兄妖 第06話

  第二地球圏物語 前史

It is historical in front of The second Earth area story

妖精的日常生活 お兄ちゃんはフェアリーガール

作:紅衣北人 / ジャージレッド



第06話 トイレはどっちを使うの?

「いやあ、終わった、終わった。1年ぶりに授業を受けると、なんだか疲れちゃうよね」

 緑ヶ丘高校の女子用制服の背中に空いた小さなスリットから白い羽根を出してパタパタさせながら、兄であったはずの妖精少女が珠美香に話しかけてきた。机の上にふわふわと浮きながら、ぐたーっとしている。

「それって、1年ぶりのせいじゃないと思うんだけど」

 珠美香は、先ほどの授業中の様子を思い出して、やや頭を抱えつつ、そう言った。

「どゆこと?」

「人間サイズのノートや鉛筆を使っていたからじゃないのかな」

 どうにもわかってなさそうな元兄に対して、半ばあきれながら珠美香は先ほどまでの美姫の動きを思い出した。


 
 珠美香が座る席の右隣にある机が美姫の席であるのだが、美姫は椅子ではなく、机そのものの上に立っていた。机の上に立っていても、普通に座る人間の頭の高さまで身長が届かないというのだから、妖精サイズというのは難儀なものである。

 その机の上に普通サイズの教科書とノートを広げ、これまた普通サイズの鉛筆にさらにホルダーをつけて全長を長くしたものに抱き付くようにしながら抱え、そして巨大な筆で大きな書初めをするかのような動きで板書を写していたのだ。

 そんなだから板書を写すだけでも重労働である。これでは疲れないほうがおかしい。

 ちなみに教科書は転入初日の今日、手渡されたものである。というか事前に支給されていたので持ち帰ろうと思えば持ち帰れたのだが、『重くて無理』ということで、今日まで学校に預かってもらっていたものである。

 さて、さらに妖精サイズの約25cmの身長が確保できる視線は机の上に立っていても、前に座る生徒の座高によって簡単にふさがれてしまうのだった。

 というわけで美姫は黒板を見る為にその小さな白い羽根に魔力を通して大きな翼へと変えると、ふわっと浮き上がり、前に座る男子生徒の頭よりもやや上の位置の空中にホバリングすることになる。

 空中に浮いては板書された内容を確認し、「ふむ」とかわいらしくうなずくとまた机の上に着地しては、妖精サイズの体にしては巨大な鉛筆を持って、「うんしょ、うんしょ」と健気にノートをとる。

 大変に、ぷりちーである。いや、運動量が半端なくて疲れそうだ。



 先ほどまでの様子を思い出し、「はぁ~~~~っ」と、ため息を大きくつくと、珠美香は後ろを後ろを向き、美姫の席の後ろに座る男子に声をかけた。

「それはそうと、佐藤君も大変だったでしょ。目の前でうちの兄がチラチラと動いて、邪魔じゃなかった?」

「もう、珠美香。兄じゃなくって、お姉ちゃんだよぉ~。間違えちゃダメ♪」

 空中を横スライドして、珠美香のほっぺたに腰を使ってツンツンとする美姫。ちなみに腕は胸の前できゅっと締め、いやんいやんのポーズをしているのは基本である。

 そんな美姫の主張を無視して、とりあえず手で横に押しやると、珠美香は美姫の後ろに座る佐藤雄高に再度話しかける。

「ごめんなさい。佐藤君。迷惑なら迷惑だって、言ってよね。後できつく叱っておくから」

 肉体は男の体そのものだが、その精神は女性。なおかつ容姿は一見すると可憐な少女にしか見えないのが珠美香である。ストレートでさらさらな髪が、耳を覆う程度の長さで切り揃えられている。肌は健康的な血色の良い白さが眩しい。なのに着ているのは学ラン。

 男子が学ランを着ているだけなのに、なぜか男装の麗人のような妙な色気があるのは、珠美香が元はれっきとした女性だったからだろうか。そんな珠美香のなまめかしくも濡れたくちびるが動くさまを眺めながら、佐藤雄高はハッと我に返った。

