第二地球圏物語 前史
It is historical in front of The second Earth area story
妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール
作:紅衣北人 / ジャージレッド
第07話 ガールズ(?)トーク
「珠美香ちゃん、おめでとう。男子トイレ初体験クリアだね」
「で、初男子トイレの感想はいかがでしたか」
珠美香と美姫が男子トイレから出てきたら、そこにはニヤニヤ・クスクスと笑う江梨子と早苗がいた。ニヤニヤが江梨子で、クスクスが早苗である。
ちなみに美姫は男子トイレの個室で用を足してきたのだが、特に描写するほどのことはないので割愛させていただくのであしからず。
「さ・い・あ・く」
珠美香の機嫌は悪い。性転換してからはもちろんのこと、人生初の立小便や、それを自分の兄(というかお姉ちゃん)に見られるどころか、ナニにタッチされちゃったりとか、色々と刺激が強すぎたのが大きい。
「珠美香、何事にも初体験っていうのはあるし、初体験では色々とあるもんだけど、やがて慣れちゃうから大丈夫だよ」
美姫は飛びながら珠美香の頭をなでなでする。
「慣れたくない……」
落ち込んだその言葉の雰囲気に、『これはちょっとやり過ぎたかな』と少しだけ反省した美姫は、横にいる江梨子と早苗に軽くうなづいてアイコンタクトを取る。
「珠美香ちゃん、じゃあそろそろ次の授業が始まるから、またね。美姫お姉さんも」
「じゃあ、お昼休みは、また一緒にお弁当を食べましょうか。今日はそちらの教室にお邪魔しますから、待っててくださいね」
そう言うとふたりは、手を軽く振ってから自分たちの教室に戻って行った。そしてふたりを見送った美姫は、まだ落ち込んでいる珠美香の頭を軽く叩いた。
「ほら、いつまでも落ち込まない。事情を知らない新入生が大勢入ってきた段階で、男の珠美香がいつまでも女子トイレに入れるわけがなかったんだからさ」
「うう~~~」
唸るだけで特に返事を返さない珠美香。というか反論してこないということから、珠美香も本当は男子トイレに行かなくてはならないということを理解していることが分かる。
「ま、私たちも教室に戻ろうよ。ほら、チャイムも鳴り出したし。ほら、行くよ!」
というわけで美姫は廊下を走るようなスピードで飛んで行くのだった。そしてそれを追いかけるようにしながら、珠美香は早歩きで教室へと向かった。
ちなみに『廊下を走るな』と張り紙はしてあるが、『廊下を飛ぶな』とは張り紙されていないのは言うまでもない。
「ぐう~~~~、きゅるるるる~~~~」
昼休み、美姫のお腹は盛大な悲鳴をあげていた。妖精サイズの体のどこからそんなにも大きな音が鳴るのか不思議な程である。
「珠美香ぁ~~~、江梨子ちゃんと早苗ちゃん遅すぎるよ。待ってないで、もう先に食べちゃおうよ」
「却下! 私のカバンの中に入っていたお弁当だから、私の許可なしでは食べちゃダメ」
実は美姫の弁当は、珠美香のカバンの中にこっそりと入れられていたのだった。重さを調整する為に美姫の弁当や水筒の代わりに珠美香の古典の辞書がカバンから出されていたことを、かなり根に持っている。
辞書を忘れたということで、古典の定年間近な女教師に相当怒られたからだ。
「ごめんなさい。勝手に辞書を出して私のお弁当を入れておいたのは悪かったと思っているから、だからもう食べようよぉ」
美姫は胸の前で手を組み、瞳をうるうるとさせながらもの悲しそうな顔をする。かわいい妖精への耐性が無い者に対しては破壊力抜群で、美姫の言うことならなんでも聞いてあげちゃおうという気になるところだが、あいにくと妖精少女化した兄である美姫こと幹也との付き合いも既に1年。珠美香の耐性はMaxにまで強化されていた。
「ダメなものはダメです。みんなで一緒に食べると約束したんだから、ふたりを待ってからです」
「え~ん、江梨子ちゃん、早苗ちゃん、早く来てよぉ~~」
美姫のその心からの叫びが聞こえたのか、ちょうどその時、当のふたりが2年4組の教室のドアを開けて入ってきた。
「おじゃましまーす。珠美香ちゃんに美姫お姉さん、一緒にお弁当食べに来たよ」
「こんにちは。遅くなってごめんなさい。お弁当は持ってきていたんですけど、せっかく美姫お姉さんとも一緒に食べるんですから、デザートとかもあったほうが良いかなと思いまして、売店に寄ってきてたんですよ」
