手紙、春風蘭華さんからの招待状らしいわよ」
「蘭華さんって、例の男の娘妖精の夏樹君が通っている高校の寮の寮長さんでしたよね」
美姫が記憶を探って、思い出すように言った。
「そうよ。その夏樹君と美姫ちゃんがデートしたときに、夏樹君のキャンセラーに盗聴器を仕込んでたことが原因で、とんでもないことになっちゃったということを、ものすごく気にしているの。そのお詫びということで彼女の実家である日間賀島の旅館への招待状よ。もちろん宿泊と食事代は向こう持ちらしいから、楽しんで来たらいいんじゃないかしら」
「そういえば蘭華さんって、お父さんが島の観光協会の会長さんだって言ってたっけ」
珠美香も手を打ち、そして手紙を受け取った。日間賀島、それは愛知県は三河湾に浮かぶ、観光と漁業の島である。春風蘭華はそこの旅館の娘であり、対岸である知多半島にある大木南高校に進学していた。そしてそこで桜花寮という名の女子寮の寮長を務めていたのであった。
手紙の中には、今回の騒動の原因を作ったことが親にバレて、相当の大目玉をくらったことと、その件でお詫びをしたいから、関係者全員を実家の春風荘に無料招待するという旨の内容が書かれていた。但し日程は指定されており、海開き後の最初の土日、7月4~5日と、まだ夏休みに入る前の比較的お客さんが居ない時期となっていた。
「でもキャンセラーに盗聴器が仕込んであったのって、蘭華さんが注文したからじゃなくて、もともと内蔵されていた仕様なんでしょ。いいのかな?」
疑問を言う珠美香。そういえばと、うなずく美姫。遠慮の塊である。
「ここで美姫ちゃんや珠美香ちゃんが蘭華さんの招待をそんな理由で断ったら、キャンセラーのすべてに盗聴器が内蔵されているってことが世間にバレちゃうじゃないの。ここは素直に招待を受けてきてくれないかな。研究所を助けると思って」
加賀詩衣那は、加賀重工の会長の孫娘である。確かに加賀重工航空機制作所開発部新技術研究班、通称魔法研究所を何百分の一程度はしょって立っている妖精かもしれない。その詩衣那が言うのであるから、なかなか断るというわけにもいかない。
「そうですか。じゃあ、行こうか、珠美香」
「うーん、それは良いけど、関係者全員って、どこまでが関係者なのかな?」
「特に指定はないけど、男女別々にそれぞれ4人部屋をひとつずつ、計8人までと聞いてるわよ。まああくまでも人間換算だから、妖精が混ざった段階で人数は少々変動しても良いみたいだけど」
働いている(?)会社からのある意味命令ということでもあり、既に乗り気になっている美姫と珠美香に詩衣那が説明する。
「じゃあ、メンバーは後で検討して伝えておきます」
美姫がそう答えたところで、剣持主任がやって来た。
「やあ、ご苦労様だったね。とりあえず、美姫君と珠美香君の間だけで、キャンセラーのデータ通信機能を活性化しているけど、一筋縄ではふたりの間に、妖精世界の妖精たちが言うところの魔力の同調・共鳴という状態が起きないねえ」
剣持主任は入ってくるなり、なにやら手持ちのタブレットを操作しつつデータを見ながらそう言った。
「あの時と何が違うんでしょうか?」
美姫が囚われていた時に珠美香が発動させた召喚魔法で美姫や海斗、それに結菜を救出した時のことを思い出しながら珠美香が言う。
「それはまああの時は日本全国のキャンセラーを活性化させたからね。数十万のキャンセラーがデータ連動して作動したのと比べたら酷だよ」
ははは、と笑いながらそう答える剣持主任。
「そうですか。まあ、そうなんでしょうね」
珠美香はそう言うと、自分の両手それぞれの人差指にはめられたキャンセラーを見てみる。そこには妖精サイズなら腕輪となるキャンセラーが、指輪としてはまっていた。
「とりあえずふたりのキャンセラーはデータ通信機能を常に活性化しておくから、珠美香君は、常日頃から同調・共鳴能力とやらを発動できるように頑張ってみてくれ。とりあえずこれができないことには話は始まらないからね」