「いえ、だ、大丈夫です。チラチラしていても何の問題もないです。むしろ良いものを見させていただきました」

 少々上ずった声を上げる佐藤君。果たして彼は何を見たのか? それはもちろん妖精少女の美姫ちゃんのチラチラである。何がチラチラしていたかと言うと、白だったりピンクだったり、シマシマだったり、時には黒だったり赤だったりするあれである。キャラクターがプリントされているのもアリかもしれない。

 実は美姫ちゃん、舞い上がりホバリングするまでは良いのだが、上半身を前に曲げ、つまりおしりを後ろに突き出す格好でふりふりと右に左にと動いたり、「ふむ」とうなづいた後はすうっと机に着地するのだが、その降下スピードが絶妙なのか、慣性の法則および空気抵抗という物理現象によりスカートが少々全体の降下に置いていかれたりしているのだ。

 早い話が、チラチラと見えちゃったりするのである。

 もちろん佐藤雄高君の名誉の為に言っておくが、見ようとして見ているわけではなく、授業を受けて板書を見ようと前を向いているだけなのに、勝手に見えてしまうだけなので、これは事故である。

 その証拠に、……まだ反応していない。

 うん、セフセフ。

 ただし美姫ちゃん本人は、わかってやっているらしいのでアウトである。痴女もしくは妖精の痴女という意味で痴妖女の称号を与えたいと思う。音声だけ聞くと痴幼女となり、痴女の幼女の意味にも取れるが、どうせ美姫ちゃんは他の一般的な妖精と違って幼児体型なので無問題である。

「だったらいいんだけど」

 なんとなく納得できない違和感を覚えつつも、佐藤君本人がそう言ってるのならいいかと、むりやり納得する珠美香。

「佐藤君だっけ、いつもうちの"弟"がお世話になっています。珠美香の"姉"の長谷川美姫と言います。これからもサービスしちゃうからよろしくお願いね♪」

 机の上に立ったまま後ろの席に向き直り、下から目線で手を軽く振る美姫ちゃん。やはりわかっててチラチラしていたらしいので痴妖女確定、有罪である。

「あ、ありがとうございます。佐藤雄高っていいます。これからもよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる佐藤くん。というわけで前言撤回、こいつも犯罪者予備軍に昇格である。



「珠美香ちゃ~ん。妖精のお姉さんが転入してきたって聞いたから、見に来たわよ」

 さて、唐突というわけでもなく、珠美香がまぎれもない女の子だった頃からの親友である水城江梨子と大島早苗の2人が他のクラスからやってきた。明るく話しかけてきたのは、可愛いもの大好き少女である大島早苗だ。

「お久しぶりです美姫お姉さま。研究所のほうの仕事はもうよろしいのですか」

 対して知的な雰囲気を漂わせ、ブレザーの制服の上に白衣でも着たほうが似合っていそうな理系女子なのが水城江梨子である。キラリンとメガネが輝くのは仕様だそうだ。

「あ、早苗ちゃんに江梨子ちゃん。お久しぶり。また会えてうれしいよ。ええと、研究所のほうの仕事は今は少し暇でね、呼び出しがあった時だけ行けば良いことになっているから大丈夫」

 研究所とは何かというと、電子機器からは妖精に対して悪影響のある何かが出ているらしく、電子機器に近づくと妖精は気分が悪くなったり、最悪気絶したりするのだが、その悪影響が出ないようにする機械、キャンセラーを開発した、加賀重工航空機制作部門に属する研究所のことである。

 かつては長谷川幹也であった少年、長谷川美姫は、世界でも唯一の玉突き召喚事故の当事者の妖精である。その調査の為に研究所に出入りするうちに、キャンセラーに続く妖精の魔法力を増幅させる機械、ブースターの開発に協力する仕事をするようになったというわけである。

 ちなみに珠美香も玉突き召喚事故の当事者であるので、当初は色々と研究所に呼ばれて調べられていたのだが、やはり体は女性から男性に変貌しても、妖精ではなく普通の人間であるということで、今はもう研究所に出入りはしていない。