ふたりは珠美香が座る窓際の席までやって来ると、学食へと食べに行った生徒の空いた机と椅子を寄せて自分たちが座る席を確保する。
「そんなことに気を使わなくてもいいのに。お兄ちゃんなら適当に余ったパセリとか食べさせておけばいいから。ね、お兄ちゃん」
「パセリって……、珠美香、それはあんまりだよ。お姉ちゃん泣いちゃうよ」
「もう泣いていたくせに、それ以上どう泣くっていうのよ」
取り付く島もない珠美香。美姫は涙目さらに増量である。
「とにかく早く食べましょうか。少し遅くなりましたし」
「よーし、食べよう、食べよう」
「しょうがないわねえ。ハイ、お兄ちゃん、お弁当」
珠美香はカバンから美姫の分と、自分の分のお弁当と水筒を取り出すと、それぞれの机の上に置いた。
「だから、お姉ちゃんだって言ってるのに。……ありがと」
呼び名に文句を言いつつも、お弁当を渡してくれたことに礼を言う美姫。色んな意味で律儀だ。
「じゃあ、いただきます」
「「「いただきまーす」」」
江梨子に続いて残りの3人が唱和し、少女2人に妖精少女1人、そして男の娘1人のお弁当タイムが始まった。
「……美姫お姉さま、それにしても大きなお弁当ですね。妖精の体との対比感が半端ないというか、妖精は体の大きさの割にたくさん食べるとは聞いてましたが、見ると聞くでは大違いですね」
江梨子が半ばあきれながら、美姫とその弁当箱とを見比べる。なにせ身長が25cm程度しかないのに、美姫の弁当箱は幼稚園児が普通に持ってくるような大きさなのだ。下手すると少食な女の子が食べる量よりも多いくらいの食べ物が詰まっているのではなかろうか。
「そうかなあ、妖精だったらこれぐらい誰でも平気で食べちゃうよ。男の妖精だったら自分の体重の倍以上の量を食べちゃうことだってあるんだから」
「倍!? いったい物理法則はどこに行ったんでしょう」
あきれる江梨子を尻目に、美姫が、じゅるりとよだれを垂らしながら弁当箱の蓋を開けると、そこにはかわいらしさ全開のキラキラとしたお弁当ワールドが広がっていた。キャラ弁というほどではないが、ウィンナーでタコやカニが作られているのは基本。当然人参は星型にカットされているし、メインとしておにぎりとノリでパンダが形作られている。
「え、なにこれ。私のとずいぶん違うけど……。お母さんったら何考えているのよ!?」
珠美香は自分の弁当との違いを見て、声をあげる。珠美香の弁当箱の中身は、かわいらしさの欠片も無い『栄養が摂れればいいんでしょ?』といった実用重視の内容になっていた。というか自分がまだ正真正銘の女の子だった頃を思い出しても、キャラ弁を作ってもらった記憶が無い。
「いわゆる、男の弁当と女の子の弁当の違い、でしょうね」
「珠美香ちゃん、かわいそう。かわいい男の娘なんだから、美姫お姉さんと同じが良いわよね?」
「ああ、母さんが、『今日の美姫ちゃんのお弁当は特別よ♪』って言ってたのはこのことか。えっと、珠美香もこんなキャラ弁が良かったのか? なんだったら交換しようか?」
「別にいいわよ。交換なんかしてくれなくても。まったく、お母さんったら」
珠美香の本心としては、別にキャラ弁自体が欲しいわけではない。飾り気のない男の弁当でも大満足であるのだが、元兄で元男の美姫の弁当がかわいらしいキャラ弁で、男の身になっても心は少女である自分の弁当が完全な男の弁当という事実が、なんとなく嫌だったのだ。
「ふ~ん、まっ、いいか。じゃあ食べちゃうぞ」
そういいつつ美姫は、木製の小さなスプーンを左手に、そして同時にフォークを右手に持ち、両刀使いで器用に料理を食べていく。
次々と美姫の口の中に消えていく料理たち。まずはタコさんウィンナーが、あ~んと開けたかわいらしい口の中にもぐもぐと咀嚼されながら飲み込まれていった。そしてパンダの右手を形作る小さなおにぎりが、それこそひょいぱくっという感じで消えていくと、一瞬大きく膨らんだほっぺたがすぐに元の大きさに戻ってしまう。
どんどんと消えていく弁当箱の中身。美姫の食事の様子を見て、しばし絶句する江梨子と早苗。話には聞いてはいるし、テレビで妖精が食事をする光景を見てもいる。しかし【妖精サイズの体に対して、あきらかに異常な量の食べ物】が目の前で美姫の口の中に消えていくのを実際に見てみるのとは、わけが違う。