既に海斗からもたらされた妖精世界の大脱出計画は彼らの知るところとなり、加賀重工ではそれを全面的にバックアップすることを決定している。
最初はなぜ勝手に体を入れ替える暴挙をしてくるような妖精たちを助けなくてはならないのかと、疑問に思っていた珠美香たちだった。しかし妖精世界の妖精たちをこの世界に召喚すれば、元の体に戻れるかもしれないという可能性があるという話を聞き、協力する気になっている。
「珠美香、とりあえず頑張ってね。同調・共鳴能力っていうのは珠美香が持っているっていう話だし」
美姫も人間に戻りたくないかといえばそんなことは無いのだが、最近は結菜の影響もあり、『別に妖精のままでもいいかな?』と、思う気が無いかと言えば嘘になる。
しかし珠美香や美姫は知らない。美姫と珠美香のそれぞれのキャンセラーは常にデータ通信機能が活性化されているという話だが、それは嘘だということを。
加賀重工会長の加賀光政は、妖精たち主導での大脱出計画の成功ではなく、加賀重工が大脱出計画を主導することによって、その後の利益を独占しようと考えていた。
そこで珠美香と美姫の間で魔力の同調・共鳴現象が起きないように、ふたりのキャンセラーのデータ通信機能は、わざと数十秒単位でランダムに接続が瞬間的に切断と接続を繰り返す設定がなされていたのだ。
珠美香が同調・共鳴能力をすぐに使えてしまっては、妖精たち主導のままで妖精の大脱出計画が実現されてしまう。それでは加賀重工が妖精たちを囲い込んで、魔法技術を産業に応用した魔法革命による利益を独占できなくなる。
というわけで研究所側が、妖精世界を出し抜くための技術なり方法なりを発見し確立するまで、珠美香が美姫との同調・共鳴状態になることができないように細工がなされているというわけだ。
人は善意で動くこともあるが、組織は善意では動かず、利益でのみ動く場合のほうが多いということである。
「剣持主任、では妖精世界側には、今日も珠美香さんは美姫さんとの同調・共鳴能力を発動できなかったと説明しておきます」
「ああ、海斗君、悪いね。向こうの妖精たちの期待に応えられなくて」
「いえ、それよりも彼らから剣持主任の意見を聞きたいという質問が来ているんですが、いいですか?」
「はて、どんな質問なんだろう。キャンセラーやブースターの作動原理についてなら答えられないよ。僕だって分かっていないんだからね」
「ええ、それは分かってます。質問というのは、妖精世界を侵略しているロボットたちのことです。妖精たちは『機械たちは星の世界から降って来た』って言ってるんですけど、剣持主任はロボットたちの正体をどう考えているのか意見を聞いてみたいって言うんですよ」
海斗は、妖精世界にいる今の海斗の妖精の体の本来の持ち主で今は元の海斗(汐海)の体をしているアヒカルとは、夢幻界を通じて連絡を取り合っているので、時々こんな質問の仲介をしたりしている。
「ああ、そんなことか。たぶん、恒星間移民船団の先遣隊だろうね」
「へ? なんですか、それ?」
海斗だけではなく、美姫や珠美香も【?マーク】を飛ばしている。そんな彼らに剣持主任が語ったのは以下のようなものだった。
恒星間を移民をしようと考えた場合、光速度を超える手段を考えない限り、移民船団は数十年どころか数百年もの時間を使って世代交代をしながらゆっくりと恒星間を渡ってくる場合があると考えられる。
しかし移民船団が目的の恒星系の惑星に到着してから色々な設備や産業的、社会的なインフラを整備し始めていては、遅いし効率が悪い。
そこで移民船団よりもちょっとだけ多く加速して、ちょっとだけ早く目的地に到着する先遣隊を送るという方法が考えられる。
そして先遣隊は移民船団の本体が到着するまでの間に、移民船団に乗っている人たちが十分に暮らせるだけの食糧や様々な物資を生産できる産業基盤と生活の為の社会インフラを作っておくことになる。
さて、その先遣隊だが自己増殖機能、つまりは自分で自分と同じものを製造できる自立型のロボットで構成しておくと、先遣隊の規模そのものが小さく済んで経済的である。