「そうなんですか。じゃあこれからは時間もできたということでもあるし、学校も学年も一緒になったということで、いつでも会うことができますね」

「2人とも、私に会いに来たんじゃなくて、お兄ちゃんに会いに来たみたいね」

 少々、むくれ気味の珠美香。軽くぷうっとほっぺを膨らませる。その珠美香のほっぺたに対して、「お姉ちゃんだってばぁ~」と、すりすりする美姫。

 そのふたりの姿を斜め後ろから見て、『やっぱ今は男だけど、元は女の子だから、長谷川ってかわいいよな。本物の男の娘だよなあ……。妖精のお姉さんもかわいいし、俺、この席で良かったなあ』などと、佐藤雄高は男女関係的には不毛な妄想を膨らませていたのだった。

「……珠美香ちゃん、ところでトイレに行かない」

 佐藤雄高が発するよこしまなオーラを感じたのか、少々悪寒を感じた早苗は、それを尿意ととらえてトイレに行こうと提案した。

「そうね、行こうかしら」

「じゃあ私も行きましょう。まだもう少し時間が残ってるし。美姫お姉さまもご一緒にどうですか?」

「うん、私もちょうど行きたくなったところだから、行こう行こう♪」

というわけで純粋な女の子2人と、元女の子で今男の子な男の娘(?)1人と、元男の子な妖精少女が1人といった混成チームが、トイレへと旅立ったのであった。



「そういえばうちの学校には妖精専用のトイレなんてありませんけど大丈夫なんですか? もしもおひとりでは難しいということでしたら、お手伝いいたしますけど」

「そういうことなら私がお手伝いする! だって美姫お姉さんってかわいいんだもん」

トイレへ向かう最中に、ふと気がついた江梨子の発言を受け、早苗ちゃんは理由にならない理由をあげてくる。妖精の体をしているとはいえ、長谷川美姫というれっきとした人格を持つ個人を、まるで愛玩動物扱いであるのはいかがなものか。

「あ、それなら大丈夫だから心配しないで。お兄ちゃん、大抵の事はひとりでできるから」

「そうだよ。私にできないことは重い荷物を持ったり運んだりすることぐらいなんだからね。それからお兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんだから♪」

「後学の為に聞いておきたいんですけど、妖精が人間用の普通のトイレで用を足すのって、どうされるんですか」

「江梨子ちゃんたら、えっちい」

「ええと、それについては後ほどということで……」

 知らんぷりを装いつつも、耳はピクピクと聞き耳を立てている周りの生徒たちの様子に気が付いた美姫は、すいっと江梨子の耳元まで飛んで行き口を寄せると、ほんの少し恥ずかしそうにしながらささやいた。

「まったく、何やってるんだか。いい、江梨子ちゃんに早苗ちゃん。お兄ちゃんは、かわいらしい幼児体型の妖精少女にしか見えないけど、中身は幹也っていう名前の男子高校生なんだから油断しちゃダメよ」

 どこかぷりぷりと怒りながら、珠美香は江梨子と早苗にくぎを刺す。

 珠美香はなぜ美姫のことをその容姿に従ってお姉ちゃんと呼ばずに、お兄ちゃんと呼び続けるのか、それには珠美香の歪んだ深層心理がある。

 玉突き召喚事故の影響により少年化してしまった珠美香なのだが、その心は未だに少女のままである。外見上は女の子にしか見えない美しくもかわいい容姿をしている男の娘であるが、付くものは付いている完全な男性であり、女性との間に子供を作ることもできると医者から太鼓判を押されている。

 言わば珠美香は妖精の魔法を原因として性転換してしまったことによる、後天的な性同一性障害者と言えなくもない。普通ならここで体よりも心の性別に合わせて女装して生活し、その後の経過を見て性転換手術も含めた治療方法を模索するということになるのだが、珠美香の場合は少々事情が異なる。

 元々女性として生を受け、女性の肉体を持ち女性として育ってきたのであるから、女装しての生活に違和感を覚えるはずもないだろうということが予想された。ましてや美しくもかわいい男の娘である。

 ならばということで、とりあえず成人するまでは男装(?)してして過ごし、戸籍は女性のままであったとしても男性として生活し、そのまま自己の性別が男性であるということが普通に受け入れられるようになっていたら、その段階で戸籍を男性に変更する。もしもどうしても男性であることが受け入れ難いということになっていれば、その時は改めて通常の性同一性障害に対する治療に切り替えるという手はずになっている。

 そんな事情もあり、珠美香が美姫のことをお兄ちゃんと呼び続けるのは、自分の性別を男性と認めたくない心理の裏返しという側面もある。なかなかに奥が深い?