「あの、美姫お姉さま、もしもよろしければちょっとお腹を触らせてもらってもよろしいですか」
美姫の弁当の大半がそのお腹の中に消えた頃、意を決したような真剣な面持ちで江梨子が美姫に声をかけた。メガネの奥に輝く目は、好奇心でキラキラと光っている。
「お腹? べつにいいけど」
「では失礼して……」
江梨子はそっと手を伸ばし、美姫のお腹をふにふにと触る。
「あんまり膨らんでいないですね。むしろぺったんこと言ってもいいかも」
「私も触りたい! 美姫お姉さんのお腹~~~、ぷにっとなって、……本当っ! ぷっくりしてない!?」
「ちょ、あんまり押さないで。く、くすぐったいから、あははははは」
美姫のお腹を触って驚く江梨子と早苗。ハッキリ言って美姫が食べている量とお腹の膨らみ具合のバランスが取れていない。まさにイリュージョンである。そして触られている美姫は身をよじらせながら笑っている。
「あん、だめだよ、そこは……、うっ、あん、そこはお腹じゃなくて……」
調子に乗って美姫の薄い胸まで触り出す早苗ちゃん。もちろん女の子同士の胸タッチは犯罪でもなんでもなく、たんなるコミュニケーションであるのは言うまでもない。
机の上でよがってしまう美姫。スカートが乱れ、その奥に鎮座する何かが見えたり見えなかったり、少々上気して赤く染まった顔の、嫌そうな、それでいて嬉しそうな表情。
ちなみにそんな姿を美姫の後ろの席で、たった一人で弁当を食べていた佐藤雄高は見逃さなかった。そして「ごちそうさま」と合掌をする。何に対して「ごちそうさま」だったのかは、追及しないのが良いのだろう。
「ま、私にしてみたら、考えられないほどの量を食べるお兄ちゃんの姿を見るのは、見慣れたいつもの普通の光景だけどね」
美姫の乱れる姿にも全く反応せず、珠美香は黙々と弁当を食べていく。小さな妖精サイズの美姫がそのサイズから考えると異常な量の食べ物を食べていく様を見ても、まったく動揺しない。さすが家族である。
「もうっ! どさくさに紛れて変なところ触らないでよ」
「ごめんなさい。美姫お姉さん。でも、なんだか喜んでいたようにも感じたし……」
「というか、絶対に感じてましたよね」
「……まあ、少しは。だって、妖精の皮膚って人間に比べたら薄くて敏感なんだよ」
「お兄ちゃん、頼むから、変態さんにはならないでね」
そんな会話がなされつつ、食事が再開され、残っていた食べ物がすべて片付いた。
「はい、完食♪ それで、デザートって何かな?」
「とりあえずプリンを買ってきましたけど、足りますでしょうか……」
「やったーっ! プリン♪ プリン♪」
「はあ、美姫お姉さんって、かわい過ぎ」
嬉々として右手にスプーンを持ち、まるで大きなバケツからプリンを食べるような様子を見せる美姫。
「お兄ちゃん、いまさらだけど、食べ過ぎて豚になっても知らないわよ」
「大丈夫。ほら、おなかも全然出てないし。スカートも全然きつくなってないから」
「本当に不思議ですよね。妖精の胃袋っていったいどういう構造になっているのかしら」
「うーん、謎の妖精胃袋?」
江梨子の疑問に、適当な返事をする早苗。
「そんなんじゃないって。私も詳しくは知らないけど、妖精の体って、見えてるこの体だけが本体ってわけじゃないんだって。ね、珠美香も前に研究所で聞いたでしょ」
「確か、【妖精の体は亜空間的に折りたたまれている】ってやつ?」
「そうそう、それ」
「え、亜空間的に折りたたまれているって、どういうことなんですか?」
キラリンとメガネを光らせつつ、江梨子が素早く反応する。
「あくまでもそうじゃないかなってだけで、正式に認められた考え方じゃないんだけど……」
そういいつつ、美姫は自分が知っていることを話し始めた。
妖精に関しては、当初から生物学的におかしい。とか、物理的にありえない。といった現象がいくつも確認されていたが、その中の一つが、一度に食べる量としては、明らかに体の大きさに対して食べる量が多過ぎるということだった。
妖精は体のサイズが小さいので、体温維持の為にたくさん食べるのだろうと言う人もいたが、ハムスターのように、一日をかけて四六時中少しづつ食べている小さな哺乳類と違って、妖精は【一度にドーンと、ありえない量】を食べるのだ。
それでいて外見上お腹が膨れた様子は無い。