目的地の惑星に着いた先遣隊のロボットたちは、まずは資源探査と採掘をする。得た資源を使って様々な製造工場を作る。そしてその工場で新たなロボットたちを製造し、増えたロボットたちは別な地域へと移動し、さらに増殖する。
そして十分に増殖したロボットたちは移民船団が到着する前までに、主人たちである知的生命体の為に必要な衣食住を整えるための生産設備などを作り始めることになる。
ちなみになぜ【移民船】ではなく【移民船団】といえるのかと言うと、妖精世界におけるロボットたちの支配地域の広さから考えて、種族をあげて億単位の移民としか思えないので、移民船団であると判断できる。
「というわけで海斗君、妖精世界にはあとしばらくすると、ロボットたちの主人である宇宙人たちが大挙してやって来ると推察される。と、彼らに話しておいてくれたまえ」
「……はい」
理解したのかしてないのか、海斗はうなずくしかなかった。しかしこの情報が妖精世界側にもたらされたとき、いったいどのような反応が起きるのであろうか。それはまだ誰にも分からなかった。
そして、翌日の緑ヶ丘高校2年4組の昼休み。例によって例の5人、美姫に珠美香、江梨子に早苗、そして雄高が一緒になって昼食の弁当を広げていた。
「ほほう、それじゃあ男女合わせて4人、4人の、8人までが招待の対象ということですね」
珠美香と美姫から事情を聞いた江梨子は、指折り人数を数えだした。
「まずあの現場にいたのは、珠美香さんと、私と早苗。そして美姫お姉さまですから、男子1名、女子3名ですわね」
「男子が珠美香ちゃんだけっていうのはバランス悪いわよね」
うーん、と考える早苗だったが、その言葉を受けて美姫が、ふと手を叩いた。
「ふふふ、珠美香~~~。そういえば、珠美香が行方不明になったのは、雄高君の家に泊まってたからだったっけ。ということは、雄高君も立派な関係者と言えなくもないんじゃない? ね、雄高君も一緒に旅行に行こうよ」
美姫は珠美香と雄高の顔を見比べながら、ひとりニヤニヤとしつつそう言った。何を考えてニヤニヤしているのか分からないが、腐った妄想ではないことを祈りたいものである。
「え、俺も行ってもいいの?」
「そうねえ。佐藤君が来てくれれば、少しは男女のバランスも良くなるでしょうね。それにネットの情報によれば、春風荘っていう旅館には人工温泉っていうのが有るらしいですから、湯から上がった後で佐藤君にマッサージしてもらったら極楽でしょうね」
と、言いつつ江梨子は若干のしなを作り、色気で誘おうとする。
「あ、ああ。そう言ったことなら任せてもらおうか。極楽でも天国でも行かせてやるから」
雄高は、ほんの少し鼻の下を伸ばしてそう言ったのだが、同席する女子連中も、そして珠美香も、その程度の下心は許容範囲なくらい雄高のマッサージの腕を買っているので、問題なしである。
佐藤雄高。……うらやましい子。
「そういえば、美姫お姉さんが捕まっていた時に知り合って、今、美姫お姉さんのところに転がり込んでいる男の妖精さんが居ましたよね。雄高君が関係者になるなら、その妖精さんも関係者に入れてもいいんじゃないかしら」
大きな胸の前で腕を組み、首を傾げながら発言する早苗。腕を組むことにより、大きな胸がより強調されている。きっと狙ってやっているに違いない。
「ああ、海斗さんのことね。でも海斗さんが来るなら、結菜ちゃんも誘わなきゃダメだね」
「結菜ちゃんって、妖精の女の子でしたよね。あの、お母さんを……」
「おっと、江梨子ちゃん。そこまでっ! 食事中にその話題はやめよう」
江梨子が、『お母さんを中国人らしき人たちに食べられてしまった』と、続けようとしたところを、美姫が危ういところで制止する。確かに弁当を広げながらする話題じゃない。
「ナチュラルに私が男子にカウントされているのは何か悲しいけど、それで女子枠は4名全部埋まったとして、男子枠は3名しか埋まってないわけね。あとひとり、誰かいないかしら」