「わかりました。美姫お姉さま。じゃあ、その件はまた後程ということで」

「了解。じっくりと教えてあげるから」

「ずる~い。私にもおしえて」

「知ったところで面白くも何ともないのに、ふたりとも物好きだこと」

 ちなみにそんな会話の後に、江梨子と早苗に語られた妖精少女が人間用のトイレで致す方法であるが、なんのことはない。単に便器の上まで飛んでいき、そのままホバリング。そして空中でしゃがむ体勢をとりつつスカートを捲り、パンツを下ろす。そしてあとは空中散布、もしくは爆弾投下ということになる。

 もちろん事前にペーパーを用意しておくことを忘れてはいけない。ペーパーホルダーの位置まで移動する間に垂れてしまうのはちょっと避けたいからだ。

 なお、トイレの扉を開け閉めしたり鍵をかけたりするのも、空を飛ぶことができる妖精にとって、慣れれば簡単なことである。猫だって扉を開け閉めしたりできるのだ。人間と同じ知恵を持った妖精にできないはずがない。



 さて、そうこうするうちにトイレの前に到着。まずは江梨子と早苗が連れだって女子トイレに入り、美姫がぱたぱたと緩く羽ばたきながらその後に続く。そして最後に我らが長谷川珠美香が、やはり女子トイレに入ろうと入り口にまでやって来た。

「ちょっと待ったぁ~~~~!!」

 急に大声をあげたのは美姫である。

「こら、珠美香。なんで男のお前が女子トイレに入ろうとするわけ? おかしいでしょ!」

 珠美香の顔の前の空中で手を広げ、女子トイレへの入り口を通せんぼする美姫。何事かと中から戻ってくる江梨子と早苗。女子トイレ入り口は大渋滞である。

「え、だって私、戸籍上は女だし、問題ないでしょ」

「問題おおあり! 確かに戸籍上、珠美香はまだ女だけど、体のほうは完全に男でしょ。それに医者からも成人するまでは男として生活してくださいって言われてるんでしょ。不味いよ。女子トイレに入っちゃ」

「でも、お兄ちゃん、ちょっとその……、男子トイレに入るのって、抵抗感半端ないから。無理よ、そんなの」

 女子トイレに入るのは譲れないと主張する珠美香に対して援軍を求めた美姫は、早苗に話しかけた。

「早苗ちゃんだって嫌だよね。女子トイレに男子が入ってきたら」

「えっと、珠美香ちゃんくらい可愛い男の娘なら大丈夫かな」

「え~~~!? 良いの? 信じられない!! だったら江梨子ちゃん。江梨子ちゃんはどうなの。男の珠美香が女子トイレに入ることについては何とも思わないの?」

 ダメだこりゃと、援軍の要請先を江梨子に切り替える美姫。

「うーん、そうですね。珠美香さんとは長い付き合いですから、私自身は何も思わないんですけど、最近ちょっと生徒会にいる友人から、少々聞き捨てならない情報を聞いてはいるんですよね」

「え、何? 何か問題になっているの?」

 話に食いついてきたのは珠美香である。

「まだ問題ってほどじゃないんだけど、ほら、私たちも進級して下級生が入ってきたでしょ。いままでの生徒たちは珠美香ちゃんのことを知ってるし、慣れているからいいんだけど、下級生の中には事情を知らない人が大勢いるわけよ」

「あ~、なんとなく話は見えてきた。珠美香、やっぱり男子トイレに行かなきゃまずいよ」

「私も。なんとなくわかっちゃった。珠美香ちゃんかわいいから別にいいのに」

「……江梨子ちゃん。続きを聞かせて」

「つまりね、事情を知らない下級生の中からこんな苦情が生徒会に届いているのよ。『なんで男子が女子トイレに入っているんですか。気持ち悪いからやめさせてください』というようなね」