いったいどうなっているのかと色々と議論があったが結局のところ結論は出ず、オカルトな意見ながらもなんとなく納得できそうなのが、【妖精の体は亜空間的に折りたたまれている】という意見だった。
つまり妖精の本体は、実際に見えるだけではなく、亜空間に見えないもう一つの体が存在し、両者が亜空間的に折りたたまれ同時に存在しているというものだ。
分かりにくければ次のような理解をしても良い。パソコンに例えるなら妖精の今見えている体は、単にモニターとキーボードにマウスだけであり、PC本体そのものは有線もしくは無線で繋がった別な場所にあるということだ。
というわけで、妖精は亜空間にも体があり、その体は妖精サイズよりもずっと大きく、胃袋もその体のほうと繋がっているのではないかというのだ。まったくもって証明も何もできないのだが、もはやそう考えるしかないということらしい。
「へえ、不思議ですね。亜空間的に折りたたまれている。……ですか」
何やら難しそうな顔をして考え込みだしてしまった江梨子。どうやら自分だけの世界にトリップしてしまったらしい。
「また、江梨子ちゃんの悪い癖がでた。そんな難しく考えなくても、美姫お姉さんはたくさん食べる大食い妖精さんってことでいいじゃない。ね、美姫お姉さん」
「大食い妖精って、……まあ、その通りなんだけど」
「お兄ちゃん、もしかしてショック受けてる?」
「あ、ごめんなさい。美姫お姉さん。そんなつもりじゃなかったの」
「いいって、いいって、特に気にしてないから」
「ありがとう。美姫お姉さん」
ほっとする早苗。大きな、そして柔らかそうな胸を撫で下ろす。
「あ、今、ふと疑問に思ったんですけど、食べる量がこんなにも多いということは、もしかして出る量もそれなりなんでしょうか?」
トリップから戻って来た江梨子が、食事中の話題としてはふさわしからぬ質問を投げ掛けてきた。一瞬、その場の空気が固まる。ストロー式の水筒からお茶を飲んでいた美姫の口から、だらりとお茶がこぼれてしまう。
「そういえば、お兄ちゃんが妖精になってからもう1年になるけど、私も知らない。で、どうなの?」
「珠美香ちゃんに、江梨子ちゃん、そんなこと聞いちゃダメだよ。かわいい妖精さんは、う●ちなんかしないってことでいいじゃない」
「でも早苗、真実は追求しないと。というわけで美姫お姉さま、真実はどうなっているんですか?」
江梨子は右手を握りマイクを持ったジェスチャーをしつつ、その手を美姫の口元に持っていく。
「ええと、その、……乙女の秘密?」
答えていないのに答えたと同然という回答もまた珍しい。と、一同は思うのであった。そしてその場の話題は次々と移り変わっていった。
「じゃあ、乙女な美姫お姉さんに質問ですけど、自分はもう完全に女の子だって意識なんですよね」
「そうそう。人間から妖精になっちゃうと、性別の変化くらい何でもないって感じになっちゃってね、女の子の服を着るのも特に抵抗なかったかな。あくまでも妖精の服って意識だったし」
「興味深い話ですね」
「ふん、単にお兄ちゃんが単純だっただけなんじゃないの?」
「もう、珠美香もいい加減、自分は男だって自覚しようよ」
「私はお兄ちゃんほど、単純じゃないからダメ」
「ねえねえねえ、それじゃあさあ、美姫お姉さんて、恋愛対象も男の子ってことなんですか?」
「おお、今、それを聞きますか。早苗さん。それは私も聞きたいと思っていたことですけど、どうなんですか。美姫お姉さま?」
「妖精の女の子になったばかりの頃は、まだ自分の意識は男の子寄りだったけど、やっぱりね、毎月のお客さんを迎えるようになってからは、完全に自分は女の子だって意識になってきたし……」
「「きたし……?」」
口ごもる美姫に対して、早く続きを話せと促す江梨子と早苗。無関心を装う珠美香も、耳をピクピクとさせている。
ついでに言うなら後ろの席にいる佐藤雄高は、自分の机に顔を伏せ、寝たふりをしながらも興味津々で、美姫たちのガールズ(?)トークに耳を傾けていた。変態さんになるまであと少しである。
「うーん、なんていうかなあ。言いにくいんだけど、月のものの前って、ちょっと興奮するというか、アソコがムズムズするというか、端的に言えばしたくなっちゃうというか……」
「つまり発情すると」
「江梨子ちゃん。露骨過ぎ。ええと、つまり美姫お姉さんはあの日が来る前は、愛が欲しくなるということですね」
「愛じゃなくて、Hでしょ。まったく変態なんだから、お兄ちゃんは」