珠美香がそう言い、一同、うーんと唸りながら考えてみるが、今回の関係者で男子と言えば、美姫のデートの相手で会った男の娘妖精の山本夏樹しかいないので、今回の件ではカウントしようがない。
というわけで、今回の旅行に参加するメンバーは下記のようなものとなった。
女組 1.長谷川美姫(妖精)
2.老田結菜(妖精)
3.水城江梨子(人間)
4.大島早苗(人間)
男組 1.長谷川珠美香(人間)
2.滝沢海斗(妖精)
3.佐藤雄高(人間)
人間組だけで考えると、男女2名ずつの計4名でバランスが取れているのだが、見た目は男子1名に女子3名と見えなくもない。なんともうらやまけしからん話である。もちろん佐藤雄高のことであるが。
そして妖精組を考えると、若い男女のペアに子供がひとり。どう考えても若夫婦とその子供です。本当にありがとうございました。と、しか言いようがない。
はてさて、どうなりますことやら。
さて、日にちは過ぎて、旅行初日の7月4日、土曜日。長谷川家である。
「よし、じゃあそろそろ出かけようか。結菜ちゃん。ちゃんとお母さんと手をつないで飛ばないとだめだからね。約束だよ」
「うん、ちいさいお母さん。結菜、約束する」
「約束、約束♪ 結菜ちゃんはいい子だねぇ~」
美姫もまたどうして、結菜に対してこうもお母さんしているのか、自分でもよく分からないのであるが、結菜の顔を見ていると、こう、ふつふつと有るはずの無かった母性愛が湧き出してくるのであるからしょうがない。
「お父さんとも手をつないで欲しいなあ」
そして海斗は、わざとものすごくうらやましそうな口調でそう言った。滝沢海斗、妖精の男になる前は、汐海という女性で、妊娠初期だった。
しかし色々あって恋人だった相手の男からも、厳格な両親からも堕胎を強要され、『お腹の中の子を助ける為ならば!』と、他人が聞けば何ともとんでもな理由で妖精からの召喚を承諾して、妖精の男になったという、母性愛あふれる妖精なのだ。……男だけど。
「うん、お父さんとも手をつなぐ」
結菜は本当のお父さんを知らない。但し、あの事件の折り、数日をともに暮らしただけの美姫をお母さん、海斗をお父さんと呼ぶようになっている。極限状態に置かれて精神が壊れかけたが故のことだと思われる。
「うーん、お兄ちゃんがお母さんか。うーん、3人がそろっているところを見ると、確かにお母さんなんだけど、どうしても違和感があるわね」
「しょうがないじゃない。私も妖精の女の子になって既に1年以上経つし、精神は体に引きずられて変わっていくのが普通なんだから」
「なるほど、そうなのか」
美姫の会話を聞きながら、海斗は何か納得するものがあったようだ。そしてひとりの人間と、3人の妖精は、長谷川家を出発し、集合地点へと急ぐのだった。
ところで参加メンバーのうち、江梨子と早苗は珠美香と中学が一緒だったということからも分かる通り、長谷川家の近所に住んでいる。海斗と結菜は研究所と長谷川家を行ったり来たりしながら生活しているので、前日は長谷川家に泊まってもらった。
というわけで地域的に離れたところに住んでいるのは、佐藤雄高ただひとりということになる。そこで今回は雄高にご足労願うということで、集合場所は長谷川家から最寄りの名古屋鉄道の駅ということになった。
そこで集合した7人は電車に乗り、河和線の終着駅である河和駅に到着。そこから無料の送迎バスに乗り河和港に行き、定期高速船に乗った。
そして船に乗っている時間そのものは20分ほどなので、船酔いする暇もなく、日間賀島に到着することができた。
日間賀島には西港と東港のふたつの港があり、今回は宿泊予定の春風荘に近いということで西港で船を降りると、そのまま招待先の春風荘に向かう。
それほど歩くまでもなく到着すると、そこに待っていたのは春風蘭華と、男の娘妖精の山本夏樹。そして同じく島の出身者で夏樹とは寮の同室の香山由美だった。
一泊二日の島の生活は、こうして始まったのだった。
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