「き、気持ちわるいって、そんな……」

 まさに、床に手を付かんばかりの落ち込みようである。

「珠美香ちゃん、がんばっ! 落ち込んじゃダメだよ」

「ふふふ、珠美香、これはもう男子トイレに入るしかないようだね」

「それは嫌! 恥ずかしいし……」

「だあ~いじょうぶ。まかせなさい。【お兄ちゃん】が、一緒に男子トイレに入ってあげるから♪」

「え、でも、お兄ちゃん、女の子……」

「そう! 私は【お兄ちゃん】だから、男子トイレに入っても、何の問題も無いのです。じゃない? 弟の珠美香君?」

 ドヤ顔の美姫と、それを見ながら苦笑する江梨子と早苗。珠美香だけが、「え? え?」と混乱している。



「ジャーン、やってきました男子トイレ! 男子トイレよ! 男の城よ! はははははっ! 私は帰ってきた!!」

 江梨子と早苗のふたりと別れ、珠美香と美姫は男子トイレへと足を踏み入れた。男子トイレ初体験の珠美香と、約1年ぶりに男子トイレに入る美姫だったが、美姫のテンションが半端ない。そんなにも男子トイレに入るのが嬉しいのだろうか?

「お兄ちゃん、ちょっと、声が大きい」

 美姫のハイテンションにドン引きの珠美香。とにかく目立たないようにと体を縮こめるのだが、美少女と見まごうばかりの学ラン少年と、女子の制服に身を包んだ妖精少女の登場に、トイレ内にいた男子生徒の注目を一身に浴びることになった。

「そう、私はここにいる男子生徒のお兄ちゃんです。こんな姿をしていますけど、1年前までは確かに男子高校生でしたので、男子トイレに入っても何の問題もありません。みなさん、ご安心ください」

 と、言いつつも、なぜか目を光らせて小用中の男子生徒のまさにその部分をガン見する美姫であった。

「ほほう、中々にご立派なものをお持ちですね。ほほほほほ。おや、そちらの方はどうしました。そんなに隠さなくてもよろしいんですよ。いえいえ、今は持ち合わせていませんけど、1年まえまでは見慣れたものでしたから、大丈夫ですよぉ~。おお、勢いが良いですねえ。さすがです。お元気が良いことで。ああん、もう美姫! 美姫!!」

 もしかして興奮しているのか? なぜか最中の男子生徒の様子を見ながら上気させて赤く染まった顔ににやけた笑顔を浮かべながら、空中でもだえる美姫。

「お兄ちゃん! やめて、やめてよ」

 なにかこう、ただならぬ雰囲気が漂いだした男子トイレの中、先ほどまでいた男子生徒たちは用をすますと次々と逃げ出すようにその場を去っていく。みんな頭の中は?マークでいっぱいだ。

「ふむ、みんな出て行ったか。喜べ、珠美香。これで安心しておしっこができるぞ」

 トイレの中にいた男子生徒たちが全員出て行くと、それまでの痴妖女な雰囲気全開だった美姫がまともな顔に戻り、にっこりと珠美香に話しかけた。

「え、もしかして、今の変態な態度って演技だったの?」

「もちろんそうだけど、何か?」

 すまし顔の美姫。

「あ、そうなんだ。とうとう本物の変態さんになったかとばっかり……」

「珠美香、ひどいよ。人間の男のち●ちんなんか見たくないにきまってるでしょ」

「そ、そうよね。び、びっくりしたぁ」

「興味あるのは妖精の男の子のちん●んだけです♪」

「やっぱり、変態さん……」

 ドン引きの珠美香。珠美香の明日はどっちだ。



「ほら、個室に入らない。こっち、こっち、ちゃんと小便器の前に立って。そしてズボンのチャックを下す! 私が見ているからって、恥ずかしがらないの。私は【お兄ちゃん】なんだから、大丈夫」

「え、でもでも、ちょっと、お兄ちゃん。自分で、自分でできるから!」

 いつまでもグズグズしている珠美香に業を煮やした美姫が、ズボンの窓から中に手を突っ込んで、ナニを引っ張り出そうとする。抵抗むなしく、美姫のかわいらしい手がそれに触れたことを感じた瞬間、珠美香は観念した。

 もはやこれまで、と。

「そうそう、ちゃんと外に出したら、もう一歩前に出る。狙いを定めて、括約筋を緩めて、はい、リラックス、リラックス。緊張しているとうまく出てこないからね」

「ちょ、やだ、出る。助けて、お兄ちゃん!!」

「はいはい、大丈夫だからね、シーシーしましょうね」

「あ~~~、出た~~~! お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」



 珠美香、玉突き召喚事故による性転換後初めての立小便であった。

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