「だーかーらー、そういう体の造りなんだからしょうがないでしょ。まったく、せっかく恥ずかしいのを我慢して答えてやってるのに」
「ああん、美姫お姉さん、怒らないで。ハイ、プリン♪」
プリプリと怒り出す、美姫をなだめようと、早苗がまだ残っていたプリンをスプーンですくい、美姫の口元へと持っていく。
「あーん、ぱくっ。ん~~~、ありがと。早苗ちゃん」
本当に味わっているのか疑問を感じるほどのスピードでプリンを飲み込む美姫。もう機嫌が良くなったようで、珠美香が言うように美姫は単純なのかもしれない。
「ええと、では美姫お姉さまは、発情すると妖精の男の子の体が欲しくなると、そういうことでよろしいのですね」
早苗に注意された後も、江梨子は露骨な質問を美姫にするのだった。
「いや、単純にそういうわけでも無いんだよね。ほら、一応、私も一年前までは男だったわけで、恋愛対象の相手の姿というか容姿というか、それは女の子なわけ。つまりね、『きれいだなあ』とか、『お近づきになりたいなあ』と思うのは女の子の妖精さんなんだけど、ほら、ええと、女の子同士ではできないでしょ?」
「まあ、できなくはないですけど、普通はしませんね。女の子同士では。で、結局はどういうことなんですか? 美姫お姉さま」
「結論を言うなら……」
「「結論を言うなら?」」
ハモる江梨子と早苗。珠美香は相変わらずだんまりだ。
「女の子みたいにかわいらしい男の子、いわゆる男の娘が好みかなって」
「え、ちょ、ウソ! お兄ちゃん、まさか私のことをそんな目で見てたの! うわっ、変態! 妹をそんな目でみてたなんて、もうお兄ちゃんとは一緒にお風呂入ってあげない!!」
美姫の言葉に過剰に反応する珠美香。「お兄ちゃんの変態! うわー、気持ち悪い」と言いながら騒いでいる。
「こら、珠美香、何を誤解してるのさ。私が好みなのは、妖精の男の娘であって、人間の男の娘じゃないんだからね。そもそも人間サイズのは入らないって」
何がどこに入らないのかということを、ここで言ってはいけないことになっている。
「ええと、珠美香ちゃん。美姫お姉さんのことは置いといて、今、聞き捨てならないことを聞いたんだけど、ちょっと聞いていいかしら?」
「そうそう、私も聞きたいな。詳細な情報を所望します」
「え、何の話?」
「だから、珠美香ちゃんが美姫お姉さんと一緒にお風呂に入っているって話よ。本当なの?」
「ああその話。だって妖精サイズだとお風呂の蓋も開けられないし、色々と困るじゃない。だからお兄ちゃんが妖精になってからは一緒にお風呂に入っているんだけど」
「抵抗感は……、無いわけね。まあ元女の子が女の子の妖精と一緒にお風呂に入る。元男の子の妖精が人間の男の子と一緒にお風呂に入る。問題が無いと言えば無いのかしら」
「でもでも江梨子ちゃん。今は珠美香ちゃんは男の子で、美姫お姉さんは妖精の女の子なんだから、問題有りなんじゃないかしら」
「そうだなあ、私がいつまでも珠美香と一緒にお風呂に入っているから、珠美香も男としての自覚が出てこないのかな?」
悩みだす美姫。
「そんなわけないでしょ。お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうが入るまいが、男の自覚なんて出てきません」
「ほらほら、そんなにカッカしない。あ~あ、それにしてもどこかにいないかな。女の子のようにかわいい妖精の男の娘。そんな男の子がいたらすぐにアタックしちゃうのに」
「結局のところ、容姿に制限は有っても、美姫お姉さまは男の子のほうが好き。ということですね」
「まあ、そういうことになるかな。自分の体が女の子なんだから、自然とそうなるよ」
「私は、そんな変態なことにはならないわよ」
「もう、珠美香ったら、自然の摂理に従おうよ。ほらほら、珠美香だって男の子になってから1年経つんだから、ひとりでしちゃったことぐらいあるでしょ?」
何を、とは、やはりここで言ってはいけないことになっているのは、言うまでもない。
「バ、バカじゃないの。なんてこと言い出すのよ。お兄ちゃん!」
焦る珠美香に、ニヤニヤとする美姫、そしてその様子を見て笑い続ける江梨子と早苗。何でもない一日の何でもない昼食風景であった。
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